真実の名



「はー、何かしっくりこないんだよなー」
 ジンは椅子に座ったまま伸びをし、ストレッチでもするかのように首を左右に動かす。
 ポキポキと音がなり、どれだけ同じ体勢で固まっていたかをその音だけで教えてくれるようだった。
 別荘に来て一日目の夕方、五人は広々としたリビングルームで夕食を待っていた。
 一応個々の部屋はあるものの、肝試しの事もあるせいか、いつの間にかこの部屋に集まっていたのだ。
 クラシックが流れるこの部屋は、全てが真っ白で洗練されているように感じるが、光を取り入れる為に一部の天井がガラス張りになっているので、そこから明るい夕日が部屋へと入り込み、何処か暖かみも感じる。
「何がだよ?」
 ジンの小さな呟きを聞き、真っ先に反応したのはケンジだった。
 ケンジは向かい側に座ってノートパソコンと向かい合っているジンを訝しげな表情で見つめる。
 先程まで話をしていたアヤカとマイコも、ケンジの声を聞き、ジンの方へと視線を向けた。
 皆の視線が集中しているジンだが、それに気付いていないのか、伸ばしていた手を下ろし、頭を抱えながら深いため息をつく。
「名前だよ、名前! 登場人物の名前!!」
 相当苛立っているのか、声を荒げながら、自分の目の前にあるノートパソコンを睨みつけた。
 ノートパソコンは、ジンが自分の家から持ってきたもののようで、画面にはジンが打っていたであろう、小説のプロットがぎっしりと書かれている。
 それを見ながら、ジンは自分の髪をグシャグシャに掻いて、うんうんと唸っていたのだ。
「そんなの後でいいんじゃねーの?」
 ジンの悩みをバッサリ切り捨てたのはケンジだ。
 それに賛同するかのように、マイコも無言で頷いている。
 だが、ジンはその言葉を聞き、思わずケンジをギッと睨んだ。
「今の状態で手詰まりなんだよ! それを解消するには、何かしら変化を付ける必要があるんだ」
「……それで、今まで思いつかなかった名前を付けて、何とか手詰まりの状態を打開しようって事なのね?」
 アヤカはジンのしたかった事を、ジンが怒って説明する前に、サラリと話してしまう。
 自分の話そうとした事をアヤカに言われてしまったジンは、拍子抜けしたのか目を丸くし、アヤカの方を見て、無言でコクリと頷いた。
「そういう場合は、ネットに繋げて……」
「うわっ!!」
 突然ジンの横に割り込んできたキョウスケが、ジンのパソコンを触り、カタカタカタっと操作をし始める。
「ここって、一応ネットできる状態だったんだな」
 キョウスケの手際よい行動を見つめながら、ジンがポツリと呟くと、アヤカは面白そうにフフッと小さく笑った。
「そうよ、別荘でも不便なのは嫌でしょう? 元々はのんびりと寛ぐ為にある場所だから、あまり言わないようにしていたんだけど、ジンはお仕事があるものね。仕方ないわ」
 アヤカが眉尻を下げながらも、優しく説明をしてくれた。
 だが、その話を聞いて、マイコがムッと膨れ、ジンを睨みつける。
「あーあ、せっかくアヤカ達が好意で内緒にしていたのにそれを無下にしちゃうなんて……」
 小さな、でも確実にジンの耳に届く声でチクチク突き刺さるような文句を言った。
 ジンはマイコの言葉にぐうの音も出ないようで、目が泳いでいる。
 だが、それを止めたのはキョウスケだ。
 キョウスケは困ったように笑いながらも、二人の顔を交互に見やる。
「まぁまぁ、言わなかった僕達が悪いんだから、喧嘩はしないで。ほら、ネットで自分の気にいるような名前を探してみればいいと思うよ」
「悪いな、キョウスケ」
 ジンはキョウスケに謝りながらも、すぐにパソコンの前に座り、色々と検索をかける。
 辺りにカチカチと一定のリズムが鳴り響き、皆が皆、クラシックの音楽など耳に入らなくなっていた。
「ねぇ、これは?」
「はっ? うわぁ!!」
 突然マイコの声が耳元で聞こえ、ジンは驚いてその場から逃げようとする。
 マイコはジンの座っているソファーの後ろから、いつの間にかジンの右肩に顔をのせていたのだ。
 軽くパニックを起こしたのか、ギクシャクと動くジンの様子を、マイコは怪訝な表情で見つめていたが、すぐにパソコンの画面を見つめながら、ある一文を指差す。
 それをアヤカがマイコの横から覗いた。
「ええっと、『アナタの漢字はどんな感じ?』……何かしらコレ?」
 アヤカの言葉からダジャレのような言葉が飛び出し、一瞬場の空気が凍った。
 ただ画面の文字を読んだだけなのに、アヤカに似つかわしくない言葉のせいで、こうも雰囲気が変わるのだから、彼女は違う意味で凄い人物だ。
 ジンは急いでパソコンへと視線を戻し、アヤカの読んだ言葉を探す。
 すると、確かにアヤカが読んでいた言葉が画面の一番下の方に出ていたのだ。
 それをクリックして、説明をささっと流しながら読むと、ふむと小さく頷いた。
「人の名前・生年月日・年齢・性別を打ち込むと、その人物の名前に本当に合っている漢字を探してくれるみたいだな。例えば……」
 ジンが手慣れた様子で打ち込んでいく。
 それを見てマイコがいきなり大声を上げた。
「ちょっとそれ、あたしの名前じゃない!! なんで、あたしの生年月日とか分かっているのよ!! うわ、全部当たっているし……」
 マイコが信じられないといった表情で驚いていると、ジンが深いため息をつきながら、マイコを見つめた。
「あのな、幼馴染だから当たり前だろ」
「私、アヤカの誕生日しか知らないけど……そっか、普通なのか」
 ジンの言葉に納得したのか、マイコは何度も頷いたが、その後ろでケンジがニヤニヤと面白そうに笑っている姿を見て、ジンはすぐに顔をそらした。
 そして何でもない風を装い、パソコンと向き合う。
「じゃ、『診断』っと」
 ジンがエンターキーを押すと、パッと画面が変わる。
 だが、そこに書かれていた文字は、一同を部屋と同じ真っ白にさせてしまう程、強力なものだった。


