小説 | ナノ

▼ いつもそばに

注意*花宮が猫

都内に一人暮らしの私は結構な寂しがり屋なので、一人暮らしと同時に猫を飼い、早数年。
真っ黒で生意気で毛並みがいい猫さんの名前は真。
でもうちの真は朝が一番うるさい。
早く起きろだのご飯をくれだのもっとそっちへ行けだの。
にゃあにゃあにゃあにゃあ。

夜寝るときは自分の布団で寝るくせに、私がベッドに入って「ああ、寝れそう」と思ったらごそごそと入って来る。
それを退かす元気もないくらい眠いときに来るので、いつも仕方なく一緒に寝ることになって。
そして朝起きると私は端っこで真はベッドのど真ん中に寝ていて悲しい、寒い。
でも真があったかいので抱きしめようとすると蹴られてやっぱり悲しい。
起きてご飯をやって、少しするとすぐに遊べと鳴く。
私は食べるのが遅くてまだご飯中で、なかなかすぐに遊んでやれないと真はしっぽをびったんびったん床に叩きつけてにゃあにゃあ主張して怒る。
だから自分のご飯を後回しにして遊んでやる。
するとご機嫌になって、しばらくすると疲れて眠っちゃうところはやっぱり猫だなあと思う。
寝顔がとにかく可愛い。
その寝顔を見ながら冷めたご飯を食べる。
そして起きるとまた遊べと鳴く。
正直疲れるけれど、そんな日常が好き。

だから今日もそうだと思ったんです。

「おい、起きろ」

「うん…」

「おい名前、起きろ」

「うーん」

誰だろ、うるさいなあ。

「起きろ、遊べ、ご飯」

「うんうん」

「名前起きろよ、つーか狭いからあっち行け」

ん?男の人の声がする…。

「眠い…」

「あ?起きろ」

…なんかおかしくないですか?
私、誰とも一緒に住んでいないんですよ。
生意気な猫とは一緒に住んでるけど。
だから私の家で会話なんて出来ないと思うんだけどなあ。
え…ということは私誰かの家に泊まった…?

嫌な考えが頭をよぎったのでガバッと起きると、隣で「埃が舞うだろ」と文句を言われた。
ちょっとチラッと見えたけど肌色が多かった気がする。
私ついに漫画やドラマみたいなことをしてしまったの…?
「覚えてないの?」とか言われたらどうしよう。

「おい名前」

「は、はいっ」

呼ばれたのでついそちらを見ると見知らぬ黒髪の男の人。
やっぱり肌色が多い、というか裸。
…私この人と一夜を明かしてしまったの…?
どうしたらいいの?見た目はまだ学生っぽいし。

「名前、ご飯」

「えっと、どなた、ですか…」

「はあ?忘れたのかよ」

うわあ出ました、「忘れたの?」「覚えてないの?」系の質問…!
覚えてないよ!なに、誰なの?ここどこですか?あ、私の家だ!え、じゃあ私の生意気な猫は?どこ?この人に捨てられたとか?そんなの悲しいよ…!
生意気だけど退屈せずに生活出来たのは猫…真のおかげなのに!

「ま、真はどこですか」

目の前の男の人を少し睨むと「は?」と言って私を見る。
な、なに…。

「真」

「えっ…」

「だから、真」

…嘘でしょ?真ってあの真?
私の生意気な猫の真…?
あなたは人間だと思います…。

「ご飯は」

「は、はい」

とりあえずご飯ご飯とうるさいのでご飯を作るためにキッチンに向かう。
和食でいいかな…?

2人分のご飯を作ってテーブルに置くと真さんがベッドからのっそり出てきて、椅子に座る。
服は男性用と女性用を間違えて買ってしまった黒のスウェットを貸した。
下着は友人と面白がってバレンタインのときに売っていた男性用ボクサーパンツ。
チョコレート柄が可愛かったし、「今のバレンタインってパンツとか送るの?進化してるね」って言いながら買ったやつ。
文句も言わずに着てくれて良かった。
そして真さんはなにも言わず箸を使って食べ始める。
箸の使い方きれい…。

「あの…」

「なに」

なんでそんなに不機嫌そうなのかなあ。
怖い。
そういうところはうちの猫にそっくり。

「…本当に真、なの?」

「そうだって言ってんだろ」

もぐもぐしながら言う真さんは猫の真とやっぱりカブる。
真ももぐもぐしながらにゃあにゃあ鳴くし…。
食べ終わった真は箸を置くと私をまっすぐ見つめる。
目が吸い込まれそうなくらい澄んでいる。
なんか眉毛が特徴的だけど、猫のときもそんなに変わってる眉毛だったかなあ…?

