あれからもう3日経った。恭弥くんはあの後すぐに意識を失い倒れ、わたしのベッドで1度も目を覚ます事無く眠り続けている。時折苦しそうに呻いているが、わたしにはどうすることもできない。頭をなでたり手を握ったり、わたしができることなんて精々その程度の事なのだ。無知な自分がひどく腹立たしかった。幽霊の治療の仕方など、誰が知りえるだろう。それでもやはり、口惜しかった。苦しむ恭弥くんを前にして何も出来ないで居る自分が、ひどく憎かった。


「恭弥くん、もう目が覚める事はないのかな」


そうなったとしても何もおかしいことじゃない。元々恭弥くんがここに居てくれる保障など、どこにもなかったのだ。今すぐに消えてしまってもおかしくない。少し目を離した隙に消えてしまっているかもしれないし、朝起きれば跡形もなく全てが夢のようになかったことにされてしまうかもしれない。それだけは嫌だった。せめて、消える瞬間があるのならば、見届けたかった。それだけが今のわたしの望みだった。大好きだった仕事だって、もう謹慎はとけたというのにわたしは未だに行けないでいる。部長には「風邪を引いた」と言い訳をしておいたが、あの鋭い部長の事だ。きっとわたしのそんなちっぽけな嘘なんて見抜いているに違いないのに、「無理をするなよ」と休暇をくれた。なんて恵まれた職場に就職できたのだろう。自分の幸運を改めて実感した。

端整な顔立ちをした恭弥くんは、わたしのよく知る恭弥くんだった。幼いのに大人っぽさを秘めた端整な顔立ちの男の子。わたしよりうんと年下の癖して大きな手をした、優しい男の子。


「幽霊も人に見えるようになるなんて、知らなかったよ。言ってくれれば良かったのに」


あの夜、恭弥くんの姿は確かに鏡に映っていた。今の恭弥くんよりもずっと逞しい、いわゆる大人の姿の恭弥くんの姿が。やられたよ、大人だったんだね恭弥くんは。大人っぽいんじゃなくって、大人だったんだ。クスクスと笑うも恭弥くんの反応はない。

何だっていいのに。どんな下らない言葉だっていい。何か恭弥くんと話がしたい。これが最後だって言うなら、一言一句忘れないで居られるように、どんな些細な仕草だって脳に刻み付けて見せるのに。


「恭弥くん、眼を開けてよ」


それでも目覚めない恭弥くんの手を強く握り締めた。神様生涯たった1度のお願いです。彼を生き返らせてくれとは願いません、ただ彼と少しだけでもいい、話をさせてください。

(10.1108)




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