モグラ説


 これは、密室状態になった廃寺から、何とかして出ようとするシーンの──ドラマでいうところのNGである──。


「扉を何とかして開けるぞ」
 と、ジンは決意新たに宣言した。
「つったって、どうすんだよ。何やっても開かない、壁だって崩れてない! 飛び越えようにも壁は高すぎる! んな密室からどうやって出られるんだよ、あぁ!?」
 ケンジが自棄になり、怒鳴り散らす。
「穴を掘ろう! 人一人通り抜けられるような穴だ。なるべく扉の近くでな。だが、それが無理なら最悪……崖下から別荘へ戻る道がないか、探す」
 そう大きな声で宣言したジンであった。が……。
「……な、何だよ。何で皆、黙るんだよ」
 ジンが先程発した言葉を聞いたマイコ、アヤカ、ケンジの三人は、白けた目でジンを見ている。
「ど、どうしたんだよ。俺、何かおかしなこと言ったか?」
「……穴」
 ぽつり、とアヤカが零す。が、その単語だけでは意味がわかるはずもなく──ジンはますますわからない、と不安げに瞳を揺らした。
「あ、穴がどうしたんだよ。穴を掘るのがおかしいのか?」
「……だって……ねぇ?」
 顔を見合わせてクスクス笑うマイコとアヤカ。ケンジもニヤニヤと笑っている。
「何なんだよ、はっきり言ってくれよ!」
 ジンがお願いします! と頭を下げると、ケンジが馬鹿にしたように言った。
「穴なんてどうやって掘るんだよ? スコップもシャベルも、道具は何にもねぇんだぜ? それとも何か? 手で掘るってか? 冗談じゃねぇ、オレ達はモグラじゃねぇんだ」
 そこまで言うと、ケンジは声を上げて笑った。
 指摘されたジンはというと、
「そ、そんなの……でも、手で掘れないこともないじゃないか!」
 と、ミスを認めようとはしなかった。
「何時間かかるんでしょうね? それこそモグラじゃないと無理よ。ねぇマイコ」
「うん。モグラじゃないとね。……それともジンは、『俺、実はモグラだから掘れるんだよ』とでも言う?」
「なっ、俺はモグラじゃねぇ!」
 シリアスな雰囲気が壊れ、完全にジンのせいでおかしな──笑える展開になってしまっている。
「と、とにかく! 穴を……」
「掘るなら一人でやってくださ〜い。あたし達は人間だから無理でーす」
「モグラのジン君一人で頑張ってくださ〜い」
 マイコは珍しくもケンジと一緒になってジンをからかうことにより、少しでも恐怖から気を紛らわそうとしているのだろう。
 冗談を言って、場を明るくしようと努力しているのかもしれなかった。ケンジには、そういう気遣いは一切ないだろうが。
「もう、二人ともジンをいじめないであげて」
「ア、アヤカ……」
 キョウスケを亡くしたばかりだというのに、自分を庇おうとしてくれるアヤカ──そんな彼女が、ジンには救いの女神に見えた。
「ジンはきっと、モグラだということを今まで隠して生きてきていたのよ。まさか、こんなところでバレるとは思ってなかったのね……可哀相に。でも安心して。人間のフリした珍しいモグラがいるってことは、世間には黙っておいてあげるから」
 そう言ってにっこり微笑むアヤカ。
 もはや女神の面影はなく──そこには、美しい悪魔がいるだけだった。
「……もう、いいよ……認めるよ。俺の言い方が悪かったんだ……。
 そうだよな、手で穴を掘るなんて、モグラにしかできないよな……。うん、無茶ぶりしてすいませんでした。
 というわけで、さっきの言葉……訂正させてください……」
 泣きそうな声でそう言うと、ジンは「穴を掘る」宣言をなかったことにした。
 そして彼は──。
「壁に穴がないか探せ! 人一人通り抜けられるような穴だ。扉付近だけじゃなく、廃寺全体でだ。それがなかったら、最悪……崖下から別荘へ戻る道がないか、探す」
 と、言い直したそうな。



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