「名前、遊べ」

「まだご飯食べてるよ」

「早く」

本当に猫の真みたい。
ご飯か遊ぶことしか頭にないし、澄んでる目だけど目つき鋭いし、言い切るところとか似てる。
だから信じてみようと思う。
現に猫の真はこの家にはいない。

「真…」

「…」

うわ、多分怒った…。

「…なんだよ」

「なんで怒ってるの…」

「別に」

「…」

私が言うこと聞かないから怒ってるんだろうなあ。
これじゃあどっちが飼い主かわからない。

「…遊ぶ?」

「遊ぶ」

今日も温かいご飯は食べられないのね…。
そう思いながら即答する真とソファに移動した。

「なにして遊ぶの?」

「名前がいつもすること」

ソファに座ると真がぴったりくっついて座って来た。
冷たいしひどいのにこういうふうにくっついたりなんだかんだで一緒にいてくれるところはいつも優しいなと思う。

「?猫じゃらし?」

「違ぇよ
いつもサンポって言って外出るだろ」

ああ、散歩。
運動不足にならないように毎日散歩していたのが気になってたのかな。
…寂しかったとか?

「私が散歩してる間寂しかったの?」

「はあ?そんなワケねえだろバアカ」

「…だよね…」

真ひどい。
傷ついた心を抱えながら身支度をして2人で外に出た。

日が優しくて温かい。
真は外が新鮮なのか私の前をあてもなく、けれどしっかりとした足取りで歩く。

「あれはなんだ」

「鳥だよ」

木に止まっている黄緑の鳥を指差して聞くので答える。

「…あの甘ったるい匂いがするのは」

「タピオカとクレープが売ってる車」

「甘い」

チッ、と舌打ちして顔をしかめる真。
可愛い。
見た目は男の人で可愛くないしむしろかっこいい。
だけど猫の真なら可愛く思える。

「甘い食べ物だからね」

「名前のいつも食べてる黒いのがいい」

カカオの濃度が高いチョコレートは健康にいいって聞いてから、私は毎日カカオ100%のチョコレートを食べている。
100%のチョコレートを食べているといつも真は近づいて来て、包装紙をくんくん嗅ぐ。
「好きなの?」と聞くと少しだけ舌を出してすぐに逃げちゃうけど。

「じゃあスーパー寄ろう」

「…そこは甘くねえんだろうな?」

「匂いのこと?美味しい匂いがするよ」

「あっそ」

私が道案内するために真の前を歩くと、私の手首をがっしり掴んでついてきた。

スーパーに寄ってたくさんチョコレートを買って、ついでに真が食べたいと言った魚もたくさん買って食べた。

ソファに例の如くぴったりくっついてまったりしていると、真が私の方を向いてジィッと見てきた。
なんだろう、なにか不満なのかな。
不安になり私も真に向き直って、お互い向かい合わせで見つめ合う。

「すき」

「えっ…」

真はなにを言っているの?
すきって、好きのすき?

「すきすき、名前すき」

真はそう言って私の服をぐいぐい引っ張る。

「真…」

「名前、離れるな」

「っ、」

ぎゅうっと力強く抱きしめられて、苦しい。
あの生意気な真がすごく素直でどうしたらいいのかわからない。

「真」

「ん」

「どこにもいなくならないよ」

私が努めて笑顔で言うと真は特徴的な眉毛をひそませた。

「…ほんとかよ」

「疑い深いなあ」

抱きしめ返すと真の腕の力が増した。
…私折れそう。

「ずっと一緒にいろ」

「うん」

真剣な顔でねだって命令する真が本当に可愛くてかっこよかった。
私も好きだよ。
誰よりも大切で、真が必要だよ。

「好きだよ、真」

「知ってる」

真は答えると私の首をべろりと舐めた。

「ちょ、」

「うるせえな」

「くすぐったい」

真を押すとしぶしぶ退いて私の肩に肘を置いた。
しばらく無言で見つめ合っていると、真がべえっと舌を出して笑う。

「愛情表現」

真はやっぱり生意気。

(150517)
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