さいきんただでさえ悪い成績がさがりつづけているせいで保護者と三者面談がひらかれようとも、それでもおれの頭はやっぱりばかだから、どうしたら可愛い可愛いあの子がおれに振り向いてくれるかということしか考えられなかったりする。


「バカすぎんだろおまえ」

「うるせーよ高杉」

「てかおまえ惚れてんならつべこべ言わずにまず話しかけろや」

「ちょ、おま、どうすんの。もし話しかけて『やだ坂田くんがっついてるーきもいー』なんか思われたらおれマジ死ぬかもしれねえよ?ショック死で」

「そのいきすぎた心配性な考えのほうがよっぽど気持ち悪ィから安心して話しかけてこい」

「つーかなんて話しかけんだよ、おれきみのこと好きなんだよねー結婚を前提にアドレスおしえてくれよ、とか?」

「てめェの無駄な社交性はまったく活かされねェらしいな。まずいろいろおかしいだろ」


 どこらへんがおかしいってんだ高杉コノヤロー。たしかに結婚を前提にってのは重すぎるかもしれねーが、おれはそのぐらいの気合であの子にのぞんでいるのだ。…まあ話したこともないが。でもそのぐらい好きなのだ、インスピレーションでわかる、あの子とおれは運命だ。

 ならば尚更話しかけるぐらいちょろいだろ、と高杉は言うのだが、それはおれには少々困難な問題なのだ。だいたいおれの社交性はその他大勢に向けられるものであり、特定の人物に向けられるものではない。いままでいろんなやつらと仲良くやってきたからそれなりに遊んでそうみたいなイメージをもたれているがそれは違う。おれはかなりの恋愛下手だ、それは高杉が保証してくれる。


「なあ高杉ー女の落とし方教えてくれよ」

「だからまず話しかけろっつってんだろ」

「それができねーから言ってんじゃねーか」

「じゃあ、酒飲んで押し倒して耳元で甘い言葉でも囁いとけ」

「不純異性交遊ダメ絶対ィィィ!!」

「なら聞く相手が間違ってることにまず気付けよ」


 だがおれのまわりで女受けがいい男なんて高杉ぐらいしかいねェ。しかも高杉は清純系から派手系まで見境なしだ。惚れた女のことを男友達に打ち明けるだなんざ気持ち悪いったらありゃしねーけど、それでもおかげで高杉の毒手にかかることなく、あの子は今日もキラキラした笑顔をあたりに振りまいてくれている。よしよし。

 高杉には「おまえはあいつの保護者かよ」なんてつめたい目で見られているが、それでもいい。高杉みてェなろくでもねェ男とつるんだおかげであの子のきれいな黒髪がけばけばしく染められたり、おおきなぱっちりした双眸がアイラインで黒く囲まれたりしないことのほうが、保護者扱いされる屈辱よりもよっぽど遵守すべきことなのだから。

 そして思う。おれは最終的に恋人になりたいはずなのに、このままでは一向に進展しないまま卒業してしまうのではないかと。しかもその可能性は大だ。

 はあ、と深く溜息を吐きながらかばんから期間限定のポッキーを取り出し、口に放り込む。ぜいたくなチョコの甘さが体に染み渡っていく感じが心地よい。


「…ん?」


 すると強烈な視線がこちらに向けられていることに気が付いた。まあこういう視線を向けられ慣れている高杉は平然としているが、少々尋常ではない視線だ。そちらのほうをおそるおそる向いてみると、そこにはいつにもまして目をキラキラと輝かせたあの子がおれのほうを一心不乱に見つめているではないか!


「やべェェェェェ高杉おれ死ねる!」

「ああ。そうだな、あいつが超弩級の鈍感じゃなかったらおめェのちっぽけな恋まがいはもう終わりを告げてただろうよ」


 その気色の悪い絶叫でな、と言うドン引きの高杉はあっさりと無視をしておいた。するとあの子はなんとそのままとことことおれのほうへと歩いてきて、ちいさなちいさな手をおれに向けて差し出したではないか。


「坂田くん!そのポッキー、わたしにも1つちょうだい!」


 かわいいいいいいい!!かわいすぎるぅぅぅ!!
 今回はどうやら心の中だけで叫ぶことに成功したらしい自分の根性に拍手喝さいをおくりたい気分をどうにか抑え込み、そのちいさな手にふるえながらポッキーを3,4本載せてやると、あの子はにっこりとそれはもううれしそうに微笑み(殺人級にかわいかった)、ぽりぽりとちいさくちいさくほおばり始めたではないか。おれからもらったポッキーをさももったいないというように、ちまちまと!

 それをほんわかと眺めるおれ。そんなおれをこの世の終わりみてェな顔をして見つめ、距離を取り始める高杉。ということはよって、周りから見れば今、おれとこの子は2人で会話を楽しんでいるように見える、のかもしれない。

 もしかするとおれの心臓はこのまま爆破してしまうつもりなのかもしれない。


「おいしかったーこの期間限定のやつずっと気になってたんだよね!」

「そ、そうだよなァ!うまそうだったもんなァ!」

「坂田くん甘いものすきだもんね!」

「え、なんで知ってんの」

「そりゃ坂田くんが甘いものすきなの有名だもん」

「そ、そ、そうかァーでもおまえが知っててくれたのはちょっと嬉しかったかなーなんつって」

「あはは!おもしろいなあ坂田くん。今度わたしもお菓子もってくるから、そのときは交換しあおうね!」


約束だよ坂田くん!

そう言いながらおれに手をふりともだちのところへと帰っていくあの子は、ほんとうに天使なんじゃないだろうか。そうでもねェとあのかわいさは説明がつかねェよマジで。


「ああ…高杉…おれ今世界で1番幸せ者かもしれねェ…!」

「どうでもいいからおれァおめェらのじれったい展開にいい加減飽きてきたぜ」


 ぎゃあぎゃあとうるせェ銀時を横目に、あいつの横顔を見る。ほら見てみろよおまえ。あいつ友達の輪に戻った瞬間、よくやったねーなんて肩たたかれてるじゃねェか。顔なんざ真っ赤で、1本だけ残したポッキーを大切そうに眺めてにやにや締まりのねェ顔してやがるし。あれに気付かねェおまえもそうとうな鈍感だよ、あいつのこと言えたモンじゃねえ。

 せめてアドレスぐらい聞きゃあ、あとはスムーズに進む気がすっけど、まあ、それはまだまだ遠い未来の話だろう。


(11.0924)


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