小説 | ナノ

▼ 悪、愛を得る

あーうざってえ
どうせ告白だろ
面倒くせえんだよ
いい子ちゃんが断らないとでも思ってんのかなんだか知らねえが女といちゃこらするほど暇を持て余してねえよ

「話ってなにかな?」

とりあえずいい子ちゃんをフル装備しておく
簡単に素を出せば付け入るからな
『私だけに見せてくれた』とか勘違いされたら困る、いろいろと

「その、ね…あの…」

ああはいはいわかるよ
肝心な『好き』って言葉がなかなか口から出ないんだよねえ…早くしろよ
そんでもって驚いた顔して数秒黙ってから悲しそうな顔で『君には僕よりもっと良い人がいると思うんだ』って言ってやるから大丈夫だ、さっさと言え
告白されたときの返し方は全員一緒
お前だけ特別とかはねえから安心しろ

「ゆっくりで、良いよ」

「…その、私、花宮くんのことが……好き、です」

「えっ…?」

チッ、やっと言ったかよ
じゃあ俺は演技するとすっかな

「その…本当?」

「う、うん」

「お、驚いたな…」

あと数秒、間を空けろ
そして悲しそうな顔は…なにが良い?古橋の死んだ魚の目について悲観的に考えるからそれを考えた時の悲しそうな顔で良いか?
…古橋ってどんな顔してたっけな…古橋…死んだ魚…死ぬ…

「君には僕よりもっと良い人がいると思うんだ…」

「花宮くん…」

「ごめん、ね…」

はあ、終わった
よし解散しよう
誰だか知らねえがお前はさっさと家に帰りな
俺は部活に行く

名前も知らねえ女が去ると俺の後ろから見覚えのある女が出て来た

「…見てたのか」

「うん、猫かぶりまこちゃん」

「うるせえな」

こいつも相当うざい
まこちゃんまこちゃんうるせえし馴れ馴れしいしそれに他のレギュラーと仲が良い
この間『古橋くんかっこいい…まこちゃんは古橋くんを見習いなさい』とか説教して来やがる
本当うぜえ
なんで俺が古橋を見習わなきゃならねえんだよ
ど こ を ?
俺くらい完璧にこなしてくるとなにをどうすれば良いのか逆にわかんねえわー、逆に

「そうやって女の子に優しくしちゃだめだよ
振るならばっさりいこうね」

「はあ?そんなことしたらいい子ちゃんにボロが出るだろ
いい子ちゃんを貫き通すのにも苦労するんだから黙ってろ」

俺がそう言うと名前がにやりと笑う
不気味と言うより嫌悪

「じゃあ練習しようよ」

「…はあ?」

話聞いてたか?
それじゃいい子ちゃんに支障が出るんだよ

「花宮くん」

「、なに」

びっくりした
なに急に真面目な顔で花宮くん呼びなんだよ
お前の好きなまこちゃんはどうした

「好き、以上解散」

「は、」

「好きでした」

なに?

「でした?」

「花宮くんって女の子と付き合う暇があったら読書したり時間を有効に活用するよね?
だから告白した瞬間失恋決定、でしょ?」

…こいつ…俺のことをよく見てる
いつもふざけてるくせに
なんだよこれ
裏切られた気分だ

「裏切んな」

「え?」

「お前なに?そんなに俺の心かき乱してえの?俺が潰したヤツらの知り合いか」

いつの間にこんなに近くまで復讐とかくだらねえ理由で近づいて来やがってたのか
お前みたいな敵討ちが一番不要
俺も敵討ちされる方もどっちも救われない
そしてお前も
ただお前が満足するだけ
そういうの時間の無駄

「違うよ
ただ花宮くんが好きなだけだよ」

「…信じられねえ」

「…自分のせいなのに」

うるせえ、そうじゃねえ
お前が読めない
だいたいのヤツは行動も思考も読める
それなのにお前はなにも俺に教えない
だから俺はお前をなにも知らない
俺をまこちゃんと呼んで馴れ馴れしいことしか
お前はどこであれをしてこうするという情報がない
わからない

名前が俺に近づいた
相変わらず似合わない真剣な顔をしてる
俺とお前は名前が現れてからずっと目を合わせたまま
なあ、なんでこんなに目をそらしたくない?

「好き、まこちゃん」

「…うる、せえ」

うるさい
低く耳鳴りがした
名前が特別女らしく見えた
なんだか欲しい
その目線、唇、吸った息、吐いた息まで

「お前のそれ、くれよ」

「…どれ…?」

どれだろう
まずなにが欲しい?
潤った瞳?赤い頬?艶やかな唇?
…ここで全部名前のモノを俺のモノにしたい

「お前の、」

自分で言っててわからなくなった
だから名前の唇にキスをした
柔らかくて優しくてするする滑る唇に、俺の血液は沸騰し始めた

「全部くれ」

(150425)
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