中学生だったあのとき、人生はじめての一目ぼれをした。そしてまわりの友達に「やめときなよ雰囲気が危なそうだよ」と止められるのも構わず、そのひとに「まずは友達からはじめてください!」とキレイに頭を下げてお願いした、そんなあの日から月日は流れて、わたしは高校生になったけどわたしたちはいまだお友達である。


「そろそろご飯にするけどなにか食べたいものはある?」
「あたしパスタがいいです!」
「ワオ、パスタって言ってもいろいろあるでしょ。そんな大雑把に言われても逆に困るだけなんだけど」
「じゃあ、冷蔵庫の中にシーフードがあったんで、それ使ってトマトソースのシーフードパスタが食べたいです!」
「最初からそう言ってよ」


そんな文句を言いながらも雲雀さんがそんなあたしのリクエストを聞いてくれるのがうれしくて締まりのない顔をさらしていると、雲雀さんは「変な子だよねほんと」と言いながら勢いよくあたしの頬を握りつぶしてきた。ふ、ふつうに痛い。だがこれもクラスの男子にやられてしまえばブチキレるところではあるが、雲雀さん相手にそうされるのであればそれはスキンシップに早変わり。やっぱりあたしは締まりのない顔のまま雲雀さんにでへへと笑いかけることしかできなかったのである。


「ほんとにきみはどうしてそんなにいつも笑っていられるんだろうね」
「好きなひとの隣にいられるだけで幸せいっぱいな女子高生なので」
「きみ友達いないの」
「いますよ!あ、そういえば昨日プリクラ撮ってきました。見てください。コレめっちゃ盛れてませんか」
「………どれがきみなの」
「真ん中です!」
「目が大きすぎて気持ちが悪い。これならそのままのほうがマシだと思うけど」


ついっとプリクラを返してきた雲雀さんは、それがどれだけ女子の心をときめかせるかを知らないんだろう。だって、プリクラ補正がかかったものよりも実物のほうがかわいいだなんて!照れるを通り越して爆発しそうだ。
なーんて思うけど、雲雀さんの隣はドキドキすると同時にとても安心するのだ。だからあたしはソファの上にころがっていたクッションを抱きしめながら、雲雀さんがパスタを作り終えるのを静かに待った。ちなみに昔、手伝おうと思ってキッチンに立ったことがあったのだが、手つきが危ないという理由で以来キッチンには立ち入り禁止になっている。うん、たしかに料理はあまり得意ではないけれど。なのでやはりこういう場合は得手不得手を考慮するべきかな、と思うことにして、あたしはその間洗濯物を畳む作業にはいった。友達にこの話をすると「もはや夫婦じゃねそれ」だそうだが、それも嬉しいので、黙って雲雀さんのお手伝いを続行することを決意したのはあたしだけの秘密だ。


「雲雀さーん、お洗濯物タンスのなかにしまっておきますねー」
「うん」
「あと、テレビつけてもいいですか?」
「いいよ、好きに寛いでて」
「わーい」


お許しがでたのですぐさまテレビのチャンネルをつけてバラエティ番組にチャンネルを変える。うん、今はやりの芸人たちが口ぐちにトークを繰り広げているのはやはり何度見てもおもしろい。だが雲雀さんはあたしがこうして足しげく通うようになるまで、あまりバラエティ番組といったものを見たことがなかったらしく、今でもあたしがいなければ見ることはないと言う。もったいない。こんなにこのひとたちは面白いのに。


「できたよ」
「わーい、やった!」
「というかまたきみその番組見てるの、よく飽きないね」
「毎週やってること違いますもん」
「僕にはおなじに見えるんだけど」
「もー勉強が足りないですよ雲雀さん!」
「ワオ、僕はきみよりも偏差値の高い高校を出てるはずなんだけどな」
「インテリイケメンな雲雀さんも素敵ですよ、もちろんおばかさんでも素敵ですけど!」
「…やれやれ、きみはほんとうに変わった子だよ」
「咬み殺さないでくださーい」
「群れてもいない小動物を噛み殺すほど僕は鬼畜じゃないつもりだけどね」


