今日と明日は目覚まし時計も休む日である。そして堂々と惰眠を貪れる貴重な2日間を味わうことができる。そう、何と今日は待ちに待った土曜日なのだ。ぐっすりと眠りこける事が出来る。そして恭弥くんもわたしを起こしには来ない。というわけで昨日のアルコールも手伝って眠るところまで眠ったわたしが目が覚めたのは、なんと昼も間近の11時のことだった。

ぼさぼさの頭を手串で整えながら「おはよう」と声をかけると「早くはないけどね」と恭弥くんの声が返ってきた。確かに。


「なら、こんにちは」

「はいこんにちは」

「今日もいい天気だね、絶好にグダグダ日和だ」

「若いのに遊びに行かないの?」

「遊びに行くような彼氏は居ませんー、ちなみに友達は彼氏と仕事で大忙しなので相手にしてくれませんー。それに若いからってむやみやたらと男にモテるのはどんなに足掻いても21までなんだって。友達いわく」

「ワオ」

「まあ実際遊びに行くぐらい仲いいような友達はほとんど海外だから、ほとんど遊んだりしないんだけどね」


隠す事もなく大きな欠伸を晒すと、恭弥くんは手にしていた新聞でわたしの頭を軽く叩いた。どうやら今日の朝刊らしい。それを手に取り、いつの間に淹れてくれていたのかテーブルの上に置かれてあったコーヒーに口をつけながらページをめくる。その際邪魔だった横髪は耳にかけ、ずらずらと並ぶ活字に上から目を通していく。

それから一通り読み終えると、今度は外国新聞に目を通していく。おやおや物騒な事件が並ぶこと並ぶこと。すると恭弥くんはわたしの後ろからそれを覗き込んだ。


「どこの新聞?」

「イタリア新聞」

「イタリア語読めるの?」

「一応ね、一応。ほら、友達がほとんど海外に居るって言ったでしょ。アレ、イタリアなんだ」

「ふうん」


細い指先がぺらりぺらりと新聞を捲っていったが、何か目ぼしい記事は見当たらなかったらしい。すっとわたしの肩辺りに埋めていた顔を離しキッチンへと向かっていく恭弥くん。どうやら昼食を作ってくれるらしい。…いかんいかん不覚にもかなりときめいてしまったではないか。本当にイケメンというのは犯罪だ。うん。あの距離感は反則だ。うん。

ドキドキと爆発するんじゃないかと思うほど脈打つ心臓をどうにか落ち着かせ、改めて恭弥くんを見やる。

本当に綺麗な顔をしていると思う。少し中性的な雰囲気も手伝って男前、というよりは美人といった表現の方がしっくりと来るが、大人になったらどうなるのか楽しみなタイプである。…まあ幽霊なので大人になることはないのだろうが。そう思うと心が痛んだ。こんなに若いのに死んでしまうだなんて。口には出さないにしてもきっと苦しいし悲しいし寂しいに違いない。今もこの世に留まっているだなんて何か未練があるに違いない。

ならばこのわたしにしてあげられることなんて、彼に楽しい思いをさせてあげることだけなんじゃないか。わたしに出来ることなんて数少ないだろうが、それでも、わたしに出来る最大の楽しさを提供してあげなければならないのではないだろうか。エンターテイメント精神だ!


「ひどい顔」


そう言って恭弥くんはわたしの額を小突いた。いつの間に恭弥くんはわたしの傍まで来ていたのだろうか。そしてひどい顔というのは一体どういうことなのか、わたしはそれほどまでにひどい顔を晒していたのだろうか。慌てて頬を何度か叩くも既に時は遅しである。
恭弥くんは愉快そうに喉を鳴らすと、わたしの頭をくしゃくしゃに撫でた。


「僕は寂しくないよ」

「な、なんでそれを!やっぱり幽霊だから、そういう人間が考えてる事が手に取るように分かっちゃったりするの!?」

「あなた全部口に出てた」

「………マジか」

「ついでに言うと楽しい思いなら十分してる。だからあなたはそんな風に思い詰めなくてもいいよ」

「でも、ほら、なら、親御さんとかってさ、やっぱり会いたいとかって、ないの?」

「僕はずっと1人暮らしだった」

「え」

「親と一緒に暮らしたことすらない。だからこうしてなまえさんと一緒に暮らし始めて、生きていた頃よりも笑うことが多くなったぐらいだ。家で笑うなんて人間だった頃じゃ考えられなかった」

「………」

「ワオ、不細工だね。どうせなら笑いなよ、そっちの方があなたは似合うから」

「な、ななななな!何その少女漫画みたいな台詞!」

「へえ、こういうの好きなんだ」


た、確かにわたしはもう少女漫画みたいな恋に憧れるような歳を大幅に過ぎたわけですけれども。そこまで笑うことはないじゃないか!恐らく茹蛸のように真っ赤になっているわたしを見て更に恭弥くんは笑い声を上げる。あまりの恥ずかしさに堪らず恭弥くんにつかみかかるも容易くかわされてしまった。

確かにこうして大声で笑ったり、わたしと掴み合いをしてはしゃぐようなイメージは、出会った当初の彼にはなかった。それを踏まえると今の恭弥くんはずっとずっと歳相応だ。ただの大人っぽくて悪戯好きな少年の恭弥くんだ。そう考えるとたまらなく嬉しくなって恭弥くんの頭をわしわしと撫でてみた。
すると恭弥くんは少し驚いた様子を見せたものの、その手を振りほどくわけでもなく、猫のように少し目を細めて見せた。なんて可愛いんだろう。にへらと微笑むと、恭弥くんは頭を撫でていたわたしの手を取った。そして馬鹿みたいな微笑を浮かべるわたしとは反対に大人っぽい微笑を浮かべるたのだ。

あれ、今思ったら結構今距離近い。そう考えると心臓が途端に暴れだす。もしわたしがマスクマンだったならば心臓の位置からピンクのハートが盛大に飛び出しているところだ。


「でもさ」

「は、はい!」

「そういう感情豊かなところ、あなたらしくて、僕は好きだよ」


何でそういうことさらっと言えちゃうかなもう!


(10,1023)




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