最近アイツ可愛くなってきたよな。そう社内でも囁かれるようになってきた元恋人の存在が今更気になるだなんて、誰が死んでも言えようか。自分から振っておいて「可愛くなったから寄り戻してくれ」なんてプライドが消滅しない限り言えるわけもない。そしてオレのちっぽけなプライドは生憎まだ存在してくれている。

しかし運命というのは数奇なもので、何故かオレは元恋人と同じ企画を担当することになった。

だがよくドラマなんかであるような気まずさは絶対にオレたちの間には漂わない。コイツは普段は阿呆のような女だが、仕事は本気なのだ。それに自分を拾ってくれた部長に恩返しがしたいといった一心で仕事に励むため、決して仕事を疎かにしたりはしない。そのため部長からは全幅の信頼を寄せているが鈍感な彼女はそれに気付くこともせず、だからこそ慢心せず仕事に取り組んでいるわけだが。

ちらりと視線で伺うと隣には真剣な表情で仕事に取り組むなまえ。…確かに評判どおりオレと付き合っていた頃よりも随分綺麗になった。肌も大分綺麗になったし、何だか幸せそうになったというか。…落ち込ませる要因となった自分が思っていいような感想ではないことは重々承知だが、本当にそう思う。
ああ、コイツは本当に綺麗になった、と。


「なまえ」

「何?」

「お前綺麗になったな」

「最近毎日楽しいからね」

「何でよ?男?」

「内緒!」


そう言って恥ずかしそうになまえはにへらと笑った。ああ、あの笑顔は。元恋人のオレが断言できるのだから、間違いない。あれは、恋をしている笑顔だ。
その様子を見て、なまえが誰かと今恋をしていることも分かった、そしてうまくいっていることも分かった。ならばいいじゃないか。自分と別れた後その恋人が今は他の人と幸せになっている。いいことではないか。
だというのに、オレの心はどこかでそれを祝福していなかった。

(面白くねーな)

デスクの下で白くなるほど握り締めた拳に、なまえは気付いていなかった。

(10.1023)




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