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▼ はしる

霧崎第一高校の近くにある森にはある噂があった。

ゾンビが出る、と。

もちろん、そんなの噂なので真実はわからない。
だが、『ありえない』と誰もがそう思った。
ゾンビなんてゲームの世界のモノだと思っているからだ。
早い話が作り話と言うわけだ。

しかしそんな噂話でも気になるものなのだ。

話のきっかけは古橋だった。

「最近霧崎の近くの森で出るという噂を知っているか」

「は?幽霊?」

古橋の言葉に瀬戸がアイマスクを外しながら返した。
今は部活の休憩時間で、名前が忙しく選手の周りを走っていた。

「なにそれ?」

「ああ、名前か
ドリンクとタオルすまないな」

「ゾンビの話だろ?」

花宮がドリンクを口にしながら言った。
すると原が山崎に寄りかかって話し始めた。

「マジ〜?普通出るって言ったらユーレイだよね〜」

「つかマジかよ!?ゾンビとかヤバくね?」

「ザキ信じちゃうの?」

山崎が驚くと瀬戸はため息混じりに笑った。

「ふはっ、そんなのいるわけねえだろ
だいたいゾンビがいたらいつか森から下りてくるだろ」

花宮が言うと古橋は首を振った。

「奴らは太陽が出ていると出てこれない」

「へえ、じゃあ昼間行ってみる?」

「原本気かよ!?危ねえぞ!」

「昼間なら大丈夫じゃーん?」

「休憩終わりです!練習再開してください!」

名前が時間を知らせるとそこで話が終わり練習を再開した。

「さっきの話の続きだが」

古橋が着替えながら先ほどの話をし始めた。

「…行くのか?」

古橋は自分のロッカーを見つめたまま言った。

「俺は行きたいな〜
気になるし」

「原って好奇心旺盛だよね」

瀬戸が半笑いで言った。

「くだらねえな」

「原1人で行けよ」

「え〜ザキィ〜」

原が話を進めるので花宮と山崎が止めようとした。
だが、原が1人で行くのも心配なので結局行くことになってしまった。

「…太陽の光を浴びるのがダメなのか、太陽が出ていること自体がダメなのか、どっちだろうね」

瀬戸の呟きは誰にも届かなかった。

バスケ部レギュラーで森に行くことになった。

森は静かで薄暗かった。
森への入り口は1つしかないようだ。
一ヶ所だけ木一つ分開いているところがあり、森が大きな口を開けて彼らが来るのを待っているように見えた。
入り口の前に立つとザアッと風が吹いた。
動きやすいようにジャージで来たのは良いものの、風が吹くと少し寒かった。

「行くぞ」

花宮が言うと6人は森へ足を踏み出した。

「暗くね?」

森に入ると山崎が周りを見ながら言った。

「わっ…なんだ、草か…」

「名前ビビりすぎ」

瀬戸が名前の背中を優しくトントン、と叩く。
瀬戸のおかげで少し安心した。

「!?おいっ逃げろ!!」

山崎が叫ぶと6人は何事かと驚く。
山崎の前方には2体のゾンビがいた。
肌は緑や茶色といった色が混ざった、腐ったような色だった。

「来た道に逃げよう!」

古橋がそう言って振り向くと、来た道からもゾンビが数体歩いてきていた。
前後を塞がれ左右にしか逃げ場がなくなる。
左右にはいくつかの建物があった。

「チッ…近くの建物に走れ!」

花宮の言葉に6人は走った。
幸いどの建物も少し走ればたどり着けそうだ。
名前は一番近くの白い、といっても汚れていて茶色になっている小さな小屋に向かった。

走ると、いつもよりも速い速度に自分でも驚いた。
ドアがある。
手をかけると後ろから声がした。

「!?」

振り向くと目の前にゾンビがいた。
一瞬のことで驚きの声さえも出せずにいると後ろのドアが開く。

挟まれた…!

名前がギュッと目を閉じると腕をグイッと掴まれた。
温かいぬくもりにかなり強引に引き寄せられる。

「?」

後ろの奴が引き寄せた手とは反対の手で目の前のゾンビに躊躇なく銃を向けすぐに放った。
すると目の前のゾンビは朽ちた。


「チッ…おい、大丈夫か?」

「う、うん」

助けてくれたのは花宮だった。
花宮が名前を覗き込むと顔を真っ青にしていた。

初めてゾンビを見て、目の前で朽ちたのだ。
驚くのも仕方ない。

「おい、ついて来い」

「え、」

「この森から出る」

力強く言う花宮に名前は慌てて立ち上がりついて行った。
1人になりたくない。
それよりも、花宮ならなんとかしてくれる。
そう思ったからだ。

「まず散り散りになったあいつらを探さねえと」

そこで区切り花宮は「ふはっ」と笑った。

「古橋が珍しく噂話を持ちかけるから興味はあったが…面白くなってきたじゃねえか」

花宮は悪童の笑みでドアの隙間から森を見つめた。

(150325)
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