どこをとっても平凡なうちが赤司くんと付き合えるようになったのは奇跡みたいなことなんやってうちの友達が言うとったよ、と言ったら、赤司くんはその言葉には馴染みがあるななんて言うて笑ってくれた。やけど、その言葉の意味をうちが知るんはそれよりもずうっとずうっと後で、赤司くんはそれを知ってまた笑うたんやっけ。ああ、なんかもう、うちは赤司くんの彼女としていろいろとダメなんやないやろか。やけどこんなうちがいいんだって赤司くんが言うてくれるから、いや、べつに記念日をつくるつもりとかは一切ないねんけど、それでもうちは素直に赤司くんを好きでおれるんやろうと思う。
やからこうやって図書室で赤司くんを待つんは全然苦やないし、赤司くんは夜遅くまで待たせてすまない、って謝ってくれるけど、そんなんうちが全然気にしてないんやから謝らんでもかまんよって笑うたら、赤司くんは一瞬だけびっくりしたような顔をしてそれからうちの手を引いて寮まで一緒に帰ってくれる。その時間がなんやくすぐったくて幸せで、長い間図書室で待っとったことなんかたいしたことやないなって思えてしまうから、うちはやっぱり赤司くんが好きで好きでたまらんのやなーなんて、目の前の赤司くんに直接言えるほどうちは素直やないから、繋いだ手をおおきく振って、テンション高いふりして誤魔化した。


「毎日長い間待たせてすまないな、暇だろう」
「全然そんなことあらへんよー!てか、うちな、その間に勉強するようにしてん。そしたらな成績がーって伸びてな、オカン大喜びやねん。やから気にせんでええよ。赤司くんにも会えて成績もあがって一石二鳥やねん」
「ふふ、おまえはほんとうにポジティブというか、前向きだな」
「あーよう言われんねん、それ」
「そういうところ、好きだ」
「…ほんま赤司くんには敵わへんわー」


赤司くんはあんまり言葉が多いっていうわけやないけど、たまにこんな爆弾発言を平気で落としてくるから要注意だ。でもそれを赤司くんはちっとも恥ずかしいとは思うとらんところが輪をかけて照れくさい。やって、それは赤司くんの本音っていうことやもん。そんなん言葉にできんぐらいに嬉しいに決まっとる。


「赤司くん今日は部活楽しかった?」
「そうだな、楽しかったよ。今日の小太郎は調子が良かった、次の大会も間違いなく優勝できるだろうね」
「ふふ、楽しみやなあ。うち、赤司くんの試合見るん好きなんよ」
「じゃあ次は僕も試合に出ることにしよう」
「せやでー!この間の試合、最後のやつ赤司くん出えへんかったやろ!うちめっちゃ楽しみにしててんで!」
「はは、そこまで楽しみにされるといいところの1つでも見せたくなるな」
「赤司くんはいつでもかっこええからそんな気張らんでも大丈夫やで!」
「…言ってくれるね」


クスクス笑う赤司くんはちょっとだけ照れたみたいで、うちの手をぎゅうと握りしめた。赤司くんが吐く息は白い。もう冬だ。うちは首元でバカみたいにぐるぐるにまかれたマフラーに鼻先を埋めて息を吐いた。


「せやけどうち、寮でよかったわあ」
「実家は大阪だろう、わざわざ寮にすることもないだろうに」
「意外に遠いねんなーうちの家から学校。やけどな、そうやなくてな、寮やからこうやって赤司くんと一緒に帰れるわけやん?もうそれがうちは嬉しくてたまらんねん」
「僕も」
「ん?」
「おまえが寮でよかったよ、一緒に居られる時間は長ければ長いほどいいからね」
「…赤司くん、天然たらし?」
「まさか。気のある人間以外にこんな言葉は使わないつもりだよ」


というよりおまえは僕の恋人だからね。なんて、その言葉がうちをどれだけ喜ばすかなんて赤司くんは気付いてないんやろう。
あーもう、そのうちうちは赤司くんが好きすぎて爆発でもしてまうんやないやろか。やって、こんなん、とっくにキャパシティー超えてる。毎日毎日うちの頭の中は赤司くんばっかりで、とてもやないけど他人様には見せられへんような思考回路しとる。まあ、やからってそれが嫌やいうことはないんやから、やっぱりうちは赤司くんの隣にいるし、これからもっともっとこのひとを好きになっていくんやろうけど。あーむずがゆい。なんや、めっちゃ青春しとるなあ自分。


「なーなー赤司くん」
「ん?」
「ちょっとだけめんどくさいこと言うてもええ?」
「聞いてごらんよ」


やから、ちょっとした思いつきを実行することにした。


「まわりの友達にそう言われたから言うわけやないねんけどな、ちょっとだけ不思議やってん。なんで赤司くんってうちのこと好きになってくれたんかなあって」
「ああ、そんなことか」
「そんなことってえらい簡単やなあ」
「最初は好きじゃなかったよ、というより、気にしてもなかった」
「…さいですか…」