マイコさんの漢字――迷子(マイコ)



「ま、迷子……ぶっ、くははははっ!! マイコが迷子とか笑えるな!!」
「なによこれ、何であたしの名前が『迷子』になるのよ!!」
 無音だった部屋に、笑い声と怒鳴り声が同時にこだました。
 ケンジは腹をかかえて笑い、マイコはパソコンに向かって顔を真っ赤にし、怒鳴っている。
 キョウスケとアヤカはと言うと、目を逸らしながらも、口に手を当て、声を殺して笑っているようだ。
 だが、マイコ以外のほとんどが笑っている中、ジンは笑いもせず、画面を食い入るように見つめていた。
「えーと、なになに……『判断力のないアナタはまさに人生の迷子。いつも人の意見に流されます。流されたのは自分の判断力のなさなのに、結果が悪いと、すぐに人のせいにして逃亡。迷子から抜け出すのは一生無理なようです』だとよ」
「なに無表情でスラスラ読んでいるのよ、ジン!!」
 マイコは怒りを全てジンにぶつけるかのように、大声で怒鳴るが、ジンは大きく何度も頷いている。
「そうそう、すぐにマイコって人に押し付けて逃げるんだよな。上手い事言っているな」
「何で納得してんのよ!! むかつくー!!」
 マイコは怒りにまかせてジンの頭を思い切り叩く。
 それがかなり痛いのか、ジンは慌ててマイコの両手を掴もうとするが、それより先にアヤカがマイコの両肩に手を置いた。
「気にする事ないわ、これはただの遊びみたいなものよ。私は迷子(マイコ)がそんな人じゃないって分かっているもの」
「アヤカ……」
 優しい笑みを浮かべながらマイコを宥めるが、呼ばれた名前の漢字が違っている事に、マイコは気づいていない。
 マイコは嬉しそうにアヤカを見つめ、感無量と言わんばかりに頷いた。
「……絶対にマイコって言ってなかったよな、お嬢様」
「そんな事ないよ、マイコは迷子(マイコ)なんだから」
 ケンジがヒソヒソとジンに耳打ちした言葉に、即座に反応したのはキョウスケだ。
 アヤカと同じくらい優しい笑みでケンジを見ているが、見られているケンジはキョウスケの言葉に凍りつく。
「次はジンやってみてよー」
 だが、その雰囲気に気付いていないのか、マイコが口を尖らせてジンへと文句を言う。
 いきなりお鉢が回ってきたジンは、驚いたように目を大きくした。
 だが、そのお陰でキョウスケの視線がケンジから外れ、ケンジはホッと安堵の息を吐く。
「オレかよー。仕方ないなぁ……」
 ジンは面倒くさそうにパソコンへ必要事項を打ち込み、すぐにエンターキーを押した。
 それを最初は楽しそうに横で見つめるマイコだったが、出てきた文字を見て、むすっと頬を不機嫌そうに膨らませる。


