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▼ 君がヒーローなのか?

ん?と柳は心の中で目の前の物に疑問を抱いた。

柳の席は窓際の1番後ろ、他からの妨害が少ない席だった。仁王とは言わずほとんどの生徒が寝てしまうだろうその席は、幾度も生徒の寝顔を眺めてきただろう。

お昼休みに入り、その席で隣の友人とお昼を食べた。
さて、残りの時間は本でも読もうか。
だがお昼を食べた手で本を読むのは少しはばかられたので手を洗うことにしよう。取り出した本を机に置き、席を立った。
本を読むにはやはりすっきりした気分で読みたいものだ。柳は手を洗いながら思った。

戻ると、先程とは自分の席の様子が違っていた。

机に置いていた本がない。
昨日発売の本を下校中に寄り道をして買った、新品だ。
本を買った時の独特な高揚感で4、5ページ家で読んでしまってはいるが、新品である。席を立った数分でなくなるなんてショックだ。

ショックというのは、柳が新しいジャンルに手を出してみたからである。
今まで二葉亭四迷や宮沢賢治など純文学を好き好んで読んでいたが、ふと推理小説に手を出してみれば、なかなか面白い。
2週間前に買ったシリーズの1巻をゆっくり吟味しながら読んでいるとどっぷり浸かってしまったようだ。
いつもなら1週間、5日ほどで1冊を読み、今回の作品はここが素晴らしいだとか、あそこは描写が良くされているなどと1人で楽しんでいるが、なにぶん推理小説とは初めましてなものでよく読み返したりもした。

いったいどこへ行ったんだ。

頭の中でぐるぐる考えていると隣からねえねえ、と話しかけられた。

「?なんだ?」

本のことを考えていて視野が狭くなっていたらしい。名字が先程お昼を共にした友人の席に座っていた。
どうやら友人も柳が席を立った後に留守にしたらしい。

「柳くんていつも本を読んでるからどんな本を読んでいるのか気になって」

そう言う名字の手には柳の本があった。

名字はそんなに本が好きだったか、と自分に問う。
参謀、達人と名高き柳はクラスメイトのことはだいたい把握していると自負している。
確か、名字は人が何を読むか気になるほど本に興味を抱いているデータはない。

「ならば俺の持っている本を貸そうか?好きなジャンルを教えてくれれば、それに合わせて持って来よう」

「え、いいの?えっと私が好きなのはね、」

「柳くんのような人が主人公の本」

柳は一瞬言葉に困ったがあ、ああ、わかった。と言い席に着いた。

(俺のような主人公…そんな本持っていたか?)

それから柳は名字の言った言葉に悩まされるのだった。

(150302)
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