身長が高いとモデルみたいでいいよねーキレイな格好とかかっこいいのとか決まるしいいよねーと女の子たちは言うけれど、身長が高くてもモデルではないのだからモデルみたいにはならないし、キレイな格好とかかっこいい服装とかが決まるのだっておなじことだ。アレを自然に着こなすにはやはりキレイな顔ってやつが必要不可欠なわけで、ぶっちゃけ背が高いと可愛い恰好が浮くので服を選ぶ選択肢がさらに絞られてオシャレするにも頭を悩まさなくちゃいけなくなるっていう問題がある。それに背が高いということはすなわちそれに比例するように足も大きいのだ。靴を探すのがどれだけ難しいことか。ヒールなんてだいたいサイズが合わないからそれを泣く泣く断念してボーイッシュな靴に手を出したり服装だってそれに合わせてカジュアル系にしてみたり、こっちにだっていろいろ都合はあるんだぞ馬鹿野郎。と言ってやりたいのは山々だが個人的にカジュアル系の服装は気に入っているし、まあ特に言い返してやるほどのことはないので、そんな浅はかな女子たちの意見は笑って右から左へと流すことにしている。そんなわたしです。


「おまえやっぱりまた言われてたな」


だが、だからと言ってわざわざそれをニヤニヤと半笑いを浮かべられながら触れられて気を悪くしないほどわたしは大人ではない。なのでわたしはその衝動のままにやたらと高い位置にある腰に痛恨の一撃をくらわしてやったのである。


「…いってぇ…それがおまえ彼氏にするようなことかよ…」
「身長が高いってことをわざわざからかってくるなんて彼氏力低いんじゃないの」
「ンだよ身長高いのそんなにコンプレックスなのかよ」
「コンプレックスってわけじゃないけど、小さい女子のほうがかわいいっていうのは一種のセオリーじゃない」
「あーマイちゃんも低いしな」


そう言いながらぼんやりとグラビア雑誌を読む青峰にはぶっちゃけ彼氏としての自覚が足りてないと思う。つうか、普通彼女といるときに堂々と目の前でグラビア雑誌広げるか?それにそのグラビアアイドルを褒めるか?言いたいことはそれこそ山のようにあるけれど、青峰がこうしてわたしの前でも構わずグラビア雑誌を読むのは中学のころから変わらないので、いまさら注意することでもないかと諦めることにした。
さて、ある程度の説明をしようと思う。
ここまで散々言ってきたとおり、わたしと青峰はいわゆるお付き合いというものをしている関係である。彼氏、彼女だ。しかも中学のころから付き合っているのでその歴史みたいなのは意外と長い。もちろん、高校でもわたしたちが付き合っていることはまわりにとっては周知の事実だ。まあだいたい暇な時間は2人でつるんでいることが多いし、わたしはバスケ部のマネージャーとして実質青峰専属のマネージャーのような扱いにもなっているし、分かりやすいんだろう。

ちらり、と盗み見た青峰の表情は試合中にも見せないぐらい真剣な目をしてマイちゃんのおっぱいを追っているそれで、わたしはどうしてこの男に惚れたんだろう、と真剣に頭を抱えて悩みたくなった。だがそれでもわたしはこの男になんの疑いもなく高校までついてくるぐらいには惚れこんでいて、やっぱり恋愛なんてのは惚れた者負けなんだな、と再確認するだけに終わる。ま、わたしたちのお付き合いなんてそんなもんだ。わりとドライで、だけどちょっとだけロマンティック。まあそのぐらいの糖度のほうがわたしにとっても楽である。


「マイちゃん可愛いよね」
「おー特に振り向きざまの顔がいいな」
「あー庇護欲そそられる感じがいいよね」
「小動物みてえだしな」
「そうだねー小動物みたいだしねー」


身長も低くておっぱいも大きいなんて、マイちゃんはどうしてそんなにたくさんの素敵なものを持っているんだろう。なんて愚問だ。それだけ素敵なものを持てたから今大人気のグラビアアイドルなんてものをやっていられるわけで、わたしとは根底がそもそも違うのである。うわ、言ってて悲しくなってきた。どうもすみませんね、168cmもあって。小動物とはかけ離れた存在で。

