高尾和成とはどのぐらい仲良くしているのか、と聞かれると、そりゃもう生まれたときからだとしか言いようがない。そのぐらいわたしたちは長い時間を共に過ごしてきたし、もういつからだとかそんなこと母さんたちだって覚えてやしないだろう。わたしたちだってはじめて話したのがいつだったか、なんてこれっぽっちだって記憶していない。だがそれでもそこまで長い間一緒にいると、互いの好みなんてなんとなく覚えてしまうものである。


「お邪魔しますー」


そう声を張り上げながら和成の家に入ると途端に漂う美味しそうな匂いに、ぐう、と腹から情けない音がする。ちなみにこんなふうに和成の家にお邪魔するのはわりと頻繁なことで、わたしの両親は共働きの上帰ってくるのが遅い。だからちいさなころは母か父かどちらかが帰宅するまで和成の家に預けられることが多かったのだが、それならば一緒に晩御飯も食べてしまえばいいじゃないかという和成のお母さんの好意により、なぜかこうして高校生になった今でも晩御飯を結構な頻度でごちそうになっている。というわけで今日も「はやくおいでよ!」という和成のお母さんからの連絡を受けてこうして和成の家へとお邪魔させてもらったのだが、どうやら今日は和成のお母さんが腕によりをかけてご馳走を作ってくれたらしい。テーブルを埋め尽くさんばかりの豪華な食事に驚きながら椅子に座ると、和成のお母さんもお父さんもニコニコしながら「次の大会レギュラーに選ばれたって和成から聞いたからお祝いよ」なんて言ってくれるものだから、やはりわたしたちを家族と呼ぶのに足りないのは血のつながりだけなんじゃないかなんて考えが頭をよぎった。

すると和成は「俺がレギュラーに選ばれてもこんなお祝いしてくれなかったんだぜ」なんて、なぜか嬉しそうにわたしに耳打ちしてきた。まったく、そこは普通なら悲しがったり悔しがったり拗ねたりするところなんじゃないだろうか。だというのにこんなふうに自分のことのように喜んでくれるだなんて、ほんとうに和成はおばさんやおじさんのいいところを受け継いだと思う。


「さー食べようぜ」
「そうね、あったかいうちに食べちゃいましょう」


そうおばさんが明るく言い切った次の瞬間、みんなで手を合わせてぺこりと頭を下げる。ちなみに高尾家でいただきますとごちそうさまの習慣を忘れた者は盛大な躾を受けなければならない。そのおかげでわたしはどんなときでもいただきますとごちそうさまを欠かしたことはないのだが、もしかするとおじさんやおばさんはわたしの育ての親といっても過言ではないのかもしれない。まあこんなことを父さんや母さんに言ってしまったら最後、泣きながら「仕事ばっかりで寂しい思いさせてごめんね!それでも育ての親はわたしたちがいいの!」なんて言ってきそうだからそんな言葉は胸の奥にそっとしまっておくことにする。
すると和成は慣れた様子でわたしの出汁巻き卵に醤油をかけ、そしてから揚げにレモンを絞った。ちなみにこれはわたしの好みを熟知している和成だからこそ出来る芸当である。


「それにしても和成はなまえちゃんの好みをしっかり覚えてるわねえ」
「ちっちゃいころからそうだったよな」
「だって物心ついたときから一緒にいんだぜ?そりゃ覚えんだろー」
「わたしも和成の好みちょっとは把握してるもんね」
「好きなドリンクとかも互いに結構知ってっよな」
「うん」
「もしなまえちゃんが和成の奥さんになってくれたらこれ以上のことなんてないんだけどねー。あ、おばさんダメなこと言っちゃったかしら!」


おばさんはよくこんなふうにわたしたちをからかって遊ぶ癖がある。それにおじさんもそれに慣れているからか止めることはない。だからこそわたしは笑いながら手を振り、それを否定した。まあそうするしかないからだ。それに母親同士が仲が良くて、その子供が異性同士ともなれば、その子供たちが結婚するのを夢見るのは母親ならではのロマンだろう。だからわたしたちはそれに翻弄されるのぐらいには我慢しなければならない。


「あはは、そんなんないですってー!和成といまさらそんな関係になるとか、想像もできませんもん!」


ケラケラ笑っておばさんにそう言葉を返せば、おばさんは残念そうな顔をしながら「なまえちゃんは美人さんだからね」なんて返事を寄越してくれたが、ぶっちゃけて言えばわたしなんかよりも和成のほうがよっぽど美形だし、引く手数多だろうと思う。それに実際和成は学校でもモテまくっているぐらいだし、そのうち和成だって彼女ぐらい作るんだろう。そうなればわたしだって今のようにこうやって頻繁に高尾家にお邪魔することはできなくなる。それはすこしばかり寂しいけれど、仕方のないことだ。だが、それでもきっと幼馴染のままいられたら、完璧に距離が離れてしまうことはない。
だからわたしは笑顔を浮かべているままの和成のほっぺたを軽くつねってやりながら、「それにこんな美形はわたしなんて相手にしませんって!」と言ってやったら、和成はおなじようにわたしの頬を軽くつねりながら「そんな美形の和成くん、今ならお買い得よ〜?」なんて反撃してきた。そしておばさんやおじさんたちもそんな和成とわたしのささやかな攻防戦を見て笑ってくれたもんだから、わたしはそれ以上何も気にすることはなかった。まあ、ただ和成に引っ張られつづけた頬が軽く痛んだけれどそれでも和成の頬もほんのりと赤くなっていたし、おあいこだろう。

(13.1009)


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