ジンさんの漢字――刃(ジン)



「えー、刃? 私よりいいってどういう事よ!?」
 マイコは相当悔しかったようで、眉を吊り上げながら、ジンの背中をポカポカ叩く。
 だが、一応加減はしているらしく、ジンは痛そうな顔をしない。
 そんなマイコの手を止めたのはキョウスケだ。
「そんな事なさそうだよ、迷子(マイコ)。ほら続き」
 さりげにマイコの名前を迷子に定着させたキョウスケの言葉を聞き、マイコは手を止め、パソコンの画面を見る。
 もちろんマイコは自分の名前がもう迷子で定着しているのに気付いていない。
「えっと……『いつも心の奥に刃を隠し持っているアナタ。表面ではいい人ぶりますが、本当は虎視眈々と狙っているものがあります。ただ、ヘタレなので、刃はあるくせに、隠しているだけで使う事が出来ません。もう刃こぼれし、ボロボロになっている事でしょう』って。やーい、ヘタレー!!」
 マイコは先程の仕返しと言わんばかりに、ニタリと笑い、ジンをからかう。
「当たってんじゃん、お前ヘタレだもんな」
「ヘタレ、ヘタレとうるさいな!!」
 マイコの悪乗りに乗ったケンジを一喝するように怒鳴るジンだが、そんなもの何とも思っていないのか、ニヤニヤとケンジはからかうように笑ったままだ。
 今回はキョウスケもアヤカも止める気がないのか、二人でニコニコとジンを見つめている。
 だが、その笑みを先に消したのはアヤカだった。
 口元に手を当て、少し考えるようなそぶりを見せたかと思うと、手をパンと叩き、ジンを見つめた。
「次は私を調べてくれないかしら?」
「えっ、アヤカも!?」
 マイコはアヤカの発言に驚いたのか、目を白黒させながらも即座に反応する。
 もちろんジンやケンジも驚いたらしく、先程まで言い合っていた口をあんぐり開けたまま、アヤカを見つめていた。
 驚愕の表情で見つめられているアヤカはと言うと、ニコニコと笑みを絶やさず、楽しそうにコックリと頷いた。
 それを見て、ジンは困ったように頭を掻くと、小さな溜息をつく。
「はぁ、どうなっても知らないからな。えっと、アヤカの生年月日は……何だっけ?」
「はぁ!? 何で知らないのよ!! 仕方ないわねー、アヤカは……」
 ジンの横から先導するかのように、マイコがアヤカの生年月日をスラスラ答えていった。
 その様子を見て、アヤカはフフッと小さく笑う。
「ジンはマイコしか見ていないもんね」
「あー、『診断』するぞー!!」
 ジンはアヤカの言葉に自分の言葉をかぶせるように大声で話すと、すぐにエンターキーを押す。
 皆が食い入るように見つめる中、出てきた言葉は……それはそれは恐ろしい言葉だった。


アヤカさんの漢字――殺赤(アヤカ)



