学生の頃から1人暮らしに憧れていた。門限なんてなくて口うるさい親なんて居なくて友達をいつでも好きなときに招く事が出来る。しかし実際大人になって1人暮らしをしてみればそのデメリットの大きさに日々落胆の溜息を吐かずには居られない現状だ。家事をこなすのは勿論のこと、1人で食べる夕食ほど味気ないものはない。疲れ切って帰ってきたとしても家には明かり一つついていない。今更になって家族で住んでいたあの頃がひどく懐かしい。温かい我が家に帰りたい。しかしわたしにはもうわたしの生活が出来てしまった。なのでどれだけ寂しかろうがわたしはここで1人頑張っていくしかないのである。まあ彼氏でも出来れば少しは違うのかもしれないが、そんなものがそう簡単に出来たなら苦労はしない。おっといけない数週間前に別れた男の顔を思い出してしまったではないか。あの浮気男だけはどうにもならないぞホント。

そんなことを考えているとあっという間に自宅前に到着した。慣れた手つきで鞄から鍵を取り出すと扉を開き「ただいまー」と返ってきもしないのに声をかける。すると1つの異変に気がついた。

電気が点いているのである。

勿論わたしが点けた訳ではない。これはおかしいぞ。母親でも来たのかと思い足許を確認するがそこにあるのはわたしの靴だけである。…まさか強盗か?そんな考えに血の気がさっと引く。もしや明日の夕方のニュースになってしまうコースなのか?嫌だ、まだ23歳なのだ。どれだけ寂しい生活を送っていようともさすがにわたしももっと生きていたいぞ。

そう思いおそるおそる顔を上げると、そこに立っていたのはわたしが思い描いていた強盗像とはえらくかけ離れた、とても眉目麗しい少年だった。


「おかえり」

「…た、ただいまです」


声が緊張のあまり上ずった。だがとりあえず強盗ではないらしい。それにほっと安堵するが、すぐに気がついた。いや、少年が家に居る方がよっぽど犯罪チックではないか。いくらこの少年がわたし好みの端整な顔立ちをしていようが、誘拐罪なんかで捕まるのは御免である。
まず何を言っていいか分からず慌てるわたしに少年はゆっくりと口を開いた。紡がれる心地の良いテノールボイスに少しキュンとしたりもしたが、あくまで少しだ。ただしわたしがもし社会人ではなく学生だったならばきっとすぐにそして確実にメロリンしてしまっているぐらいのレベルで。


「最初に言っておくけど、あなたが心配しているようなことは絶対に起こらない」

「へ?」

「あなたが誘拐罪で捕まることもないし、反して僕が不法侵入で見つかる事もない」

「な、何故」

「信じろとは言わないよ。ただこれが真実なんだ」

「?」

「僕は幽霊だ、誰にも見えない。ただ、あなた以外の人間にはね」


何を言っているのだろうこの少年は。もしや電波少年なのだろうか、こんなにイケメンなのに。いや、これだけイケメンだからこそ許されるのだろうか。もし不細工が電波だったらいたたまれないが、イケメンだったらどうだろうかという神様の挑戦なのだろうか。それならば受けて立ってやろう。話しの内容自体は信じがたいものだが、未だに彼はわたしの中でかなり好ポイントを保っているぞ神様。クソウびっくりするほどイケメンだ好みだ、わたしがあと5歳若かったならば。
するとそんな葛藤をしているわたしを華麗にスルーして、少年はゆっくりと玄関に設置してある全身鏡を指差した。そこにはわたしと、そこに立っている少年が映っている、はずだった。


「なんで、」


そこに映っていたのは阿呆面を晒すわたしだけであり、少年の姿は映っていなかった。本当に、まるでそこにはわたしだけしか居ないみたいに。

本当に、彼が幽霊だということを証明付けるみたいに。


「それから、今まで試してみたけど僕はここから出られない」

「へ」

「だから悪いんだけど」


それってそれってそれって。ワクワクするじゃないか。少年が何か言おうとしていたが、全て言い終わる前に少年の手を取った。若干驚いたように少年の瞳は大きく見開かれたがそんな表情さえもイケメンである。…いかんいかん、そんなことは今はどうでもいいのである。
わたしは何度もぶんぶんと首がもげるのではないかと思うほど首を縦に振った。もしここが欧米であったならきっと迷わずハグしているところだ。そのぐらいテンションは絶好調である。


「じゃっ、じゃあ君さえ良かったら、もし良かったら!」

「……?」

「一緒に、住みませんか!」

「…いいの?」

「是非!」

「………」

「………」

「…あなたってよく抜けてるって言われない?」

「言われる!」

「だと思った」


クスクスと少年は笑った。ああ何てイケメンなんだ。もう最早犯罪でもいいんじゃないかと思うほど個人的にはかなりメロリンである。そして極めつけには少年に見惚れるわたしの垂れた横髪を耳にかけてくれたではないか。どうしよう、もう結婚したい。


「僕の名前は雲雀恭弥。よろしくねなまえさん」


何で名前知ってるの、そう聞こうとして、やめた。なぜならばわたしが聞こうとしていた質問の全ての理由は彼の手の中にある1枚の免許証に物語られていたからだ。ああそれは燃やしてしまいたいほど気に入らない写真写りの…!不細工にも程がある。何故目が半分も開いていない。カメラとの相性が悪すぎる。そしてそれを見て愕然とするわたしを見て恭弥くんはニッコリと笑った。


「あなたでよかったよ、退屈しないで済みそうだ」


ああそんなことをそんな表情で言われたら、頭がショートしちゃうじゃないか。

(10.1015)





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