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小屋に武器がなかったので山崎は手ぶらだった。
無防備な山崎と名前は、とりあえずはぐれないように手を繋いでいた。

「俺たちが逃げたのって右だろ?
あの3人左に逃げたよな?」

「ああ、少し遠くなるな」

「建物ないから襲ってきたら厄介だね…」

名前がそう言うと山崎が顔を青くさせた。

「お前それ…」

「おい余計なこと言うな
建物まで慎重に歩け」

花宮に叱られ2人はしぶしぶ花宮に続いた。

新しい音がすぐ聞こえるように3人は無言で歩いた。
森に入ってから少なくとも1時間は経っているはずなのに、まったく時間の経過を感じなかった。
というのも、太陽の光が差してこないのだ。
ずっと同じような暗さで、不気味で怖い。

名前は身震いをした。

ガサッ
名前の隣、山崎がいない方の静かな森が佇むだけの空間から葉を踏む音が聞こえた。

「なにか聞こえた…」

「?…なんもいね、…おい」

山崎が名前の言葉に従い目線を追うと、見つけてしまう。

「お前ら静かにしろって言ったよな?」

花宮が2人を見ると同じ方向を見て立ち止まっていた。
花宮もそちらを見ると目を疑った。

すぐには数えられないくらいのゾンビの大群がこちらに向かって来ていた。

映画みてえだな…

花宮は他人事のように感心していた。

「おい花宮、これはさすがにやべえわ」

「…囲まれたな」

音がしないのはなぜだ?
今までのゾンビは歩く音も唸り声も聞こえていたので準備出来た。
だが今はなんの音も出さずに近づいてくる。
しかも集団行動をしてチームのように俺たちを囲んで、同じ速度でじりじりと迫ってくる。

…知能、か?

花宮が銃を構え近くのゾンビを倒す。
効率が悪い。
すぐに他のゾンビが近づいてくるし、もうすぐ弾も切れる。

「マズイな」

花宮が2人に聞こえないように呟くと銃の音が聞こえた。

バラララララ
という音が鳴り響き、周りのゾンビの半分くらいが地に朽ちる。

「待ってたよ」

瀬戸が肩に銃を担ぎゾンビの奥から歩いてきた。
大きな銃だ。
マシンガンと言って少し重めで連射が出来る。
機関銃だ。

「建物に入ってろって言ったよな?」

花宮がゾンビを撃ちながらチラリと瀬戸を見た。

「悪い
入ったらいたわ」

「チッ、健太郎手伝え」

花宮が銃を発砲しながら瀬戸に言う。

「了解」

瀬戸はそれに従いなんの迷いもなしに銃を連射した。

山崎と名前は邪魔にならないように花宮と瀬戸の近くに逃げた。
マシンガンの威力は素晴らしかった。
山崎と名前は呆然と目の前の光景を見ていた。

「ドアの前に落ちててさ、これ」

「…で、ドアを開けたらいたと?」

「ああ」

山崎が聞くと瀬戸が頷いた。
来る前にワックスでオールバックにしていたおかげで眠くないようだ。
あくびもしないし目もきちんと開いている。
ガチャガチャと銃をいじっていた。

「まあ戦力が増えた」

「そう?ならいいわ」

ゾンビの大群を倒し終え4人は近くの大きな木にもたれていた。
花宮の銃は途中で弾切れになった。
今は瀬戸のマシンガンのみが頼りだ。

瀬戸がマシンガンを拾ったと言う建物はまたもや小屋だった。
花宮は森の建物は小屋しかないと確信した。
もっと奥に行けば他の建物があるかもしれない。
わからないがこんなに小屋があるということは他に本部のような大きな建物があるのではないか、そう考えた。
森にゾンビが自然発生したのは考えにくい。
誰かが森に住んでいて、実験の失敗かなにかでゾンビになったか。

とりあえずその小屋に入るか…

弾も置いてあるかもしれない、と少しの希望を持った花宮は瀬戸に聞いた。

「…健太郎、いけるか」

「ああ、いつでも」

小屋の中にゾンビがまだいるのかわからなかったので、先頭にいる瀬戸は慎重にドアを開けた。

「あ、2体に減ってる」

瀬戸がそう言い小屋にいたゾンビをマシンガンで倒す。
倒した、と花宮に伝えると花宮は小屋になにかないか見て回った。

「…ハンドガンが2丁か
ヤマ、持て」

花宮が1丁を自分のものにしてもう1丁の銃を山崎差し出す。
差し出された山崎は受け取るのを戸惑った。

「俺は花宮や瀬戸みたいに順応性高くねえよ」

「戸惑ってたら殺られるよ」

瀬戸が優しく言った。

「俺は…名前を助けねえと」

名前を口実に銃を取ることから逃げる。
誰だって急に銃なんて打てないのだ。
渋る山崎に名前が言った。

「山崎くん、私なら大丈夫だから」

「そう、か?」

うん、と名前が頷くと山崎は花宮の手にある銃を受け取った。
花宮が山崎の隣で撃ち方を教える。
真面目に聞いていたが、その手は少し震えていた。

「名前は大丈夫なの?」

瀬戸が銃を肩に担いで名前に聞いた。
この姿がなんだか兵士みたいで頼もしいと思った。

「大丈夫
瀬戸くんの銃重そうだね」

「ああ、連射出来る分弾が多いから重くてさ、肩に担いでないとちょっと無理」

自分は大丈夫なので、話題を変えようと銃のことを言ったらずいぶん疲れているようすだった。

疲れている瀬戸が、

「早くここから出ような」

と言ってくれたので、自分もしっかりしないと、と気合いを入れた。

(150327)
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