とそこまでわたしがふてくされたところで、青峰はようやくわたしが意図していたところに気が付いたらしくぱっと顔をあげてわたしを見つめた。が、青峰は自他ともに認めるデリカシーがなくて鈍感な男である。しばらくはわたしが何を思っているのかがさっぱり分からなかったようで、首をかしげたり真剣な表情で考え込んだり、たっぷりの長い時間を置いてそれからなぜかわたしの頭に自分の大きな手を置いた。だからといって撫でるわけではないその中途半端な優しさに胸が痛くなる。

だけどこう言ってしまえばわたしたちはうまくいっていないように思われがちだが、それは誤解だ。今、わたしの胸が痛いのは主にときめきのせいなのだから。


「まー…なんだ。おまえは小動物って感じじゃねえけど」
「もっかい腰殴っていい?」
「なんでだよ、俺が好きなのはおまえだっつの」


その言葉に隣の席でファッション雑誌を読んでいた女子が軽く叫び声をあげ、前の席で弁当を食べていた男子が軽くそれを吹きだしたが、青峰はそんなことを気にするような男ではない。ゴーイングマイウェイなんて言葉はまさに青峰のためにある言葉だと思う。だって普通、教室の真ん中でそんな誰にでも聞こえる声で告白なんて、普通しない。


「…あんたってたまに恥ずかしいから嫌になるわ…」
「グラビアに嫉妬してるようなおまえに言われたくねえわ」
「それの何がダメなのよ」
「開き直ってんじゃねえよバーカ」
「うっわーむかつくわー」
「俺もむかつくわー」
「だーから何でよ」
「癪じゃねえかよ」
「なんで」
「なんでなんでってガキか」
「いいから答えてよ、スッキリしないから」
「可愛いからだよ」
「………はあ?」


たっぷり間をおいてそう言ってやると、やっぱり青峰はなんでもないことのようにもう1度「可愛いから」と繰り返した。…こいつ…TPOをまったくわきまえない…。なんて、言えるはずがない。もしこれが黄瀬なり紫原だったりしたなら教育的指導を加えるところなのに、やっぱり何度も言うようだけれど惚れたわたしが負けなのだ。
わたしははあとため息を吐くと、そっと顔に集まっていた熱を逃がすように机の上に置いてあった下敷きで顔を煽いだ。するとそれを見て青峰はまた笑って、わたしの手から下敷きを奪い、わたしの代わりに下敷きを奪ってわたしを煽いでくれたりする。こんなさりげない優しさだとか、まっすぐすぎる言葉は、青峰から向けられるから嬉しいんだ。きっと他の誰にされたってこんなにドキドキしすぎて死んでしまいそうになるだなんてありえない。


「…わたしのことこんなに女の子扱いすんのは青峰だけだよ」
「俺は物好きだからな」
「それを本人の前で言うあんたの神経疑うわ」
「いいじゃねえか、それに、俺はちっせえやつよりおまえぐらいのやつのほうが好きだ」
「…マイちゃんちっちゃいけど」
「マイちゃんといるより絶対おまえといるほうが楽しい」


そんなの当たり前じゃんバカ。
って言えてやるぐらいわたしが素直だったら、きっと青峰はもっと笑ってくれるんだろうけど、わたしは生憎ながら青峰ほど素直ではない。だからわたしはやっぱり何も言えなくてそれどころか照れているのを隠したくてむっつりとした顔をしているのだから救いようもないだろう。だけど青峰とわたしは長い付き合いだ。わたしのそれが照れ隠しであることを青峰はとっくの昔に知っている。


「それに背が高えっていいじゃねえか。俺と並んだら、お似合いだって言われんだろ」
「…たいした自信だよねほんと」


そっとため息を吐くフリをして、口元だけで笑う。
女子たちは言っていた。
好き勝手に高身長のメリットをあげた後に、「でも青峰くんも背が高いから2人並んでたら絵になるよね」と。だからわたしはそれには自信を持って笑顔で頷いてやったのだ。そんなわたしのリアクションを知らないであろう青峰は、勝手に嬉しそうに笑って、わたしを喜ばせる。だけどそれはわたしだって思ってるんだよ、ほんとだよ。それに、わたし、あんたの隣に並ぶの好きだよ。普通の女の子より高いわたしの身長は、きっとあんたともっと近くに寄り添うためにあるんだって、実はちょっと本気で思ってる。

(13.0310)


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