小説 | ナノ

▼ でいと計画

昼休み
賑やかな教室にはお弁当やお菓子の匂いが混ざり、不思議な匂いがする。
友達とかたまり、談笑しながらお昼をすごしているものがほとんどだ。
それとは正反対に、古橋は静かにお昼を食べる。
よく話しながら食べられるな、古橋は周りを見ていた。

古橋の目の端に、走って近づいてくる生徒が見えた。

…気のせいだ
お腹が空いているせいだ、そうだ。
古橋は自分に言い聞かせながら卵焼きを口に入れた。

「古橋くん」

「なんだ」

走ってきた生徒は古橋のよく知る人物だった。
彼女である。
ご飯はどうした、と古橋は聞くと名前は早弁したと言った。

「食いしん坊か」

「違うよ!古橋くんと話そうと思って…
あのですね?デートをしたいのですが」

「そうか、俺は昼飯を食べている」

もぐもぐと口を動かす古橋の目の前に、名前がファッション雑誌の表紙を見せる。
表紙には『これがデートだっ!!基本のデートコース5選』という謳い文句が書かれている。
カラフルで大小さまざまな文字で目がチカチカする。

休日は部活や模試で休みがほとんどない。
霧崎生は忙しいのだ。
2ヶ月に1回は模試があり、一定の偏差値を超えた生徒には景品が贈られる。
高校生をもので釣るのもいかがなものかとは思うが、消耗品の筆記用具が贈られたりするのだ。
しかも無駄に高価な筆記用具。

古橋はというと、部活も模試もない日は家にいた。
日中は体を休ませることに集中し、夜は勉強をしている。
平日の酷使した体を休ませる時間があまりないし、勉強もしなければならないからだ。
そう考えてみると、付き合ってからデートなんてしたことがなかった。

「…仕方がないな、貸してみろ」

「うん!」

ちょうど食べ終わった弁当を元に戻して鞄に仕舞う。
はい、と古橋は手渡された雑誌の表紙を開いてみた。

「…」

「…どう?」

名前が古橋の顔を覗き込んだ。
なにやら難しい顔をしている、気がする。
無表情な彼の顔から気持ちを読み取るのは難しい。
名前は古橋の言葉を待った。

「目がチカチカして読みにくい」

そう言い古橋は読むのをやめ、名前の方に雑誌の向きを変えた。

「えっと、映画とか水族館の見る系か、T◯Lとか遊園地の遊ぶ系か、そんな感じに書いてあるよ」

「名前は何系が良いんだ?」

古橋は力説する名前になんとなく聞いてみた。
理想のデートでもあるのか。

「…古橋くんがいれば、それで…」

名前がそこで区切り雑誌に目を落とした。
まるで読んでいない、紙の表面を見ているだけの視線。
緊張しているのか、目が泳いでいる。

「今度の日曜にでも行くか」

名前が弾かれたように顔をあげる。

「え、デートしてくれるの?」

名前が首をかしげる。
名前の言葉を受け、古橋も首をかしげた。

「行きたいから誘ったんだろう」

「でも、今まで…」

誘ってくれなかった、と名前が小さな声で言った。
フ、と古橋の口から息が漏れた。
古橋はいつもより優しい顔をしているような気がした。

「(笑っ、た…?)」

「寂しい思いをさせてすまなかったな。
デートなんてしたことがないから、考えたことがなかった」

古橋が名前の頭を撫でる。
名前が照れたように俯くと、手を離し頬杖をついた。

「好きなところへ連れて行ってやる」

(150311)
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