小説 | ナノ

▼ 王子なんていない

注意*花宮兄、ヒロイン妹彼氏持ち

今日は思いのほか早く部活が終わった。
さっさと家に帰って部屋着に着替えて、リビングのソファでぼーっとテレビを見たり出された宿題をやったり。
1人は落ち着く。

ガチャっとドアが開いてぺたぺたと足音がする。
名前が帰って来た。
だが他の音がする。
名前なんかより体重がかかった足音。
男、の足音みたいだな。

「おかえり」

「あれ、お兄ちゃん帰ってたんだ
ただいま」

「ああ、部活が早く終わった」

コーヒーの入ったマグカップを片手に今週末にある大会の書類を見る。
が、書類を見るフリをして名前を見つめる。
昔からあまり干渉し合わないしお互いドライだが最近名前が気になる。
女としてじゃなく妹として。
兄がラフプレーをして妹がどう思ってるとか悪口を言われてねえかとか。
心配になってきた。

「…名前ちょっとこっち来い」

「なに?」

しかし靴下でぺたぺた歩くこの妹はあざとい。
この間もいろんな女に耐性のある原が
「ちょっと名前ちゃんってさ…男のツボ心得てるよね、花宮教えた?」
とか言ってやがった。
教えてねえよ、妹にそんなこと教えるバカ兄が世の中にいるのか?
原も大抵バカだな、と思い出していると目の端でちらちら輝くものが見えた。
?今なんかが名前の部屋から覗いてなかったか?
しかも銀髪。

「なんか銀髪見えたぞ」

「…気のせいじゃない?」

「はあ?お前本気で言ってんのか」

コイツがビッチとか純情とかどうでもいい。
いや、どうでもよくねえけど名前ってそんなに適当なやつとは付き合わないだろうし大丈夫だと思う。
つーか彼氏作れるわけねえだろ。
近くでなんでも出来る男がいるのにそこら辺の男に靡けるわけがねえ。

「うん」

「…あっそ」

「じゃあね」

ひらひらと手を振る名前の背中が急に女らしく見えて額に冷や汗が滲む。
…本当に大丈夫なんだよな?

気にしても仕方がないのでリビングのソファに座って書類を見る。
出場校は…はあ?誠凛もいんのかよ…。
少しの不安と多大なるイライラを飲んでいたコーヒーと一緒に流しに捨てた。

引き続きどうでもいいテレビを見てたまに笑ったりクイズ番組の問題に答えたりしていると、リビングのドアが開いた。

「お兄ちゃん」

「なに」

今度はなんだよ…。

「あのね…紹介したい人がいるんだけど」

「はいはい、どうぞ勝手に」

つーかこれ典型的な身内に彼氏を紹介するシチュエーションじゃねえ?
とりあえず新しく作ったコーヒーを飲んで待つ。

「入って良いって」

俺じゃない誰かに話しかけるとさっき聞こえた足音が近くまで来る。

「この人が彼氏」

名前がそう言うと彼氏とやらは俺に挨拶する。

「初めまして」

「…こんにちは」

は?なにコイツ?銀髪なんだけど。
さっき覗いてた奴だし雰囲気がエロいんだけど。
名前が食われるの必至じゃねえかふざけんな。

「えっと…お兄ちゃんはね、いつも勉強とか見てくれて優しいんだよ」

おい名前ほんとにコイツと付き合ってんのかよ。
こんな奴に気ぃ使わなくていいんだよ。
そんな暇があったら勉強してろバアカ。
しかもコイツなんかうさんくせえし…。
さっきの笑顔も爽やかな男を演出させたんだろうが古橋の爽やかさには負けるわ。
絶対猫かぶってるだろ。

…別れさせてやろ。
なんかムカつく。

「お兄さん、会えて嬉しいです」

「…僕も会えて嬉しいですよ」

なにが嬉しいだよ。
そんなこと思ってねえだろ。
顔が嘘くせえんだよバアカ。
俺が名前の彼氏なんかに会えて嬉しいわけねえだろうが。

彼氏(仮)が「もう行かないか」と言って名前と戻って行った。
さっさと戻れ、つーか帰れ。

「うっざ」

ローテーブルにある宿題や大会の書類を全部床に落としてコーヒーを一気飲みする。
紙のくせにばらばらうるせえ。
とりあえずムカつく。
紙は自分で落としたのになぜかそれにイライラするし紙の音にもイライラする。
よりによってあんなチャラそうでうさんくせえ銀髪と付き合うなんてバカかよ。
それこそ頭ん中ババロアだな。
…原に電話してやろ。

「ああ、俺だ
…原くんさあ、俺の妹のこと気に入ってたよね?」

『え…花宮なんかアブナイんだけど〜古橋どう思う?』

『のってやる』

「古橋もいんのか」

『じゃあ俺ものる』

「妹の彼氏が銀髪だった
どう思う」

『俺の方がマシだと思う〜
俺って名前ちゃんには優しいよ』

「じゃあそういうことで」

『俺もサポートしよう』

「お前悪事大好きだよな」

じゃあな、と言ってもう用のないスマホを隣に投げ捨てて横になって眠った。

「(明日から楽しみだ)」

その日は実に良い夢を見た。
だから翌朝、名前の彼氏(仮、もうすぐ『元』の前書きに変わる)に心の中で少しだけ感謝してその日から2人の仲を邪魔した。
まだ誰かに名前をやるつもりはねえ。

(150516)
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