どうやら雲雀さんの中であたしはヒバードのようなちいさくていつも飛び回っている小動物のイメージらしく、事あるごとにあたしのことを小動物だと言ってくる。が、それも恋する乙女からしてみればときめきの材料でしかない。だって、小動物だよ。守りたい存在ってことじゃないか。うまーく誤魔化しながら捉えれば。

そして目の前に置かれたプロも帽子を脱ぐであろう出来栄えのすばらしいパスタを前に、両手をあわせて「いただきます」と頭を下げる。すると雲雀さんもそれに「どうぞ」と答えてくれたので、フォーク片手にパスタを一口。うん、弟子入りしたいぐらい美味しい、今日も絶好調ですね雲雀さん。


「雲雀さんって、パスタもおいしく作れちゃうしイケメンだし優しいし至れりつくせりですよねー」
「ワオ、僕を優しいなんて言う女はきみぐらいなものだよ」
「雲雀さんのよさを知らないだなんて世界中のひとは損してますよー」
「僕はそう思わないけどね」
「じゃああたしがそう思っておきますから大丈夫ですよ」
「何が大丈夫なんだか」


雲雀さんは笑いながら、あたしの口元についていたトマトソースをティッシュでぬぐってくれた。ああ、恥ずかしい。あまりの美味しさにうっかりがっついてしまったではないか。これでは恋する乙女形無しである。まあ、そんなあたしを見ても引いたりしない雲雀さんの前だからこそさらせる本性だ、これがありのままのあたしなんですそんなあたしを好きになって下さいアピールだと思えば、悪くないアピールのようにも思えるから特別気を張ったりすることはしない。


「そういえばもうすぐテストなんじゃないの」
「げ!忘れてはなかったけど!」
「ふふ、何それ」
「でも今回ちょっとやばそうなんですよねー特に数学がちんぷんかんぷんで」
「数学ぐらいなら僕が教えてあげるよ」
「え!ほんとうですか?じゃあ順位がよかったらご褒美とかくれますか!」
「一気に図々しくなったね」
「ごめんなさい調子に乗りました」
「でも本当に頑張ったならご褒美ぐらいはあげないこともないよ」
「え!グラタンとか作ってくれますか!」
「…きみのご褒美は簡単でいいね」


もうすでに頭の中はグラタンでいっぱいになってしまっていたあたしは気が付かない、そのあとに雲雀さんが「彼女にして、とかでもいいのに、無欲な子だね」なんて言っていただなんて知らない。だけど雲雀さんはあたしがグラタンに気を取られていることなんて知っていて、その上でそんなことを呟いたのだろう。雲雀さんは恥ずかしがり屋な策士だ。


「美味しいですねえ、雲雀さん」
「きみは美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるよ」
「だって美味しいんですもん」
「残したら許さないよ」
「それどころかおかわりです!おかわりありますか?」
「あるよ、ちょっと待ってて」


笑いながらあたしの皿を片手にキッチンへと帰っていく雲雀さんの後姿とバラエティ番組のせわしない笑い声。けっして狭くはない部屋に着々とふえていくあたしのものを、雲雀さんはどう思っているんだろう。キッチンにはあたしと雲雀さん用に、2つずつすべての食器が揃っている。フォークとスプーンとお箸はおそろいのものを買った。


「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
「雲雀さんすきですー!」
「はいはい」


受け流されることも多いけど、あたしは雲雀さんのことが大好きなので、今日も明日もその先も、ずっとずっと雲雀さんと一緒にいます。まる!

(13.0327)
美佐さま!ほのぼのとリクエストしていただいたのですが、ほのぼのってこんな感じで大丈夫でしょうか…?もしダメだったらまたメールでお知らせくださいませ!!それでは素敵リクエストありがとうございました!


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