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▼ でいと?すまないが意味がわからない5

「…」

「…」

古橋と名前はそれぞれ先ほど本屋で買った本をソファに並んで座って読んでいる。
ときどき温かい紅茶を飲んで一息してまた読書を再開する。
各々の時間を優雅に過ごしていた。

この沈黙が苦でないのはやはり名前だからだろうか。
無理に話すこともなく同じ時間を過ごすのがとても心地良い。

古橋がふと自分の本から顔をあげた。
名前をちらりと見ると目が合う。

「…なんだ?」

「…なんでもないよ」

「そうか」

古橋はそう言って再び本を読み始める。
それからなんだか名前の様子が気になってちらちらと見ると、必ず目が合った。
古橋はなんとなく見られているような気がした。

「なぜ俺を見ているんだ?」

「なんか古橋くんかっこいいな…って」

古橋は頭を抱えた。
こんなに素直に気持ちを伝える人だとは思っていなかった。
こちらの理性がそんなに揺るぎないものだと思っているのか。
…きっとなにも考えていないんだろう。

「…花宮なら『バアカ』と言っているところだな」

「?なんで?」

「…教えてやろう」

古橋はそう言うと近くの紅茶が置いてあるローテーブルに2人分の本を置いた。
それを静かに享受していた名前の肩をソファに優しく押しつける。

「あまり可愛いことを言うと襲われるぞ」

「え…?」

名前はあまりにも近い古橋の目から逃げるように目を泳がせるもお互いの熱が伝わりそうで恥ずかしくなった。
名前が逃げられないと悟り目を閉じると古橋は名前の首に顔をうずめた。

「俺がそんなに理性的に見えるか?」

「え…?」

古橋が首元で息をするので名前は顔に熱が集まるのを感じた。
古橋のさらさらの髪が名前の首や顔をくすぐらせるので身をよじらずにはいられなかった。

「…ふるはしくん」

「名前、」

だんだんと古橋の吐く息が熱くなるような気がし、それに合わせて名前は首元からじわりと汗が滲み始める。

「や、」

いやだ、そう言いたい。
汗が気になるしなんだか急に鼓動がパニックに陥ったように速い。
しかし古橋が上にいるしそれにここは古橋の家なので逃げることが出来ない。

「名前…」

先ほどからうわ言のように名前を繰り返し呼ぶ古橋は未だ首元に沈んでいる。
疲れたのかなんなのか、そこから動こうとしない。
どうしたのだろう。
名前が古橋の様子を見ようと少し動こうとすると、肩にある古橋の手にグッと力が入りまったく動けなくなった。
どうかしたのか、と名前が考えていると首元に生温かくねっとりとしたなにかが這った。

「っ!?な、」

「名前」

それが古橋の舌と理解するにはあまり時間はかからなかった。
古橋はまた名前を呼ぶと今度はかぷりと首元に噛みついた。
痛くはない。
鋭い歯が少し刺さったような、歯と歯で首の皮を挟まれたような感覚だ。
思わず体が動くと古橋は噛みついたところを今度は優しく舐めた。

「少し気を緩めすぎだと思うぞ
俺も名前の前では男なんだ」

「…は、い」

意外、と言うか今までそんな素振りを感じられなかった名前は少し怖くなってしまった。
と言ってもほんの少しで、古橋がこういった行動をしたのは自分が原因であり古橋は男であり…。
そう考えていると名前の鼓動は少し落ち着いた。
決して古橋に冷めたわけではなく、ただ古橋の男らしく、余裕のない姿を見ることができて純粋に嬉しかった。
名前の心にはなにか温かい、まるで古橋が淹れてくれた紅茶のような温かさを胸に感じた。

「…すまないな、こんなことをして」

至極申し訳なさそうに言うので名前は自分の上から退こうとする古橋の腕を思わず掴んだ。

「っ、名前」

「だいじょうぶ、だから
私も、古橋くんの前では女の子なの…」

彼女はバカなのではないだろうか。
こちらが必死に理性的な態度をとったにも関わらず、それをあっさり崩しにかかるなんて。
古橋の喉から自嘲するような乾いた笑い声が漏れた。

「バカ」

「え…」

「もう知らない」

古橋はそう言うと腕を掴んでいた名前の手を握った。
先ほど本屋で握ったときよりも少し熱い気がする。
だがそんなことはもう知らない。
そう、先ほど言ったようにもう知らないのだ。
泣いても許さない。
俺の好きなようにしてしまおう。
古橋がそう考えるとなにか感じたのか名前が古橋の目を見た。
それがなにを言いたいのかわからないし知らないが、なんとなく「いいよ」と言っているように見えた。
少しおいたが過ぎる。
古橋は罪悪に揺れている部分的な自分にそう言い聞かせ名前の唇に深く口付けた。

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