恭弥くんはどうやらスウェットを気に入ってくれたらしかった。お風呂上りに早速着用してくれ、「着心地がいい」と感想まで下さった。そう言ってもらえるとこちらも買った甲斐があるというものだ。何となく嬉しくなってしまってニコニコしていると、恭弥くんはまた愉快そうに笑った。
「あなたって本当に喜怒哀楽が分かりやすいんだね」
「え、そ、そう?」
「まあそれがあなたの良さだけど」
「照れる!」
「さっきも子どもみたいな顔して僕のご飯食べてたし」
「子、子ども!」
「まあ色気溢れる大人の女ってわけじゃないけど、そっちの方があなたらしくていいんじゃない」
がしがしとわたしの頭の上のタオルでわたしの頭を何度か乱雑に拭くと、恭弥くんはわたしの隣に腰掛けた。クソウ、何だかしてやられて気分だ。子どもみたいってどういうことだ。まあ確かに恭弥くんの方が落ち着いてはいるけれども。口惜しい。何かで恭弥くんには勝てないものだろうか。
そう思い辺りをきょろきょろと見渡していると、偶然ゲーム機が眼に止まった。これだ、これしかない!
「恭弥くん!」
「何?」
「わたしとゲームしない?」
「ゲーム?」
「何でもいいよ!テトリスでも、何でも!あ、テレビゲームがあんまり好きじゃなかったらトランプとかでもいいけど」
「何、あなたゲーム得意なの?」
「うん!」
わたしは昔から遊びには強かった。テレビゲームから何でも、ゲームと名のつくものでは負けた記憶がない程だ。
すると恭弥くんはガタガタとゲーム機の準備を始めた。
「何ぼうっとしてるの」
「へ」
「やるんでしょ、ゲーム」
「やってくれるの!?」
「暇だしね」
「ありがとう!」
わたしも一緒になってゲーム機の準備を手伝い、ゲームの電源を入れる。するとテレビ画面に映されるゲーム画像。見てるだけでテンションが上がる。結局イーブンにということで誰もが知っていそうなゲーム、いわゆるテトリスを選択した。
そして恭弥くんと並んでコントローラーを取り、1Pと2Pで対戦する。なかなか恭弥くんもやるようだが、そんな腕前ではわたしには勝てないのだ!伊達に何年もゲームやってないのでね。
まずは1勝をあげたわたしを本当に意外そうに恭弥くんは眺めていた。どうやらまさか負けるとは夢にも思わなかったようだった。失礼な、わたしにだって得意なものの1つや2つぐらいある。
「まさか頭脳ゲームであなたに負けるなんて思わなかった」
「それってわたしを馬鹿って思ってたってこと!?」
「うん」
「(即答!)」
「もう1度」
わたしの1Pのコントローラーを取ると、よほど口惜しかったのか恭弥くんはリプレイを選択した。まあ何度やってもわたしの勝利で幕を閉じるわけなんだけどね!
しかし、何だ。すごく楽しいじゃないか。
「わたしねー」
「うん」
「こうやって誰かとゲームすんの、好きなんだ」
「へえ」
「でも前の彼氏はね、ゲームに興味なかったの。お前まだゲーム好きなのかって、子供だなって笑われちゃった」
「子どもじゃない」
「あはは、子どもでも何でもいいや。でもね、とりあえずわたし今、すごい楽しいんだー」
「ふうん」
「恭弥くんがきてくれて、良かったな」
そう言うと恭弥くんはふっと微笑んで、わたしを肘で小突いた。その衝撃で全く違うところに違うピースを運んでしまって憤慨するわたしに愉快そうに笑い声を上げる恭弥くんに同じく肘をお見舞いする。すると恭弥くんも全く違うところに違うピースを運び、ぎょっとしたように綺麗な目を大きく見開いた。あっはーザマーミロ!そう言ってやると、恭弥くんは「いい度胸だね」と言って笑った。
恭弥くんが来て2日目だけれど、何だか笑うことが多くなってきたように思う。とりあえずこの勝負に勝てば明日の晩御飯はわたしの大好きな肉じゃがになるらしいので、死ぬ気で勝たねばならない。
(10.1023)