第四章
 ピノッキオと べらべらコオロギ の話をのぞき見ると、邪悪でやんちゃな男の子は、自分より知識のある虫に性格を矯正されることに本気で退屈を感じているらしい

 これを読む少年たちに教えてあげましょう。かわいそうなジェペットは無実の罪で刑務所に入れられたのに対し、クソガキのピノッキオは憲兵の手から解放され、本人はなるはやで帰宅するために野原を横切って駆け抜けていったのですが、その走りの猛然さたるや、子鹿や野うさぎが狩人に追われているかのようであり、走りながらとても背の高いいばら生け垣いけがきや水の流れる用水路を飛び越えていったそうなのです。
 家に着くと、通りに面したドアが半開きになっています。ピノッキオは扉を自分の体で押して中に入ると、扉に杭をはめて戸締りをし、それからすぐに尻を地につけて身を投げ出してから満足そうに大きなため息をつきました。
 しかし、その満足感も長くは続かず…、というのもその場で音が聞こえたのです。

「クリッ クリッ クリッ!」

「ぼくを呼んでいるのは誰?」

 ピノッキオは、そうとうビビりつつ言いました。

「私です!」

 声にピノッキオが振り返ると、ふっくら大きめのコオロギがゆっくりと、壁を上に上にと登っていくところが見えました。

「コオロギ、きみが何者なのか教えて」
「私は べらべらコオロギ。この部屋に百年住んでいるんですよ」

「けど、ほんじつ この部屋はぼくのものだぜ」

 と人形は言いました。それから「きみがぼくを本当に喜ばせたかったら、振り返るスキすら見せずに今すぐこの部屋から去れ」と付け足しました。

「私は大きな真実をきみに語り伝えるまではここを離れるつもりはないのだ」
「じゃあ教えて。すぐでいいよ」

わざわいなるかな、親に反抗し、気まぐれに放蕩ほうとうし父親の家をてる子らよ。お前たちがこの世で善良になることは無く、遅かれ早かれ苦めにこっぴどく後悔しなければならないだろう」

「お好きなようにく歌えよ、ぼくのコオロギ。でも明日の夜明けにはぼくはここから出ていくつもり。というのも、知ってるからだ、きみたちは愛の力のために、ぼくを他の男の子と同じように学校へ勉強しに行かせるんだろう。自信を持って言えるが、まったく勉強なんかしたくないぜ。蝶を追いかけたり、木に登って巣から小鳥ひなをつまみ出したりするのが楽しいんだ」

「かわいそうでおバカなキッズ! そんなことをしていたら美しいマヌケなロバに育って、みんなにからかわれて暮らすことになるのを知らないの?」

「黙れ! 汚ねえコオロギの不運をお祈りいたします!」

 ピノッキオはそう叫びました。
 しかし、忍耐強く哲学者であったコオロギはこの無礼なくそ煽りレスポンスに傷つくことなく、さっきと同じ声の調子で続けたのです。

「学校に行くのが嫌ならばね、せめて商売を覚えて、パン切れ一つを買うのに少なくともどのくらい稼ぐ必要があるのか学んでみたらどう?」
「お前まだしゃべりたいのか?」

 ほぼほぼ我慢の限界に到達しつつあるピノッキオがコオロギに答えます。

「この世で一つだけ、好きな職業があるよ」
「おお、その職業は何?」
「ただ食べて、飲んで、寝て、遊んで、朝から晩まで放蕩生活ほうとうせいかつ

「…我々の世界のルールでは」

 と、べらべらコオロギがいつもの冷静さのまま、言いました。

「その仕事をしている人は、ほとんどの場合は病院か刑務所にたどり着いているんですよ」

「いいか、汚ねえコオロギ!心から不運をお祈りいたします!…私の癇癪かんしゃくにこれ以上、種付けしてきやがったらタダではおかないからな!」

「かわいそうなピノッキオ!本当に気の毒な子だね」

「なぜあわれんでくるのだ?」

「きみは人形で、さらに悪いことに頭脳も木製だからさ」

 これが最後の言葉でした。これを最後にピノッキオは激怒して、作業台にあった金づちを手に取ると、べらべらコオロギに投げつけました。
 多分、殴りつける気はなかったのでしょうが、残念なことに金づちはコオロギの頭を直撃してしまい、かわいそうなコオロギは「クリ……クリ……クリ……」と泣く泣く息をするのがやっとで、そのまま壁で立ち往生おうじょうし、ひからびてしまいました。


◆出典元
『ピノッキオの冒険』 AVVENTURE DI PINOCCHIO
作   カルロ・コッローディ Carlo Collodi
出版社 Felice Paggi Libraio-Editore  出版年 1883年
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