小説 | ナノ

▼ わらう

小屋にはなにかの肉の塊があった。
全員気付いていたのだが、なんの肉だかわからないが誰も聞かずに黙っている。
それが共食いされたゾンビの肉だと気づいたのは、森を歩いているときだった。

歩いて間もなく小屋を見つけた。

「…なんかフルーツの匂いがする」

「名前鼻いいね
俺わかんない」

名前の言葉に瀬戸が答えると、ドアを開けた。

ガチャッ

ドアを開けると隅で体育座りをして膝に顔をうずめているジャージ姿が見えた。
そのジャージ姿の人はドアが開く音がするとパッと顔を上げた。

「あ、来た来た
遅いよ花宮〜」

原チャン腹減った〜
なんてどこかのポイントガードのようなダジャレを言い花宮に寄りかかる。

「ああ、悪かったな」

花宮が原を軽くあしらい謝る。

暗闇の中1人で心細かったのだろう。
原はベタベタまとわりついてきた。
この小屋には灯りもなければ異様に寒い。
さらに、部屋の隅には酸素カプセルが縦に置いてあり、凍ったゾンビが1体入っていた。
普通の酸素カプセルではないだろうが、ここにあるのが不思議だ。
こんなところに1人でいて花宮を待っていたなんて、とここにいる誰もが驚いた。

山崎が名前にだけ聞こえるように呟いた。

「…俺ちょっと花宮尊敬した」

「うん、」

山崎と名前が驚いていると、瀬戸が2人の後ろから会話に入ってきた。

「?ああ、花宮の指示の話?
すごいよね
原とか一番に戦いそうなのに」

瀬戸の言葉に2人はうんうんと頷いた。

「お前よくどっか行かなかったな
好奇心旺盛だからどっか消えちまうかと思ったぜ」

山崎がはは、と笑いながら原の肩を叩くと、原は真面目な顔をして答える。

「ゾンビより花宮の方がこえーし」

原の言葉に瀬戸が頷く。

「…確かにね」

「なんかみんなこの森攻略してきてない?」

名前が苦笑した。

私武器持ってないからなにも出来ないよ
名前がそう言うと瀬戸と原は笑って同時に言った。

「俺たちいるじゃん」

この森に来て一番安心した。

「この入れモンになんか書いてある」

花宮は言うと全員がその文字に目を通す。
見た瞬間に面倒だと判断した山崎と原は近くの壁に寄りかかって3人を見つめていた。

Ich habe sechs Blumen.
など、その他にもたくさんの文が書いてある。

「いち?」

「いや、イッヒだな
…ドイツ語かな」

名前の言葉を直すと瀬戸が推測を述べる。

「ああ」

私は六つの花を持つ、だ
それがなんなんだ
たまにつづりや文法が間違っている
急いで書いたのかすべてが走り書きだ。

その下には、表が書かれていた。
縦の項目の種類には1〜4が書かれていて、横の項目の種類には1、2、3、1、2、3と書かれてある。
左の1、2、3の上にはeins、右の1、2、3の上には∞とある。

「なにこれ?」

「…左の三つが単数で右が複数、だな
縦は主語や目的語でドイツ語では1格〜4格で表すんだよ」

名前が表を見ながら聞くと花宮に表の前から退かされ花宮が指を差して説明した。

「ドイツ語バージョンの人称代名詞の格変化だな」

「なんでそんなこと知ってんだよ」

瀬戸が呟き、山崎が花宮に聞くとため息を吐いて答えた。

「ドイツが東西で別れてただろ?
恋人と東西で離れたやつが日記書いてて、そいつの本をたまたま読んでたんだよ」

「へー花宮って意外とロマンチストだよね」

「…」

原の言葉に瀬戸の目が泳いだ。
花宮が怒ると思った瀬戸はとっさに話題を変えた。

「でも中身が違うな」

「そうなの?」

瀬戸が違う、と言うので名前も見てみるがよくわからない。
ただaとかnoとか書いてあるだけだ。
瀬戸が笑って説明する。

「ドイツ語の人称代名詞なら私はIchなんだけど、どこにもない」

「ああ、そこでさっきの短い文を使う」

花宮が表の上に書いてある文を指差す。

「必要なのは人称代名詞だ
名詞とかはいらねえ」

上の文を一つずつ訳して『私が』や『彼の』の部分を探して単数の一人称の1格…と表に当てはめていく。

たいせつなものをなくすな

当てはめていくとこんな文が現れた。
花宮は視線を空中に彷徨わせ『たいせつなもの』を脳内から探した。

「花宮なんて書いてあったの〜」

「たいせつなものをなくすな、だとよ」

花宮はそう伝えてカプセルから離れ1人ドアの近くの床に座った。

たいせつなもの、なんだろうな

特にたいせつと思うものは脳内では見当たらなかった。
無難に命や頭脳か…?
ものをなくす、と言う以上すでに持っているもの、見つけたものなのだろう。

とりあえず、と自分がいた小屋から取ってきた銃と瀬戸を見つけた小屋から持ってきた銃を確認した。

先に持っていた銃は弾切れだが一応持ってきている。
どこかおかしいところがないか調べる。
しかしなにもなかったので銃ではないと推測した。

「名前」

花宮が名前を呼ぶとカプセルから離れすぐにそばまで来て目線が合うようにしゃがんだ。

「なに?」

「やる」

花宮がくれたのは飴だった。
紫色の包装でブルーベリー味と書いてある。
名前は素直にそれを受け取った。

「ありがとう」

名前が笑うと花宮もフッと笑った。

「それ食って少しは体力回復しとけ」

名前は静かに頷いた。

(150327)
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