小説 | ナノ

▼ ふたりのセカイ

注意*死ネタ、病み

「なあ、一緒に死なないか」

「うん…ん?…え…?」

古橋くんの誘いについいつもの癖で頷いてしまった。
だってごく普通に、それこそ「コンビニに行かないか?」みたいなノリで言うものだから「コンビニ?行く行く!」って感じで答えちゃったんだけど。

「…なにか悩みごと?」

「?いや悩んでいないが、なぜだ?」

悩んでないのに死にたいのかな…。
たまに古橋くんはよくわからない。
この間も「笑った顔が一番好きだ、壊したいくらいに」と言われて「あ、ありがとう」としか返せなかった。
嬉しいのだけれど、表現の仕方が過激というかちょっと怖い。

「どうして死にたいの?」

「名前と離れたくない」

古橋くんって意外と言葉で表すし恥ずかしいこともさらりと言ってしまう。
いつも恥ずかしがるのは私だけで悔しい。

「えっと…それは生きていても出来るんじゃ…」

「いつかは離れていく
未来はわからないだろう」

「そうだけど…」

古橋くんは不思議。
花宮くんや瀬戸くんに嘘をついて騙したり、原くんや山崎くんに無表情で冗談を言ったり。
でも私には嘘はつかない。
冗談も言わない。
ただ本当のことを言って私を幸せにしてくれる。

「じゃあ一緒に死ぬ?」

「いいのか?」

「古橋くんが聞いたのに」

古橋くんは少し不安だったんだろうか。
いつもなら二度も聞かない。
私をまっすぐ、迷いなく導くのに。

「俺についてきてくれるのか」

「古橋くんについていきたいな」

私がそうしたいんだよ、そう言って笑った。

「…そうか」

古橋くんも安心したように笑った。

ーーーー

「お別れだね」

「俺たちが離れることはないさ」

古橋くんはいつも欲しい言葉をくれる。
古橋くん、ずっと一緒だよね…?

「じゃあずっと一緒だね」

「ああ、…名前」

「なあに、古橋くん」

これが最後の会話なんだろうか。
それでも悲しいと思わないのは古橋くんは私に嘘をつかないのを知っているからだと思う。

「好きだ」

「私も、すき」

唇が触れ合うと今までにした会話や古橋くんの表情、肌が覚えている古橋くんが一気に私の中で溢れだした。
古橋くん古橋くん。
好きでどうしようもなくて、私は古橋くんの彼女であることが嬉しくて、毎日が楽しくて…だから死ぬときも一緒だなんて私って幸せ者だなあ。

「っ、ぐっ…はあ」

古橋くんが私の首に手をかけた。
苦しい。
空気が欲しくて口を開けると古橋くんの舌が入りこんでくる。
今触れているところの温かさも、もうすぐわからなくなってしまうの?
あなたと一緒ならそれで良いのだけれど、やっぱり少しの間でも離れるのは怖いよ、寂しいよ。

「ふ、ふるはっ」

怖い、一度でもそう思えばそいつが私を支配する。
やだやだ、古橋くん。
古橋くん助けて。

古橋くんを呼ぼうとしたのがなにか気に障ったのか、古橋くんの舌がこれ以上話せないように私の口内で暴れた。
だらしなくよだれが垂れる。

古橋くん…少しでもあなたのそばにいたいよ。
ずっと一緒にいたいよ。
離れることこそが怖い。
古橋くんの気持ちが今わかった気がする。

「名前、」

唇も手も足も、いろいろな感覚がわからなくなってきた。
目も涙が溢れて前が、古橋くんが見えないし、鼻も古橋くんの匂いを感じない。
私は今ちゃんと古橋くんとキスをしている?
手はちゃんと古橋くんを掴んでいる?
ねえ古橋くん。

ただ耳だけは聞こえた。
古橋くんの漏れる声がする。
それがとても色っぽい。
古橋くんは美しさもかっこよさも色っぽさも、すべてを兼ね備えているよね。
ああ私は本当に古橋くんがすきだなあ。

好きだとか、息をするだとか、どうでもいい。
私はもうすぐ死ぬみたいだもの。
古橋くんがくれた幸せをまぶたの裏に乗せて死ぬの。
古橋くん、またすぐに会おうね。

「すき、ふるはしくん」

最期の言葉はちゃんと古橋くんに届いた?

ガクッと名前の全身から力が抜けたので慌てて体をどこにもぶつけないように抱きとめた。

「いった、のか…」

優しく床に寝かせる。
乱れた髪を手ぐしで整えてやる。
自然と悲しくはなかった。
なぜならすぐに会うからだ。

名前が好きで仕方がなかった。
初めて会ったときから好きになっていた。
無邪気な笑顔、優しい心、すべてが愛おしかった。
だから、俺だけの名前でいて欲しい。
だから俺は名前をなににも頼らず俺の手でやった。
刃物なんかに頼って名前をやったって幸せになんかなれない。
俺と名前は2人だけの世界にいるんだ。
なにもいらないんだ。

どうやって名前の後を追おう。
名前と同じがいい。
出来ることなら名前にやって欲しい。
でも名前は俺がやった。
だからもう動かない、動けない、俺をやることは出来ない。
なら俺が俺をやるしかない。

名前と少しでも同じようにと名前の隣で仰向けに寝て舌を噛み千切った。
痛い。あああ痛い痛い痛い。
痛いがこれで名前と一緒になれるのなら耐えられる。
早く、早く名前に会いたい。
噛み千切ったせいで舌が痙攣して喉の奥に詰まった。
苦しい。
息が出来ない。
酸素が欲しい。
だけど名前に会いたいんだ。
名前。

「ぐっ、…」

ああ、苦しい。
この苦しさの後に名前と2人きりでいつまでも一緒にいられるのか。
ならばこんな痛みも苦しみもなにも感じない。
俺は最高に幸せなんだ。

切れたところから血が溢れて気管に流れてくる。
まったく息が出来ない。
視界が霞んで体の感覚が完全になくなった気がする。
正直考えるのが億劫で感覚があるのかないのかなんて知らない。
わざわざ知ることが面倒だ。
もう、死ぬのか…?
ならばこれだけ言わせてくれ。
もう誰も聞いていないし俺にも聞こえるかわからないが、一言だけでいいから。

「すきだ、名前」

最期の言葉は名前に捧げよう。

(150516)
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