小説 | ナノ

▼ むきだしのあい

注意*BLD

「名前」

「なんだ?」

古橋が呼ぶので名前は古橋の方を振り向いた。

「…」

「おい待て
無言で顔を近づけるな」

「別に良いだろう」

至極当然のように古橋は言うので名前は「は?」と言った。

「だめだろ」

ここどこだかわかってんのか?
名前がそう聞くと古橋は「学校」としれっと答える。
それがムカついて名前は古橋に向かってため息を吐く。

「人に向かってため息を吐くとは失礼だな」

「はいはい、悪かった」

どんどん前を歩いてしまう名前を古橋は追いかける。

「名前、」

「あ、なあ、
今日の帰りさ、ーーーー」

だが通りかかった名前の友人に取られてしまう。
ギリィ、と古橋の奥歯が軋んだ。

なぜいつも友人としてなのだろうか。
古橋は名前が好きで、名前も古橋が好き(古橋が無理矢理言わせた)。
しかしお互い男だ。
名前にいつも避けられ、あまり話しかけるなだとか近づきすぎるなだとか、2人の時間以外の制限が厳しい。

「別に…いいだろう…」

古橋の呟きは1人虚しく宙に浮いた。

「古橋ってさ、結構べたべたしたいタイプ?」

「…急になんだ」

部活が終わり、古橋と名前はいつもの帰り道を歩いている。
空が重い紺色でまだ夜ではないのになんとなく寂しい。

「なぜ2人のときと態度が違うんだ」

古橋は疑問を投げかけた。
少しでも一緒にいたいと古橋が思う ほど他の奴らと話す名前が気に食わない。

「別に変わってないし普通だと思うけどなあ…」

「他の奴らと話さないでくれないか」

「いや、それは無理だろ、学生だし」

名前がそう返すと古橋は納得のいかないような顔をして名前を見つめる。

「名前を他の奴らにとられるのが嫌だ」

「…とられてねえけどな…」

「俺にはお前が必要なんだ」

「…うー、ん…」

無表情な古橋が口にまで出して気持ちを伝えるにも関わらず、それをなかなか受け取らないのは名前が人から好意を受け取るのが苦手だからだ。
好意が怖い。
古橋は名前が以前言った言葉を脳内で再生する。
好きだと思う感情、名前の言葉を尊重したい感情、好きな人をぐちゃぐちゃにしたい感情が混ざって、古橋は平常心を保つのに苦労する。
それを名前は知らないのだろう、と古橋は1人愚痴をこぼした。

「俺さあ、古橋のこと好きだけどどうしたらいいのかわかんないんだよ」

「それなら俺の言う通りにすればいいだろう」

「…なにすればいい…?」

好意が怖い名前には古橋の行動がすべていけないことに見える。
だから否定して周りからは友人に見えるように接していた。

答えは簡単だ、と古橋が言った。

「俺以外と話すな」

「あれ、古橋聞いてた?
さっき無理って、」

名前が言い終わる前に古橋は続けた。

「無理?まだやってみてもいないのに?」

「急に熱血だな…」

はは、と苦笑いして頬を触る名前の手を古橋は掴んだ。

「なに」

「今まで俺が言っていたことが嘘に聞こえるか?」

真剣な目で言うので名前は言葉に詰まった。
嘘と思ったことなんてないが古橋の言う通りに行動するのも怖かった。

そんな名前の態度が古橋は気に入らなかった。
お互い好きであるが故に少し強引になってしまう。
自分に歯止めがきかなくなりそうで古橋も自分に怯えていた。

古橋は掴んでいた名前の手を口元に運ぶとがじがじと噛んだ。

「はっ!?いたいいたいいたいっ」

「とりあえず俺の家に来い
話がある」

古橋が言うと名前は大きなため息を吐いた。

「…激しく嫌だ…」

すたすた歩く古橋とは正反対に名前は下を向いて仕方なく歩く。
途中で「遅い」と手を掴まれ強引に古橋の家まで引っ張られた。

古橋の家は大きくてきれいだ。
物も少なくて落ち着く。
名前は古橋の家が好きだった。
古橋がこげ茶の玄関に鍵を挿して開けると爽やかな石鹸と木の匂いが鼻をくすぐる。
…古橋の匂い。
名前は無意識に古橋を視界に入れないように目を泳がせた。

「…お邪魔します」

「どうぞ」

ガチャリ

「え、」

名前が入りそのすぐ後に古橋が入ると鍵の閉まる音がした。
古橋が鍵を閉めるのは当然なのだが、今日の古橋からその行動をされると唐突に不安になる。

「これからどうなるのか、わかっているんだろう?」

靴を脱ぐ途中の名前が古橋を振り返ろうとすると視点がぐらりと歪んで、真っ白な天井と古橋が映る。
いくら大きな古橋の家でも、男2人が倒れ込むのに玄関は狭すぎる。
体中が痛いし名前の上に跨る古橋がいつも以上に真剣な顔をするので気安く息をするのもはばかられた。

「…わ、かりたくないなあ、古橋クン」

「この状況でよく口答え出来るな」

上から見下ろされ、不愉快というよりぞくぞくした。
案外俺はMなのかもしれない。
…そうなると古橋のタイプにぴったりだな、わーすげー。

「…古橋」

「なんだ」

「近い」

きっとなにをしても逃げられないんだろうし、逃げてもすぐに捕まるんだろう。
せめてもの抵抗と古橋の鍛えられた胸板を押すが手首を掴まれ、いよいよ身動きが取れなくなった。

「今は2人だが?」

古橋が手に唇を近づけるので引っ張るが何故か古橋の力に勝てない。
自分でも顔が熱くなるのがわかる。

「…っあああ!近い!恥ずかしいんだっつってんだろ!っんのバカ!」

「…名前、」

名前が真っ赤な顔をして言うと手首を掴む古橋の手が少し緩んだ。
名前は古橋の手を振りほどき、うなじをむんずと掴み引っ張ると古橋の薄い唇に自分を重ねた。

「っ、名前」

「これで、いいだろ…っ」

べたっと玄関の床に脱力して名前が腕で顔を隠すと古橋は気づかれないように口元を歪め、舌で下唇を舐めた。

「古橋、退いて」

「…」

名前が顔を隠したまま言うとなんの返事も来ないので名前は眉をひそめた。

「…古橋?」

「まったく、不憫だな」

「…俺それ嫌い」

名前が言うと両手を床に押しつけられ唇を塞がれる。
触れると柔らかくて、でも息が欲しくて気づかれないようにうっすら口開けるとすかさず舌をねじ込まれる。
少し目を開けると眉間にしわを寄せた古橋が目を閉じていた。
それがきれいでムカつく。
ざらざらした舌が我が物顔で口内を徘徊するとゆるりと唾液が口の端からこぼれた。

「んっ、ふるは、し」

「っは、名前…」

唇を離すと古橋はこぼれた唾液を舐めあげ名前を見つめる。

「っ、」

少し上目な古橋が堪らなく色っぽくて心の中で舌打ちをする。
全部古橋の好きなようになることにイライラしたので舐められたところを袖で拭いた。

「…」

それを無言で見つめる古橋が名前のワイシャツに手をかけるまで、あと2秒。

(150510)
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