とりあえず分かったことといえば、僕はこの部屋から出られないこと。そして有名な幽霊の記述の通り、壁などをすり抜けられること。それから食事などの必要は一切ないこと。そして試してみたところ、すり抜けようと思わない限りは物にも触れられるということ、それに愉快な同居人には恋人と呼ばれるような存在が居ないことぐらいである。まあそうでなければたとえ幽霊といえど男を同居させるだなんて、よほどの男好きか頭の弱い奴だろう。…まあ実際少し頭は弱いようだが。

そしてつい先程なまえさんは会社へと出勤してしまったため、実質ただの暇人となってしまった僕はソファにどっかりと腰掛けテレビの電源をつけた。液晶画面の中では有名なアナウンサーが一生懸命ニュースを報道している。
わたしが居ない間でも部屋にあるものは自由に使っていいからねと言われたので自由に使わせてもらってはいるが、元よりテレビがそれほど好きな性分でもない。ものの数分で飽きてしまった。リモコンを放り投げる。そしてなかなか座り心地のいいソファに横になった。

だが、生きているときはこうしてソファに横になることも、時間を持て余すこともなかった。暇な時間なんてものも殆どなかった。今の状況を考えてみれば死ぬのも悪くはないとさえ思えた自分に笑いがこみ上げてきた。死とは無になることだと思っていた為に、こうして死した今も意識があることが不思議でたまらない。だが、愉快だったのはまだ自分がどこかで生きているつもりでいることであった。人と関係を持っている、物に触れられる、時間の流れの中に身を置いている、感性を持っている。まるで生きているようだ。

しかし不思議なことに、僕には自分がどうして死んだのか、その記憶がないのである。それまでの記憶なら全て揃っているのに、死ぬ間際の記憶だけがすっぽりと抜け落ちてしまっている。思い出そうとすると真っ白にはじけて訳が分からなくなる。

だがしかしそんなものなのだろう。誰しもが自分が死した瞬間など思い返したくもない。きっとそれは苦痛と絶望に塗り固められているのだから。

ごろりと横になると、朝出勤する前のなまえさんの様子が思い浮かんだ。あの人は本当に愉快な人だ。


「新婚さん、ねえ」


確かに、よくテレビドラマなどで繰り広げられる新婚生活の典型的パターンだったが。本当に面白い人だ。幽霊相手に新婚さんみたいだ、とは。しかも僕が新妻。思い出せば思い出すほど笑いがこみ上げてくる。


「まあ、悪くないけどね」


こうして暇な時間を堪能するのも、彼女の世話を焼くのも、彼女の新妻となるのも。全部。


(10.1023)




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -