小説 | ナノ

▼ あせる

小屋は真ん中に木のテーブルと4つのイスのみで、こぢんまりとしていた。
よく絵本などで出てくる普通の木の小屋だ。
木で出来ているせいか、なんだか優しい雰囲気で落ち着く。
だが、そんな雰囲気とは決して似合わない銃が机の上に置いてあった。
懐からサッと出せるような、おそらく誰もが銃と言われて一番はじめに思いつくものだ。

ハンドガン、か。

花宮がそれを手にするとドアの向こうからゾンビの声がした。
ドアを開けると、目の前にいたのは名前だった。

ゾンビが近くにいることも名前が目の前にいることにも驚いたがそんな暇はなかった。
名前に近づくゾンビ。
以前映画で見た銃の撃ち方をとっさに思い出し撃つ。

「っは、」

銃を撃った反動で少しよろけそうになったがすぐさまドアを閉めた。
花宮がため息を吐いた。
だが、そのため息は疲れや絶望などのため息ではなかった。

本当にいたのか。

花宮は名前とドアにもたれ座り込んだ。
俯きいろいろとこの状況について整理を始める。
しかし、すぐにやめた。
花宮は俯いたまま口元を緩ませる。

今まで暇つぶしのゲームはしらみつぶしにやってきた。
だがどうだ?この状況は。
初めてだが銃は撃てたしスリル、ホラー、ゲームにありがちなパートナーというお荷物要素。
幸い服装はジャージで楽だし汗を吸収するにはちょうど良い。
まあ装備が銃だけで防具はないので食われたら終わりだが。
まあいいか。
パートナーもお荷物の部類には入らないだろう。
こいつはすぐ動けるしな。
こいつを探す手間が省けてラッキーだ。

「ふはっ」

花宮は今度こそ笑った。

まずははぐれたあいつらを探さねえと。

花宮はドアを少し開け周りを見渡した。

…ゾンビがいなけりゃ本当に静かだな。

時折風が吹き葉が舞い出す。
花宮は名前の手をとり森へ歩き出した。

「…」

「…」

2人の間に沈黙が続いた。
花宮と名前は無駄な話をしない。
お互い淡白な性分で、花宮は名前のそんなところが気に入っていた。

「おい、大丈夫か」

「大丈夫、ありがとう」

落ちた葉の上をサクサクと歩いて行く花宮に名前は手を引かれるまま歩いていた。
花宮は足場が少し悪いことを考え、走ったり自分のペースで歩くことなく名前の歩幅に合わせた。
名前はこんな状況の中少し心が温かくなるのを感じた。
花宮はどんなことがあってもやっぱり優しい。
名前はそう思った。

「…また小屋があるな」

「うん、誰かいるかも」

「行くぞ」

うん、と名前が頷くと小屋に向かって足を進めた。

「花宮く、っ後ろ!」

「ああ!」

名前が繋がれている花宮の手を引くと花宮は名前の言葉に従って後ろを向いた。

またゾンビだ。
今度は3体でゆっくりと歩いてくる。

「名前は後ろにいろ」

「うん…!」

小屋を後方に花宮が銃を構えるとゾンビはこちらに気づいたのか吼えた。

パァンッ
弾けるような音がして、名前が閉じた目を開ける。

…こいつら心臓を撃っても死なねえ!

花宮は一撃で倒したと思ったゾンビを見る。
心臓ではダメだと言うのか。
花宮は名前を助けた時を思い出した。

驚いて顔を見るまで撃てなかった。
俺が撃ったのは…頭か。

花宮はすぐに銃を持ち直し先ほどのゾンビに狙いを定めた。
他のゾンビ2体はまだ少し後ろにいる。
まだいける。

花宮はもう一度ゾンビに向かって銃を放った。

今度は頭を貫いた。

「っ1体ずつってのが面倒だな」

口ではそう言ったものの、緊張で手がこわばり上手く銃が持てない。
2体のゾンビはこちらと10mほどの近さだ。

早く撃たなければ。

1発無駄にしたことと2体のゾンビとの距離の近さに焦りが出始めた。
花宮の額から汗が垂れる。

「おいっ!花宮たち!」

「…え、山崎くん!?」

2人が目指していた小屋から山崎が出てきた。
見たところ、山崎はどうやら無事のようだ。

「おいヤマ!
名前と2人で小屋に入ってろ!」

「おっおう!
名前、立てるか?」

花宮の切羽詰まったようすに山崎は一緒心配になったが、言われた通り名前に近づき立たせた。

「走れるか?」

「大丈夫!早くっ」

「おう!」

名前が急ぐので山崎も急いだ。

早く花宮を1人にさせよう。
花宮には花宮のやり方がある。

山崎と名前は小屋に走った。

「山崎くん1人?」

「ああ、最初から1人だぜ」

小屋に入ると初めに入った小屋と同じ作りだった。
どうやらこの森にある小屋は作りがすべて同じのようだ。
2人は花宮を待つためにイスに向かい合って座った。

「名前大丈夫か…?
怖かっただろ?」

「うん、怖かったし死ぬかと思ったけど花宮くんが助けてくれたよ」

先ほどの話をすると山崎はホッと息を吐いた。

「そうか
名前が誰かと一緒でよかったぜ
守ってもらえるしな」

山崎は笑った。
つられて名前も微笑んだ。

「つーかあれちゃんと見たかよ?
だからやめようって…」

山崎がゾンビの話をしようとすると花宮が終わったのか小屋に入ってきた。

「ザキ、落ち着け
残りの3人を探すぞ」

「…わかった」

「花宮くんありがとう」

倒してくれて、と付け足すと花宮は目線だけ名前に送った。

「少し休んでから探しに行こう」と山崎と名前が花宮を気遣ったので、花宮もそれに甘え名前の隣のイスに座った。

少し歩くと、ふと山崎が花宮に話しかけた。

「そう言えば3人ともちゃんと建物で待ってると思うか?」

「ああ、あいつらはな」

「?なんで?」

名前が聞くと花宮は名前にフッ、と微笑んだ。

「ちゃんと待てが出来るからな」

優しい顔で言う花宮に悪童の面影など微塵もなかった。
山崎と名前は花宮の笑顔を見て2人でコソコソと話し始める。

「…ずっと思ってたけど、花宮って俺たちへの信頼すげえよな」

「そうだね
…でもただの信頼ってよりは主人と犬の主従関係って感じがするけど…」

「それは俺も思った」

だって「待て」、だぜ?
と山崎が言い終わる前に花宮が2人を振り向いた。
不愉快だと言わんばかりの顔で口を開く。

「おい、聞こえてんだよ
それよりさっさと歩け」

「わりい」

「ごめん」

2人は花宮の後ろを歩いた。

(150325)
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