「え、えーと」
「どぎつい判定が出たな。でもいいんじゃね、そんな感じだし」
 フォローの言葉が思い浮かばないマイコに対し、皮肉のような言葉を吐き捨てるケンジ。
 思わずマイコはケンジを睨むが、ケンジは関係ないといった様子で、鼻を鳴らす。
「アヤカは……『常に完璧なアナタは、それを崩されるのを嫌います。崩される位なら、相手を殺める事すらいとわない、残虐な性格の持ち主です。相手を殺め、その色で真っ赤に染まる事もあるでしょう。ですが、それすら美しく見える程の魅力を秘めている、カリスマ的存在です』だそうだ」
 ジンはスラスラと、でも遠慮がちに読んでいくが、その度にマイコの表情が険しいものになる。
 だが、アヤカの表情は全く変わらない。
 ニコニコと笑みを湛え、ジンの言葉をジッと聞いていた。
「そうだね、アヤカは例え赤に染まったとしても、その美しさが更に映えるだけだね」
「キョウスケったら」
 ジンの読んでいた内容を聞いて、キョウスケが愛おしそうにアヤカを見つめる。
 アヤカもキョウスケの言葉に嬉しそうに、でも何処か恥ずかしげに微笑んだ。
「……えっ、それでいいの?」
「まぁ、いいんじゃね」
 マイコはキョウスケとアヤカの普通とはちょっとぶれているような反応に、思わず突っ込んでしまったが、どうやら二人には届いていないようだ。
 ケンジはつまらなさそうに口を尖らせていたが、すぐにその表情が笑みへと変わる。
「次はオレやってくれよ!!」
 ケンジがジンに寄り掛かるように体重を乗せ、パソコンを指差した。
 ジンは重そうにしながらも、ハイハイとすぐにパソコンへと向かう。
「ケンジだな、分かった。生年月日は何だ?」
「本当にマイコしか覚えてないんだな、お前」
 ケンジが呆れたように首を横に振ると、面倒くさそうに自分の生年月日を話し出す。
 それを真っ赤な顔をして、ジンがパソコンへと打っていった。
 マイコには先程の会話が聞こえていなかったのか、ジンがエンターキーを押した瞬間、ジン達の方へと近づく。
 そしてその目に飛び込んできた文字に、思わずふき出してしまった。


ケンジさんの漢字――犬死(ケンジ)



「ぶっ、犬死って!!」
 マイコがお腹を抱えて大笑い。
 ジンも呆気にとられているようで、パソコンから目を離せなくなっている。
 だが、ケンジはそれを見て顔を真っ赤にし、目を吊り上げた。
「はぁ、何でオレが犬死なんだよ!!」
「あら、ケンジはケンジじゃない。何を言っているの?」
「アヤカ、画面見てよー、凄い漢字だから」
 ケンジが怒っている理由など全く分からず、キョウスケと違う世界へ旅立っていたアヤカは、マイコとケンジの声で我に返る。
 そんなアヤカを手招きするかのように、マイコは笑いをこらえながら、自分の元へとアヤカを誘った。
「何かしら、ええと……『何かにつけて貧乏くじを引くアナタ。しかも性格がKYのせいで、たくさんの人から恨まれています。その為、いつか誰かに刺されたとしても、誰からも悲しまれない所か、逆にありがたがる人も出てくる始末。無残な最期を迎えるでしょう』ね」
 アヤカは画面に出ていた文字を読み終え、満足したかのように口の端を吊り上げた。
 だが、ケンジは納得できないのか、画面から目を逸らし、鼻息を荒くして言い放つ。
「けっ、こんなの子供だましの遊びだな! 全然当たってないし!!」
 同意をもらうかのように、ジンとマイコの方をチラリと見るが、マイコもジンもケンジと目を合わす事もなく、ただただ無言でその場にいる事しかできなかった。
「……って、おい、何でいきなり黙りこくっているんだよ!! ジン、お前何で遠い目しているんだ!!」
 ケンジが思わずジンへと駆け寄り、その両肩をグラグラと揺するが、ジンの表情は変わる事がない。
「ケンジは犬死(ケンジ)だよ。だから大丈夫」
 不安に駆られているケンジを慰めるようにポンッと右肩に手をかけ、ニッコリとキョウスケが笑ったが、もちろんわざと漢字を変えて呼んでいた。
 それを聞いてアヤカは、更に口の端をゆるゆると上げ、ケンジに見えないよう小さく笑う。
 アヤカの笑う姿を見て、我を失いかけていたマイコが慌ててその場を収めようと皆の顔を見た。
「ほ、ほら、次!! キョウスケ調べてみようよ!! ジン、早くっ!!」
「あ、ああ……そうだな、よし調べるか!」
 マイコの言葉に、ジンもハッと我に返り、慌てて手を動かそうとしたが、生年月日を知らない事に気付き、バツが悪そうにキョウスケを見つめた。
「キョウスケの事なら、私が……」
 だが、すかさずフォローしたのはアヤカだった。
 楽しそうにジンの横で話す彼女は、先程のケンジの事をまだ思って笑っているのだろう。
 マイコはドキドキしながらもケンジを見ると、ケンジはフンッと顔を逸らし、壁側へと歩くと、そこへもたれる。
 どうやら最初よりは気持ちが収まったようだ。
 ジンはアヤカの言葉通り文字を打ち、そしてエンターキーを押す。


