小説 | ナノ

▼ でいと?すまないが意味がわからない7

それからパンを2人で成形して二次発酵をして、パンをオーブンに入れた。

「上手くできるかな?」

「どうだろうか」

2人でゴオッ…と低い音のするオーブンの前にしばらく何も言わず立っていた。
名前の頭が古橋の腕に寄りかかると古橋は名前をちらりと見た。

「どうかしたのか」

「…なんか我が子が巣立った気持ち…」

「俺もいつもそう感じる」

古橋が優しい声で言うので見上げると古橋は笑っていた。
優しいお父さんみたいだ。
名前が古橋の大人になった姿を漠然と想像してみた。

「考え方がお父さんだね」

名前がふふ、と笑うと古橋はきょとんとした顔で名前を見つめる。

「それなら名前はお母さんだろう」

「料理の出来るお母さんになりたいなあ」

頭の中で自分がお母さんになった姿を思い浮かべてみる。
もう少し太ってシワが増えるのかな?
頭の中の名前がご飯を作ってテーブルに置くと「ありがとう」と聞こえる。
お母さんになった名前の隣にはお父さんになった古橋がいた。
いつまでも一緒にいたい。
素直にそう思わせる古橋の魅力とはなんだろうか。
古橋はいつも古橋のことで名前の頭をいっぱいにさせるのだ。

「頼りにしているぞ、お母さん」

そう言って名前の頭を古橋の大きな手で撫でる。

「わかったよ、お父さん」

名前は古橋に応えるように寄りかかっている方の手と自分の手で恋人繋ぎをする。
古橋がぎゅうっと繋いだ手を握るので名前も同じことをした。

「パンはまだかな…?」

「…言うと思った」

はあ、と古橋はため息を吐いてオーブンを見た。
あと10分と表示されている。

「予想通り?」

「ああ」

名前が飽きた風に手をぶらぶらさせると古橋は名前の手を引いた。

「ガーデニングが趣味なんだ
少し見てくれないか」

「見る!」

古橋の案内で庭に出るとたくさんの花が元気そうに咲いていた。

「きれいだね…
あれ?というかもう夕方?」

名前がふと空を見るとオレンジの空を深い青が覆い始めている。
少し寒い。

「パン作りに集中しすぎて時間が経ってしまったな」

「でも楽しかったね
…あ!チューリップ可愛い」

名前がぱたぱたと走ってチューリップの前にしゃがむ。
古橋は名前の小さな背中をゆっくりとした歩みで追いかける。
目の前で止まると名前の背中を抱きしめた。

「わっ」

「名前」

「ど、どうしたの…?」

急に抱きしめられたので名前は前のチューリップに倒れそうになった。
しかし古橋が引き止めてくれたのでチューリップは無事だ。
名前のうなじに顔をうずめると古橋は名前の肩に軽く顎を乗せた。
古橋が耳元で切ない声で名前を呼ぶので名前は古橋の腕を抱きしめた。

「名前…」

「ふるはしくん…」

古橋は何も言わずに名前の耳に触れるだけのキスをする。

しばらくゆったりとした空気が流れ古橋と名前は静かにチューリップを眺めていた。

触れ合っているところは温かいが、夕方の風はやはり寒い。

「寒くないか」

古橋が心配して名前に聞いた。
耳元で言われてくすぐったい。

「ちょっと寒いかな」

「…戻るか」

「うん」

家に入ると香ばしい良い匂いがリビングに漂っていた。
どうやら焼き上がったようだ。

「良い匂いだね」

「ああ、取り出すから少し待ってくれ」

古橋はそう言って両手に黒のミトンをするとオーブンを開けパンの乗った天板を取り出した。

「美味しそう!」

早く早く、と言うように名前が古橋の腕をつついた。

「危ないだろう」

「食べたい」

「少し冷まさないと熱いと思うが」

良い匂いと成功した喜び、そしてなにより古橋と同じことをしたという気持ちが名前を満たした。
古橋がほかほかの丸いパンを名前に渡す。

「…これを食べて待っていてくれ」

「あ、これ古橋くんが作ったパン…食べていいの?」

「全部名前のために作ったんだが…気づいていなかったのか」

古橋の言葉に名前は驚いた。
パンはたくさんあるしとても2人では食べきれないと名前は思っていた。

「食べきれなかったら両親と分けてくれ」

「ありがとう…」

「食べるならソファに座ってくれるか」

名前は手に持ったままのパンを優しく握りしめ古橋の言うとおりソファに座った。

2人で作ったパンは古橋の優しさと甘さで出来ているんだと名前は少しだけ鼻をすすった。

(150507)
prev / next
[ Back to top ]


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -