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▼ でいと?すまないが意味がわからない3

靴屋を出ると少し日差しが熱い。
あまり歩くのは得策でないと思い、近くに珍しい和風パスタ屋があったのでそこでご飯を食べた。

「美味しかったなあ
また食べたいね」

「そうだな」

名前が一緒に行きたいと思ってくれていたのが古橋は素直に嬉しかった。

「本屋へ行かないか」

「行く!」

古橋と名前は本を読むのが好きだ。
初めて話したのも本についてで、お互い本の貸し借りをしている間に仲良くなったのだ。
本屋に着くと当然本がたくさん並べてあった。
大小さまざま本は窮屈そうに身を寄せ合いながら買われるのを待っている。
名前が料理の本を見たいと言うので古橋が後ろをついて行く。

「パン作りの本はどれがいいかな?」

料理をよくするのか、と考えていると名前が古橋にそう聞くので古橋は疑問を投げかけた。

「?パンを作るのか」

「うん、古橋くんの趣味なんでしょ?」

名前は『初めてパンを作る』と背表紙に書かれている本を引っ張りながら古橋を見た。
本がぎゅうぎゅうに仕舞われていて隣の本も一緒に出て来そうになる。
名前が本を押したり戻したり苦戦していると、古橋は名前の手の上に自分の手を重ね本を戻した。

「それなら俺が教えよう」

「え、いいの?」

名前が古橋を見上げて尋ねると古橋は名前の手を優しく握り名前に視線を移した。

「構わないさ
これから俺の家に来るか?」

「えっと、それこそいいの…?」

きゅ、と名前が古橋の手を遠慮がちに握り返すと古橋が笑った。

「ああ、両親は共働きだからほとんどいない」

古橋が言うには両親はいつも夜中に帰宅し早朝に出勤するらしい。
小さな頃からほとんど顔を合わせずに過ごしてきたのでかなり時間やルールは自由な家だったそうだ。
そんな中でも真面目に勉強をし、優等生の部類に入り学校生活を送っていたのは古橋の根が神経質であり自分を甘やかせることが出来ないからだ。

「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「歓迎しよう
そうだ…他の本を見ないか?
俺の家はなにもないから暇になると思う」

「じゃあちょっと見てくるね!」

名前は古橋に手を振ると奥の方へ歩いて行った。

「下巻が出てるはずなんだけどな…」

名前が探していたのは純文学系の本だ。
最近初めて読んで面白いと思ったのだ。
昔の人の表現や考え方が現代とどう違うのか比べたりするのが楽しい。
純文学系の本にはもちろんスマホなんてないので手紙、という表現に時代を感じるのがとても面白いのだ。

「…あ、あった」

名前が目当ての本を見つけそれに手をのばす。
体をまっすぐのばしてみるがあと2、3cm届かない。
悪いが古橋くんにとってもらおうか、しかし呼びに行く間に買われてしまうのではないか。
ううん、と名前が考えていると急に暗くなった。
なんだか急に夕方になったような…誰かが後ろに立っている…?
名前が後ろを振り返ろうとすると落ち着いた低い声が鼓膜を震わせた。

「この本、だろうか」

「え…」

「…申し訳ない、驚かせてしまったな」

すっと綺麗な手が名前の後ろからのびて名前の目当ての本をとった。
そして表紙を名前に見せるので名前は驚きながら「そうです」と答えるのがやっとだ。

「それなら、どうぞ」

「あなたはこの本を買わないんですか?」

「今日は他の本を買う予定なので」

名前に本をとってくれた人は学生なのかブレザーを着ていた。
大きなカバンを肩にかけ、艶やかな髪の下と閉じられた目はこちらに向けられていた。

「名前ここにいた、…のか」

古橋がなかなか現れない名前を探していると、知らない男と向かい合っている。

なんだこの状況は?

「申し訳ない、邪魔をしたようだ
これで失礼する」

とってもらう相手がいるのにそれを遮ってしまったことについて謝ったようだった。
名前は去って行く背中にお礼を言った。

「どうかしたのか」

男が完全に去ると古橋は名前の隣に立って聞いた。

「この本がぎりぎり届かなくて、古橋くんにとってもらおうか迷ってたらとってくれたの」

「そうか
ところで他に本は見ないのか?」

あっちにもたくさんあるぞ、と言ってまだ行っていないであろう方向を指差した。

「うん
今日はこれを買って、しばらく読んでからまた新しい本を買うよ」

古橋に先ほどとってもらった本を見せると頷き2人でレジに向かった。

(150426)
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