好きな男の子ができました。けれどそのひとは何よりもテニスが大好きで、クールに装う反面自分が1番負けず嫌いだったりすべての時間をそれにつぎ込んでいるんじゃないかってぐらい一生懸命で、だけどそんな姿もとびきり素敵なのです。
だからこそ、声もかけられない。


「…はあ…木手くん今日もめちゃくちゃかっこいいなあ…」


東京から沖縄に転校してきて早数週間。ぶっちゃけ外国語のような言葉を使う彼らと打ち解けることができず(それ以前にコミュニケーションがとれない)今日も今日とてあたしは1人である。いや、友達は欲しいし別に1人でいたって平気、だなんて鋼のハートを持っているわけではないのだが、それでもやはりあたしが学校に来るのはひとえに木手くんが練習している姿をどうしても見たいからに他ならない。じゃなきゃ学校なんて来ないし、いっそのこと東京に1人ででもいいから帰るだろう。
そして今日もひっそりと誰にも見つからないように細心の注意を払いながらテニス部の練習を見守っていたりするのだが、それを発見してしまったクラスメイトたちいわく「そんなに好きならテニス部に入ればいいのに(注意:標準誤訳)」だそうだが、そんな恐れ多いことはあたしにはできないのだ。ぶっちゃけ、見ているだけでも十分である。

だが、とりあえずは木手くん相手に恋に落ちた経緯でも説明しておこうかと思う。そう、あれは忘れもしない登校初日のことだった。フレンドリーなのはいいのだけれど理解するのが難しい言語であたしに話しかけてくれる彼らの言っていることがまるで分からず、泣きそうになりながらそれでも「先生に呼ばれてるから職員室行くね」と席を立ったのだが、当然転校したての生徒が職員室なんて分かるはずがない。しかもその上あたしは壊滅的なまでの方向音痴だったのだ。だからあたしはほとんど泣きそうになりながら自分の不運を呪いつつ、神様の華麗なる采配を信じてあてもなく校舎内をさ迷い歩いていた。
するとどうだろう。木手くんが颯爽とその場に現れて…いや、偶然通りかかって、聞いてくれたのだ。


「あなたが噂の本土から来た転校生ですか」


と、多少妙な訛りはあるものの、聞きなじみのある言葉、つまりは標準語で。だからあたしは嬉しくてたまらなくなって、自分が職員室に行きたいということ、そして迷子であるということを伝えた。すると彼はやれやれといった顔をしながらも、あたしを職員室まで連れて行ってくれたのだ!


「ありがとうありがとう本当にありがとう…!」
「そこまで礼を言われることのほどじゃないと思いますが」
「いやマジで救世主が現れたと思いました、もう一生あなたのことを崇め奉りながら生きていきます…!」
「いや、あなた落ち着きなさいよ。だいたい、困っている人がいたら助けるのが人間として当たり前でしょう」
「…うん、みんな助けようとしてくれるんだけど、どうしても、何言ってるか分かんないっていうか…」
「歩み寄る努力も必要ですよ。ここでやっていくなら、の話ですが」
「…はは、だよねえ。なんだかもうホームシックなのかな。早すぎるか」
「なんくるないさー」
「あ!それ聞いたことある!」
「何とかなる、という意味です。覚えておきなさい」
「…うん!」
「それでは俺はこれで」


そう言ってどこかへ行ってしまった男の子が、木手くんなのであった。クラスの女の子たちがキャアキャア騒いでいるのを聞いて知ったのだが、それにしてもどうやら木手くんを含めたテニス部の面々は大層な人気っぷりらしい。まあたしかにイケメンだったしなあ、と思いながら持ってきていた小説をぱらぱらとめくる。でもどうしてかは知らないが、彼女たちはあくまで木手くんたちを遠目から見守っていたいというスタンスを崩さない。それに対して疑問を抱くことはもちろんあるけれど、それでもあたしがそれを「ねえねえどうして好きならマネージャーにならないの?」なんて聞けるはずもない。だいたいそんなに仲良くないといのも一因ではあるが、それはそっくりそのままあたしに言えることでもあるからだ。


「ああ、あなたでしたか」


それにこのままでもいいのだ、あたしはただここからテニス部の練習を見守っていけたらそれだけでいい。べつに高望みなんてしちゃいないし、というか、高望みどころの問題だ。きっと向こうは一度会ったきりの迷子のことなんて覚えてすらいないだろう。