キョウスケさんの漢字――狂……ブツッ!!



「あ、あれ?」
 いきなり画面が暗くなり、マイコは目を瞬かせた。
「これはどういう事かしら?」
 もちろんアヤカもその状況を見ていた為、ジンの方を向き、事の真相を訪ねようとするが、ジンも驚いているようで、口が半開きになっていた。
 様子がおかしいと感じたのか、ケンジが首を傾げながらジンの方へと歩いていくが、それより先にジンが小声で呟いた。
「パソコンが強制終了した……」
「はぁ!?」
 真っ黒な画面を見つめ、茫然としているジンとマイコ。
 そしてジンの言葉を聞いて、素っ頓狂な声を上げるケンジ。
 だが、アヤカとキョウスケはその状況を納得したかのように、お互いの顔を見合わせ、口角を上げた。
「キョウスケはパソコンなんかじゃ判定できないって事ね。素敵だわ」
 アヤカは嬉しそうに微笑むと、その場から立ち上がり、キョウスケの元へと歩く。
 キョウスケが右手を差し出すと、アヤカは当然と言わんばかりに、キョウスケの手へ自分の手を重ね合わせ、お互い微笑みあう。
 その時だ。
「皆様お待たせ致しました。お食事の時間です」
 ノックの音が響いたかと思うと、奥の扉が開き、セバスチャンが現れた。
「もうそんな時間になるのね。さぁ皆、行きましょうか?」
 アヤカはジンたちの方を振り向くと、優しい笑みを湛え、キョウスケと一緒に歩いていく。
「ほら、迷子(マイコ)、刃(ジン)、犬死(ケンジ)、早くしないと肝試しも遅くなるよ?」
 キョウスケの声で、三人は我に返り、同時にキョウスケの方を見た。
 キョウスケはアヤカと同じような笑みを見せたかと思うと、すぐにアヤカへと視線を向ける。
 完全に二人の世界に入ったらしい。
 残された三人は、ジッと顔を見合わる。
「あれ『狂』って出たけど、何が言いたかったんだろうな」
「キョウスケとアヤカって……」
「オレ、強制終了したのは……まぁ、うん、アイツって何か持ってそうだもんな」
 どんよりとした重い空気を身にまとい、三人が三人ともあまり深く突っ込まないよう、言葉を選んで個々の感想を述べると、同時に溜息をつき、パソコンをその場に置いたまま、キョウスケ達の後へ続いた。
 残されたパソコンは、黒い画面のまま五人を見送り、そして誰もいなくなったのを見計らい――


キョウスケ――狂った魔王



 その言葉を浮き上がらせたかと思うと、今度はブチッと何かがちぎれたような音を出し、パタンとその画面を閉じた。

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