和成の隣に立つような女の子は、きっと明るくて可愛くて誰からも愛されるような女の子だろうと思っていた。いつもニコニコ笑っていて一緒にいるだけで心が安らぐような、たくさんの楽しいことを一緒になって共有できるような存在。まるで、和成のような女の子。だけど和成はいつもわたしのことを1番に優先してくれていたから、あまり、和成がだれかと付き合うということがイメージできなかっただけなのだろうと思う。現にわたしは和成の好みのタイプ1つ知らない。いや、わたしのことをそういう対象として見てくれていたということはわたしのような女の子がタイプなのかもしれないけれど、それでもやはりわたしは自分が和成に釣り合うような存在だとは思えない。それにわたしよりも知り合いの多い和成なら、もっともっとかわいくて素敵な存在がいくらだっているんだろうし、わたしを選ぶ必要だってない。

そしてそんなふうに和成を突き放したわたしから、和成は自然と距離を取るようになった。けれどそれは不自然に離されたわけではなく、おそらく、異性同士の幼馴染としてあるべき距離感に戻っただけだ。べつに、悲しくなることじゃあない。

だが、四六時中わたしの近くにいる彼女からしてみれば、それは当事者であるわたし以上に不自然に見えたらしい。


「なまえ、最近高尾くんと喧嘩でもしたの?」
「べつにそういうわけじゃないけど」
「でもあきらかに高尾くんあんたのこと避けてんじゃんか。こんなこと今までになかったでしょ」


ズルズルと音を立てながらジュースを飲む彼女は依然として不服そうな顔をしながらわたしの顔を覗き込むけれど、まさかわたしだって和成がわたしをそういう対象として見ていたからそれを断ったらこうなった、だなんて事の顛末を説明するほど頭が弱いわけじゃあない。そんなことをして和成にどれだけ迷惑がかかるか。きっと今まで浮いた話の1つもなかった和成の失恋話にまわりのやつらはすかさず食いつくだろう。そんなレッテルを和成に張り付けるのはあまりにも忍びない。
だからわたしもお菓子をつまみながら「さあ。幼馴染なんてこんなものでしょ」と返してやったのだが、それは彼女にとっては十分な答えではなかったらしい。

けれどそれ以上突っ込んでこないのが彼女のいいところだ。きっと彼女はわたしがこれ以上何を言ったところで口を割らないことをきちんと理解してくれている。だがそれ以上に彼女の厄介なところは、わたしよりも数倍気が利いてよくまわりが見えているところである。

彼女は「ふーん」と不満そうに呟くと、口を開いた。それはやたらとわたしを試すような口ぶりで、すこしだけ不愉快だった。


「でもあんたがもたもたしてると高尾くん取られちゃうよ。いなくなってからだと遅いわけだしさ」
「だからわたしと和成はそういう関係じゃないんだってば」
「それは今まで高尾くんが当たり前のように近くにいてくれてたから意識することもなかっただけでしょ。好きかもって思ったときには高尾くんに彼女がいる、とか正直笑えないからね。それに高尾くんめっちゃモテるんだよ」
「いや、和成がモテるのは知ってるけど」
「じゃあうちの学校のマドンナが高尾くんのこと狙ってるってのは?」
「マドンナ?そんなのいたんだ」
「あんたチア部の大島知らないの!?」


信じられない!と言わんばかりに大袈裟なリアクションをとる彼女からしてみれば、そのチア部の大島さんとやらはこの学校では和成レベルの有名人らしい。といっても、やっぱりわたしにはその大島さんとやらが誰なのかまったくわからないし、それだけ有名だというのであれば顔ぐらいは見たことがあるかもしれないが、まったくのノーヒットである。だがその大島さんとやらは彼女いわく探すまでもなくすぐに見つかるらしい。ほら、と指差された方を見れば、なるほどたしかにそこにはまるでアイドルでもしていそうな顔をしたかわいらしい小柄な女の子がいるではないか。それもおまけに、ぴったりと和成にくっつくようにして。


「…ああ、あの小柄な子が大島さん」
「そう。男子人気ぶっちぎりの1位のチア部の華。大島だよ」
「まあたしかに男子にウケよさそうだねーちっさくてかわいくて明るくて。なんか愛嬌あるしさ」
「女版高尾和成とか言われるぐらい顔が広いのも特徴なんだけど、あんたまさか大島のこと知らなかったとはねー」
「はは、1人ぐらいはいるんじゃない。そういうのも」
「まああんた緑間ばりに友達いないもんね」
「友達多くはないけどそうやって緑間を引き合いに出すのは緑間に失礼だろ」


ケラケラ笑いながら「だって緑間だよ!」なんて言う彼女はべつに緑間と仲が悪いわけではない。それどころか彼女もなぜかさまざまな方面で顔が広いので、このクラスでいえば緑間とは仲がいい方である。しかしそれに笑って答えてやりながら、どんどん転換していく彼女の話に中途半端に耳を傾けるわたしは、実のところこれっぽっちも彼女の話なんて聞いてやしなかった。それどころか、謎の胸の痛みに眩暈さえ覚えていた。瞼の裏ではかわいい大島さんが和成と楽しそうに話をしている。そして大島さんが和成の腕を掴んで、和成もそれを振り払うことすらしないでニコニコと笑顔を浮かべている。
そんな姿が、こんなにも痛いだなんて。

これは一体なんなのだろう。羨ましいのか、妬ましいのか、それともかつてわたしがいた場所に他の誰かが立っているのが我慢ならないだけなのか。そんな子供じみた独占欲に、踊らされているのか。
けれど口下手で語彙力も低いわたしでは持て余すこの気持ちに名前をくれて正解へと導いてくれたのは、いつだって和成だった。

この気持ちの名前を知らない
(13.1014)


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