小説 | ナノ

▼ でいと計画2

古橋は待ち合わせ場所にいた。
時刻は9時30分だ。
名前が来るのにまだ30分もある。
早く来すぎたか。
古橋は近くにあったベンチに座った。

今日はデートだ。

デート、と聞いただけでドクドクと激しい運動をしたときのような鼓動がする。

…これが胸の高鳴りというやつか。

古橋は自分でもこんなに誰かを思うのか、と感心した。

なぜだか上手く息を吸えない。
緊張で手のひらがむず痒い。

時計を見るとまだ9時50分前だった。
寒い。やはりヒートテックを着ておくべきだったか。
古橋が後悔していると、足音が聞こえた。

「ごめん、古橋くん!待たせたよね」

走ってきたのか少し息があがっていた。

「まだ時間まで10分もある
俺が勝手に待っていただけだから気にするな」

「うん、ありがとう」

名前がふんわり笑うと白い息が空気に漂った。

「寒くないか」

「えっ」

コートの下から見えるのは黒いタイツだった。
…張り切ってスカートを履いてきてくれたのか。
嬉しいような、風邪をひくだろうという申し訳ない気持ちと混ざった。

少し待っていろ、と言い名前をその場に残し歩き出した。

「ほら」

自販機に行ってきたようだ。
古橋が温かいミルクティーを差し出した。
逆の手には無糖の紅茶を手にしている。

「いいの?」

「いいから買ってきたんだろう」

いや、そうなんだけど…ともごもご言う名前にミルクティーを押し付け、古橋は自分の紅茶を飲んだ。
古橋が紅茶のキャップを閉め名前を見た。
ほー、と言いながらミルクティーを飲んでいる。
温まっただろうか。

ありがとう古橋くん、そう言って名前が古橋を見つめる。

古橋が歩き出すので名前も隣りを歩き出す。
ふと古橋を見ると古橋も名前を見つめた。
古橋が手を差し出した。

「?」

「恋人同士は手を繋ぐんだろう?」

花宮から聞いた、と付け足すと、花宮くんは恋愛も頭良いのか、と名前が感心していた。

古橋が差し出した手を名前が握った。

「古橋くんあったかい」

「そうか」

2人は静かに映画館へ歩いた。

名前が古橋のお眼鏡に叶った映画が良いと言ったので、今日観る映画は洋画だった。
未来が見える主人公が、自分の能力に悩みながら普通の人と同じように生きてたいと願い、苦労する話だった。
原作をすでに読んでいて、ハマったらしい。
字幕の方が英語も聞けて良いぞ、と言いチケットを2枚購入してくれた。

…字幕に追いつけるかな…。

名前は不安に思いながら席を探す古橋の後をついて行った。

映画が終わり、2人は他の客が出るまで席に座って待っていた。
古橋が迷子にならないように考えてくれたのだ。
スマホを見ると12時を少し過ぎている。
次はご飯かな、何食べよう…。
名前は出口に出来ている列を少なくなってきたなあ、とぼんやり見ていた。

「名前」

呼ばれたので列から目を離し古橋を見る。
出口に出来ていた列はなくなっていた。

映画館の薄暗い中、2人はなにも言わず見つめあっていた。
古橋がひじ掛けに置いてある名前の手に自分の手を重ねる。
名前の顔に熱が集中した。

チュ

古橋が近づいて、名前の唇に優しく自分のそれを押し付けた。
一瞬触れた唇を離すと息がかかる距離でお互いを見つめた。古橋が重ねていた手をそのままギュッと握りしめる。

「目を、閉じろ」

先ほどのキスで目を閉じていないことに気づかれたようだ。
名前は古橋に言われるがまま目を閉じた。

静かな映画館で2人の詰まった息の音だけが聞こえた。

古橋がもう一度唇を名前のそれに押し付ける。
今度は長い間離れなかった。
それが10秒だったのか、1分だったのか。
はじめてのキスは、優しくて温かいものだった。

(150312)
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