大島さんは見れば見るほどかわいい女の子だった。というより、どうして今まであんなにもかわいい女の子を知らなかったのかと自分でも不思議に思うぐらい彼女は目立つ女の子だったし、よく手入れがされているのであろう髪の毛は明るく染められているのに手触りがよさそうだった。そしてそんな女の子が愛嬌のある笑顔でころころと笑うさまはとても可愛らしかったし、男子たちが夢中になるのもうなずける。そして、そんな女の子がいつか和成の隣に立つのだろうとわたしはずっと思っていた。だからこそこんなふうに大島さんに呼び出されることになっても、きっと、ちっとも不自然ではないのだ。それどころか誠実なほうだろう。わざわざ幼馴染に伺いを立てるだなんて、そこらの女の子は絶対にしないだろうに違いない。まあわたし自身もそんなことをする必要はないだろうと思うぐらいだが、彼女からしてみれば、わたしの許可を得る、ということは和成にアタックをするうえで必要なことらしい。


「なまえちゃんはさ、高尾くんのことが好きなの?」
「…単刀直入に聞きますね」
「そりゃそうでしょ!だって、あたしからしてみればなまえちゃんはライバルなんだもん」


自販機で買ってきたのであろう苺ミルクを飲みながらわたしに微笑みかける大島さんはわたしよりもいくらか小さい。というよりなんなんだろうこの子は。男受けする要素をすべて詰め込んだかのような外見をしている上に、飲み物まで苺ミルクなんてもしかするとこの子は爪先まで女子成分で構成されているのかもしれない。
まあそんなことはどうでもいいのである。
それよりもどちらかといえば、こうして昼休みにわたしを呼び出してまで和成とのなにかに対しての許可を得ようとしている彼女との会話をどうしたものかについてわたしは頭を悩ませるべきだと思う。

だからわたしも持っていたカフェオレを飲みながら彼女がどう出るかを伺ったのだが、彼女からしてみれば空気を取り繕うことよりもわたしからイエスかノーかの返事を貰うことのほうが重要らしかった。だからとりあえずわたしが和成とはただの幼馴染でありこれからもその関係性はおそらく変わらないということを告げたのだが、するとなぜか大島さんはにっこりと笑って「よかったぁ」なんて安心したように眉毛を下げた。そのとき彼女のほっぺたにはくっきりとしたえくぼがあって、ぷっくりした唇から八重歯がのぞくのを見て、どこか胸が痛んだような気がしたけれど、それでもその理由はわたしには分からなかった。だからそんな気持ちはどこかへ放り投げてしまったのだが、それでも大島さんはわたしをじっと見据えながらさらに追い打ちをかけるように口を開くのだ。


「分かってるかもしれないけど、あたしは高尾くんが好きなの」
「あーだろうと思いました」
「驚かないんだね」
「今までにも何回かあったからね。和成のことが好きだから和成と仲良くしないでとかそういう系統のことならかなり言われてきましたよ」
「あたしはべつにそんなの言わないよ!ただ、なまえちゃんがもし高尾くんのこと好きなら、正々堂々戦いたいと思ったの」
「わたしと正々堂々戦ったところで、絶対大島さんが勝つじゃないですか」
「やるからには負けないよ。もちろん。そういうつもりで挑むから」


大島さんはくるくると髪を指に絡ませて遊びながら、うっとりとした表情で和成が好きなのだと言った。けれど、もうやめてほしい。どうしてだかわからないけれど、とにかくさっきから気分が悪いのだ。まるで心臓を鷲掴みにされているような、そんな不快感が止まらない。あるいはこれは、違和感だろうか。今まで和成のことをちょっといいなと思うぐらいで好きだと公言する女の子はたくさんいたけれど、それでも本気で好きになるような女の子はそうそういなかったから。そうだとしたらわたしはなんて醜い人間なのだろう。自分に嫌気がさす。男として好きなわけでもなく、ただ幼馴染として大切にしたいだけなのに、それでもわたしは、和成が自分から離れていくのが嫌なのだ。

浅ましい欲だと思う。
そして卑しい人間だとも思う。


「いいんじゃないかな。わたしにできることがあったら、なんでも協力するよ」


だからこそ、そのときのわたしには大島さんの恋心を応援するような言葉を吐くことしかできなかったのである。そしてそんな言葉を吐いたわたしの手を大島さんは嬉しそうに取ってくれたけれど、それでもわたしはその手すらも跳ね除けてしまいたくて、しずかに奥歯を噛みしめてその場を耐えていた。

けれど、いくら耐えてもその不快感は一向に消えてはくれなかった。

(13.1026)


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