「ちょっとあなた聞きなさいよ」


しかもあたしなんてこの学校で言えば根暗で友達もいない寂しい女の子だ。そんな女の子相手にあんなキラキラした男の子が振り向いてくれるはずもない。いや、さすがに卒業するぐらいまでには告白だってしたいし感謝の気持ちだって伝えておきたいけれど、今その勇気のないあたしはこうしてここで突っ立っているのがお似合いだ。
というか、今日は少し涼しいな。


「…いいでしょう、そちらがその気なら」


そして覚醒する。
涼しいのは目の前に影があるからだ、と下げていた視線で確認したあたしはそのままばっと視線を上にあげた。するとそこにいたのはなんとゴーヤを手に持った木手くんで、あたしは慌ててなぜか「こんにちは!」と声をかけた。…びっくりした。ここではあまり話しかけられるということがクラス以外ではないものだから、絶対他の人に話しかけてるものだと思った。それにどうしてあんなに高くゴーヤを振りかざしているんだろう。まさか、とは思うが…いや、これ以上は考えないことにした。
すると木手くんはようやく自分のほうにあたしが向いたのを確認すると、ふう、と1つ息を吐いてあたしの目をじっと見据えてきた。…改めてこう対峙してみると、同い年とは思えないぐらいに木手くんは身長が高い。


「これだけ話しかけても反応しないなんて一度耳鼻科に行った方がいいんじゃないですか」
「いやーあたしに話しかけてるとは思わなくって」
「ああ、あなた友達がいないんでしたっけ」


さすがにそこまで直球で来られるとあたしも傷つくんだけどなー…と思いながら木手くんを見上げるも、木手くんはそれによってあたしが傷ついたなんて欠片も思っちゃいないらしく、そのまま話を続けてこようとした。うん、まあたしかに否定するまでもなく事実だからあたしも反論の仕様がないのだけれど。


「で、こんな時間までここで何をしているんですか?もう下校時間は過ぎているでしょう」
「え、下校時間とかあるの?」
「もう20分も過ぎてますよ」
「うわー知らなかった」
「そのぐらい覚えておきなさいよ。…でもあなたは毎日ここにいますよね、何をしているんですか?」
「え、は!?」
「俺が気付いていないとでも思ってましたか?甘いですねえ」
「う、うわああ…」


まさか気付かれているなんて思いもよらなかったあたしとしてはもう爆発して消えてしまいたいぐらいのショッキングさだ。というか、埋めてほしい。そしてできれば忘れてほしい。けれど木手くんはやっぱりゴーイングマイウェイというか、さっさと自分の話だけを進めていってしまう天才だった。


「毎日ここで時間を潰しているぐらいならテニス部のマネージャーになりなさいよ」
「…えっ?」
「ここで突っ立っているよりはよほど得策でしょう」
「え、あーまあ、うん、多分、そう…?」
「友達もできますよ」
「友達…!」
「テニス部は気のいい人たちが多いですからねえ、きっとあなたのような人はすぐに受け入れられるんじゃないですか?」
「ほ、ほんとに!?」
「ええ」
「あたしが入ってもいいんですかね!」
「誰がダメと言いました?」
「は、入ります!」


入ります!入ります!と手を挙げて発狂するあたしを見て木手くんはすこしだけ笑ってから、それでも「それなら入部を認めましょう」と言ってくれた。まあ、その数日後には「あ、だからみんな入らたがらなかったんだな」と身を以て実感するぐらいの仕事量に忙殺されることになるのだが、そのごろのあたしはそんなことなど露ほども知らなかった。ただ、木手くんの傍にいられるという幸福と友達ができるかもしれないという期待に胸を躍らされていただけだったのである。
だから、木手くんが実はあたしのことを好きだと思ってくれていたことなんて知らなかったし、それを甲斐くんがポロリと口にしてしまうまで、あたしのこれは一方的な片思いだと信じて疑わなかった。


「…まさか人づてにバレることになるとは夢にも思いませんでしたよ」
「き、木手くん!あたし木手くんのこと好きだよ!」
「知ってますよそんなこと」
「え!?」
「うんじゅがかなさいびん」
「えっごめん今なんて?」
「このぐらい分かるようになりなさいよ」
「あ、ありがとうと何とかなるよは覚えたんだけど…」
「甲斐くんにでも聞いてみなさい」
「うん、じゅが…?」
「うんじゅがかなさいびん、です」
「うんじゅがかなさいびん!」
「…知ってますよ」
「えっ?」


そして後日、甲斐くんに意味を教えてもらったあたしはその場で絶叫してしまったりもするのだが、それはまた別の話。

(13.0414)
木手くん書いたことなくてテンパりまくったんですが、木手くんってこんな感じでしたかね…?原作もあんまり沖縄のところは読んでなくてすみません…!リクエスト、ありがとうございました!


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