小説 | ナノ

▼ でいと計画4

「着いたが疲れないか、大丈夫か」

「大丈夫!行こ行こ」

名前が繋いでいた手をクイッと前に出して古橋を少し引っ張った。

レストランから出て少し歩くと、水族館があった。
午後は予定がなく、ぶらぶら買い物をするかどこか行くか決めていなかったので少し散歩をしていたのだ。
名前が水族館を見つけ、そこへ行きたいと言ったので近くまで行ってみた。

「こんなに歩いて足は大丈夫か」

古橋は疲れていない。
男であるしバスケ部だから体力や足腰が丈夫というのもあるが、名前は違う。
女であり運動部ではないので体力もあまりないだろう。
それにかかとの高い靴を履いている。
行くあてもなくぶらぶらと歩くのは予想以上に疲れるのだ。
本当に大丈夫かと聞くと、大丈夫と名前が笑顔で答える。

「無理はするな」

と念を押して手を握りなおした。

「うわっクラゲいっぱい」

2人は入り口に近いクラゲから見ることにした。
30cmくらいの丸い窓がたくさんあり、そこにはいろいろな種類のクラゲがスーッと泳いでいた。

「食べられそうだねー」

「さっき食べただろう」

名前が窓の中のクラゲを指差し古橋を見つめた。

「だって、英語?ではゼリーフィッシュって言うじゃん」

「ゼリーもフィッシュも英語だ」

あ、そうか、と言いながら名前がもうすべてのクラゲを見たので次へ行こうと歩き出した。

「疲れたねー」

はい、と大きな水槽の前に立っていた古橋にお茶を渡した。

「トイレに行ったんじゃなかったのか」

驚いて渡されたお茶を受け取る。

「トイレに行った帰りに買ったの」

「すまないな」

いえいえ、と言って水槽の前に設置されているベンチに座った。

もう夜だからだろうか。
来たときより人が少なくカップルばかりだった。

「ここはプロジェクションマッピングが出来るらしい」

名前がトイレに行っていた間、なにを見ていたのかと思ったが水槽の近くにあった説明書きを見ていたようだ。
ベンチの前にある大きな水槽の高さは床から天井まであった。
大きな水槽の前には地べたに座るスペースもある。
子供が座るためのスペースだろう。
水槽とベンチは思いの外離れていたので、2人は1番前に座った。
上が吹き抜けになっており、プロジェクションマッピングのときは階段を上がって上から水槽を見ることも出来た。

最後にここに来たのは、閉館前にしか映されないロマンチックバージョンとやらを見るためだ。
昼、夜、喜怒哀楽など時間帯によってモチーフがあるらしい。
閉館は19時。
これを見てご飯を食べロマンチックな時間を過ごす。
カップルには良いだろう。

「まだかなー」

一言二言会話すると、周りの照明が暗くなりそこにいた者が自然と水槽に目を向けた。

「どうせ混むんだ、1番最後でいいだろう」

「そうだね」

水槽に映された映像が消え、周りの照明がほんの少しだけついた。
閉館前なので照明はあまりつけないのか、ロマンチックバージョンの余韻に浸らせるためなのか、どちらにしろ雰囲気はとても良い。
水槽をいつまでも見続ける名前に古橋が遠慮がちに言った。

古橋は本当に優しかった。
寒さや人波、疲れなど逐一気にしてくれた。

「古橋くん、」

近くにあった古橋の腕をギュッと掴んだ。

「なんだ」

古橋が水槽を見ながら言う。
名前は古橋を見つめている。

「すき」

なぜこんなにも気持ちが溢れるのだろう。
古橋を見つめると心から好きが溢れた。

「名前」

古橋が名前の方を向き名前を呼ぶ。
近づくと唇が触れ合った。

水槽からの光が2人を淡く照らした。
誰も見ていなかった。
もう一度、誰も見ていないのなら、もう一度しても、いいだろうか。

古橋の大きな両手が名前の頬を包んだ。
先ほどのキスで近い距離にあるお互いのおでこをくっつけた。
古橋はゆっくり目を閉じ、また開けると名前に聞いた。

「もう一度しても、いいか」

「…うん」

もう一度キスをした。
今度は少し深く、長く。
2人の間を狭めるように名前が古橋の背中に手を回した。

「好きだ」

古橋の顔はどこか苦しさを帯びているようだった。
周りから古橋は無表情と言われている。
本当のところはわからない。
今苦しい表情をしているのか、無表情なのかなんて。
だが名前にはそう見えたのだ。
それは愛や恋ゆえか、願望ゆえか、またわからない。

ただこの時間がいつまでも続けと溢れた気持ちが何度も何度も願うのだった。

(150314)
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