小説 | ナノ

▼ 一つと無限の灯り

緑間が久しぶりにチャリアカーに乗らず宮地と帰るらしく、高尾は1人で帰ろうかと考えながら下駄箱まで歩いている。
すると自分の教室がまだ灯りがついていることに気がついた。
誰かいるのだろうか、それとも消し忘れ?
そう言えば部活に行くときまだあの子は…
高尾は少しの期待を胸に部活後とは思えないほど軽い足取りで階段を駆け上った。

教室の近くまでゆっくり歩くとなんの音もしない。
ただの消し忘れか…と少し肩を落としながら電気を消すためにキュ、と上履きを鳴らして一歩進む。
ったく…戸締りのおっさんもしっかり見ろよなー
なんて考えながらドアに手をかけようとしたところで、中からカランと音がした。
やはり誰かいるのか、そう思い少し意識して呼吸をする。
静まり返るこの空間を読み取ろうと集中した。

ギィッとイスを後ろに引く音がして1、2歩足音が聞こえた。
その後にゴンッとなにかがなにかにぶつかる音がする。

「いった…」

?どこかぶつけたのか?
高尾はその声が期待していた名前の声だと嬉しく思い、いつも開けるとうるさいドアを少し静かに開けた。

「あっれ、こんな遅くまで残ってんの?帰り危ねえよ?」

偶然を装って高尾が名前に話しかけると、名前は机の近くにしゃがんで頭を押さえていた。
突然足音もなくドアが開いたので驚いたのだろう。
立ち上がることも忘れ目を見開いている。
高尾がドアに寄りかかりそのよく見える深緑の目で名前を見つめた。

「う、うん、ちょっと勉強してて、気づいたら…」

びっくりした…と小声で言って立ち上がる名前に高尾は可愛らしいな、と微笑んだ。

「あー名前ちゃんて一つのことに集中するタイプだったよな」

今度は平常心を装って名前に誘いを申し出ようと頭の中で思案する。
今日緑間が宮地先輩と帰ってくれてよかった。宮地先輩も今日緑間を誘うとかマジ宮地先輩って先輩だわ。真ちゃんと宮地先輩サマサマ。
高尾は心中で頼りになる少し変わっている相棒の緑間と尊敬する厳しくも優しい宮地にお礼を言う。
さあて、どうする和成?ここまで来たんだから言っちゃえよ!
自分を鼓舞して大好きな名前になんとか「一緒に帰ろう」、その一言を言おうと気持ちを高める。

「…もう帰るんなら送ってこっか?」

言いたかった言葉とは違うがまあいいか、と高尾が妥協し名前の答えを待った。
高尾と名前は付き合っていない。
それ故に断られる可能性の方が高く高尾は少し緊張した。
いや、優しい名前のことだからきっと断られるのだろうと高尾は予想した。
名前のことなら大抵のことはわかってしまうのではないか、と思っていた。
自分は目でかなりの情報を得ることが出来るし、好きな人のことはやはり誰でも見てしまうだろう。

「高尾くん部活で疲れてるだろうし悪いから大丈夫だよ」

ぶんぶんと音が出るかの如く手と首を左右に振るので高尾は笑った。
やっぱり。
予想が当たったことと断られたことでなんだか緊張がほぐれた。
もう少し違う言い方がいいか。
このチャンスを逃したくねえし。

「そんなの気にしなくていいって
1人で帰るよりさ、2人で帰った方が楽しいっしょ?」

そう言われると名前は断るに断れなくなる。
名前は人が良く、申し訳ないから断ったのだ。
それをわかっている高尾は違う言い方で誘い直す。
名前はあまり話したことはないが日頃から高尾にはなんとなく敵わないような気がしていた。
よく変人と言われる緑間の相棒を務めると聞いていたし、まず誰にでも仲良く出来るその性格に憧れていた。

「それなら…お願いします」

かしこまった言い方をする名前に高尾は笑顔で「もちろん」と言って名前の机の前まで近寄った。
名前ちゃんってきっと…
その先は考えないようにした。

「うわ、さっむ」

「ほんとだ、もう夜だね」

「ほんと」

名前の片づけが終わると外に出た。
辺りはすっかり暗く空を見上げるといくつかの星が輝いている。
名前は高尾と2人きりという幸せを噛みしめた。

「見て、星」

名前が空を指差すので高尾もその指先の空を見た。
よく見れば薄い黄色や淡い青の光が2人を照らしていた。

「…綺麗だな」

「…うん」

なんだかロマンチックな雰囲気だと思う。
高尾は空を見上げる名前の手を握った。

「手、繋いでいい?」

高尾が首をかしげて切なそうな顔をするので、こくりと名前は頷いた。
あざといというか、名前が断れないように徹底しているというか。
今だってそうだ。
断れないように先に手を繋いでいる。
名前は高尾のなすがままだ。
高尾と名前はゆっくりと歩き始めた。
それがカップルのような気分で名前も高尾も心中で喜んだ。

「あの、さ」

「…?」

高尾が言いにくそうに話し出すので名前は不思議に思った。
名前から見た高尾はなんでもすぐ自分のものにしてしまいそうなイメージで、自信のない高尾を見るのが新鮮だった。

「ずっと気になってる人がいてさ…聞いてくれる?」

「…うん」

なぜ手を繋いでまで恋愛相談なのかと名前は心の中で泣きそうになった。
高尾が好きだから負担にならないよう誘いを断って、申し訳ない中一緒に帰って、恥ずかしい中手を繋いでいるのに。

「一緒に帰って手繋いでるのにまだ俺の気持ち伝わってないみたいでさ」

「え…?」

少し前を歩く高尾が立ち止まり名前を少し振り返り真剣な眼差しで名前を見つめる。
何事も見通してしまうその目に名前は目を奪われた。

「俺は名前ちゃんのこと大好きなんだけど…名前ちゃん俺のこと好き?」

思わずぼろっと大きな涙が1粒こぼれた。
なぜ涙がこぼれたのかわからないが恥ずかしくて視線を下に落とした。
すると繋いでいた手がぎゅうっと力を込めて握られ、ふと名前が高尾を見ると高尾が苦しそうな顔をしている。

「そんな嫌…?」

口ではそう言うくせに高尾は握っていた手を自分の方に引っ張り名前を抱きしめる。
名前が高尾のするなにもかもに驚いていると高尾がなにか耳元で囁いた。

違うよね?

そう聞こえて、名前の顔は真っ赤に染まった。
なにもかもを知っているのかと疑った。

「なんで、」

「好きだと見ちゃうっしょ?
その時俺と目合いまくってたからもしかしたらってさ」

名前が高尾を見ると彼は薄く笑っていた。
やはり高尾には敵わないのだと名前も苦笑した。

「名前ちゃん」

笑っていると高尾が再び真剣な表情をするので名前も真剣に高尾を見つめた。

「好き」

「私も、すき」

まっすぐな告白にまっすぐな返事をすればお互い赤くなる。

寒い中2人は先ほどより近い距離に笑った。

(150428)
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