思ったよりもショックを受けながらとぼとぼ歩くと、赤司くんはそんなうちを見て「分かりやすいところは可愛いと思うよ」なんて言うもんだから顔に熱が集まっていくような感じがして、もううちは両手を使って顔を覆い隠したくなった。もう、なんでそんなことばっかり言うんやろう。そんでなんでそんな楽しそうに笑うてくれるんやろう。ほんと、うちって分かりやすいぐらい顔に思うとることとかよう出るし関西人のくせにそんなおもろいことも言えへんし、あれ、うちの長所ってなんやろ。


「だけど、おまえは僕に対して特別な目を向けなかったからかな」
「特別な目?」
「みんな僕をキセキの世代の赤司として見るんだ、それから、僕の家が金持ちだとかそういった理由で僕につけいろうとする」
「そんな人がおんの?世の中物騒やなあ」
「まったくその通りだよ。怖くて仕方なかったさ」
「それならうちが助けたるで!こう見えてもうち、結構強いねんで!空手長い間やっとったし、わりと見た目によらんっちゅうか」
「もう助けられた」
「へ」
「僕と対等に接してくれるおまえが僕の前に現れてくれて、僕を普通の男として好きになってくれた」
「そ、そんなん」
「たったそれだけのことでとおまえは思うかもしれないが、それは僕にとっては初めてのことだったんだよ。それだけすごいことなんだ」


そう言われて、嬉しい、とは思う。もちろんや。やって好きな男の子からそんな言葉をもらって、そんな優しい目で見つめられて、もう天にも昇る気持ちっていうんはこういうことを言うんやろうなあって思う。せやけど、ちょっとだけ、不安も煽る。
うちは赤司くんにとってはじめて出会うた『赤司くんを特別として見ない女』なんかもしれん。たしかにうちには赤司くんが特別やいう意識は他のひとらに比べたら薄いんかもしれん。やけど、それはもし、うちよりもっと素敵なひとが赤司くんを特別として見なければ、あっさりと奪い取られてしまう称号でもある。


「だけど、勘違いするなよ。僕はそれだけでおまえを好きになったわけじゃないんだ」


いつの間に、赤司くんはうちの前に立っとったんやろう。びっくりして思わず怯んでしもうたうちを見てさらに楽しそうに笑った赤司くんはうちの手を繋いだまま、空いた手でうちをぎゅうと抱きしめた。…あーあ、もう、ほんまにこの腕の中は落ち着くから、泣けてくる。他のバスケ部のひとたちに比べたらいくらか小さいはずの赤司くんの身体は、それでもうちを十分に包み込めるだけの大きさを持っている。


「おまえは僕を救って、その後に、僕に恋を教えてくれたんだよ」
「うちが?」
「そう。おまえのその分かりやすいところやポジティブな考え方とか、たまにくよくよすることもあるけどすぐに立ち直れるところとか、上げればきりがないが、おまえには尊敬できるところがたくさんあるし、そんなおまえを愛おしいと思う」
「…ふは、なんや赤司くん、えらいうちにべた惚れやなあ」
「そうだな、おまえの言うとおりだよ」
「えっ」
「俺はおまえに惚れこんでる。ウソはどこにもないよ」


さ、冷えてしまったしはやく部屋に帰って紅茶を飲もう、と言ってうちの手を引く赤司くんはいつだって余裕そうで、いつも赤司くんはうちの一歩前におるみたいな、そんな感じがする。せやけどうちはそんな振る舞いが赤司くんの精一杯の照れ隠しやっていうことを、実は知っとる。やからうちはまた赤司くんが好きやって言うてくれたこのアホ面いっぱいに笑顔を浮かべて、赤司くんの隣に並ぶのだ。


「耳、真っ赤やでー」
「…さすがに、僕も照れるんだ」


ほんとの赤司くんは、女の子を抱きしめたぐらいで照れちゃうぐらいピュアで、甘い言葉をポンポン囁けるくせして自分の本音を言うたらすぐに目も合わされへんようになるぐらい優しいひとなんやって、そんなん、うちだけが知っとったらええよね。そう言うたら赤司くんはとろけるくらい甘い声で「もちろんだ」なんかいうて返してくれるから、うちはそんな赤司くんをたった1つの大切な秘密として胸に抱えておくことにした。きっと、また真っ赤になるんやろうなーなんて浅はかな期待と一緒に。

(13.0328)
甘めなおはなしってこんな感じで大丈夫ですか…!?赤司くん京都の学校なので関西弁の女の子を出してみたんですが、もう、似非関西弁感が半端じゃないですね…。ううん…。でも関西弁の女の子のかわいさはジャスティスだと思うんです…。なんだか自分の主張ばっかりですみません><素敵リクエストありがとうございました!


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