小説 | ナノ

▼ いやなのです

「ほんと寒い
手足なくなってない?ちょっと見て」

「あるから大丈夫だ
そもそも急になくならないし、なくなったら立っていられないだろう」

「正論やだ」

名前が嫌そうな顔をして古橋を見る。

「やだ…?」

古橋は名前の言葉に首をかしげたがすぐに戻した。

「寒いと腹が減るな」

「もうお腹ぺっこぺこ」

「俺もだ」

古橋がそう言うと名前の手を握った。

「寒いから手を繋がないか」

「もう繋いでるよー
寒くて膝笑ってる」

「こんなに寒いと腹が立ってくるな」

名前は思わず古橋を見た。
感情を表に出さない古橋がまさか怒っているのか、と名前は関心を持った。

「お腹空いたり腹が立ったり大変だね」

「そうだな…もう俺はだめかもしれない
腹と背がくっついてないか?ちょっと見てくれ」

古橋が先ほどの名前の真似をして聞いてくるので名前は古橋のノリの良さに笑った。

「くっついてないよ
原くんと瀬戸くんはくっついて歩いてるけど」

「仲が良いな」

「そうだねー」

古橋が繋いだ手をぶらぶらと揺らしてくるので名前もそれに従って揺らした。

え、今のダジャレに気づいてない…?

名前はショックを受けたが顔には出さなかった。

前方を歩く古橋を除いたバスケ部は、時々喧嘩しながら歩いている。
そんな4人を古橋はぼーっと見て言った。

「騒がしいな」

古橋の言葉に名前は思わず笑みがこぼれた。

「康次郎は静かだね」

「そんな元気は残っていない」

「いつも元気ないじゃん」

「俺はいつも元気だ」

「えぇ…」

嘘だ、と言って古橋を見上げると嘘じゃない、と言って古橋も名前を見つめた。
ジィッと見つめ合うが、お互いなにも言わない。
ただだんだんお互いの顔が険しくなるのを眺めていた。

「康次郎クンさー、パン作りにハマってるよね?」

「…急になんだ
嫌な予感しかしない」

「へへへ、あたりです
今度康次郎のお家で一緒に作りた、」

「嫌だ」

「…まだ言い終わってない」

名前が古橋を睨むともう一度嫌だ、と言われた。

「なんでダメなの」

「名前が粉をこぼしたり水を入れすぎたり発酵を待てなかったりするのが目に見えてる」

古橋が面倒くさそうに遠くを見るので名前は慌てて弁解する。

「…そ、そんなことないよ!!
康次郎を見つめてるから大丈夫!その間に時間は経ってるし!」

「こぼすのは防げないのか…」

古橋が呟くと白い息が出た。
そんなに今日は寒いのか。
名前が感心していると古橋はそんな名前を見つめ続けた。

「名前」

「?なに?」

「…仕方ないから俺の作ったパンを食べさせてやろう
今度の休みに俺の家に来るといい」

古橋が優しい顔をして言ったので名前は顔の緩みが止まらず、遂には満面の笑みで笑った。

「ありがとう!
すっごく楽しみ!」

「フッ…そうか、それなら良かった」

名前が元気に言うので、古橋から笑いがこぼれた。

「ね、作ってるところ見たいな
一番最初から見たい」

「構わないが暇だと思うぞ」

「康次郎といたら暇なんて皆無だから!
あー楽しみだなあ」

名前がそう言うと古橋は一瞬目を見開いて言葉を失った。
その後気まずい顔をして前の4人を見る。
彼女はずいぶん素直だ、と内心焦った。

「名前は恥ずかしいことを言い出すから嫌だな」

「嫌だ!?なんで!?」

「恥ずかしいからだが」

そう言ってふいっと名前とは反対を見るので名前は古橋の後頭部を凝視する。

「えっ、恥ずかしがってる康次郎見たい、見せて」

名前が古橋の袖を掴むと古橋が名前の方を向いた。
恥ずかしがる顔をしてくれるのだろうか。

「今してるだろう」

「…」

無表情ですけど

名前が無言で古橋を見ていると古橋が不満そうな顔をした。
口がへの字に曲がっている。

「なにか言いたそうだな」

「いやっ、康次郎クンかっこいいな〜と思って!!」

名前が目をそらして誤魔化すと古橋はため息を吐いてずんずんと大股で歩き始めてしまう。
手は繋いだままなので必然的に名前は小走りになり背中を追いかける。

「もういい」

「ごめんて!康次郎クン〜!」

小走りも疲れるので名前が繋いでいる手を引っ張って止めようとすると倍の力で引っ張られる。

「クン付けも嫌だ」

「すみませんでした康次郎」

「嫌だ」

「えっ」

いつもならここで許してくれるはずの古橋が許してくれないので名前は驚いた。
古橋は先ほどからまったくこちらを振り向かない。

「名前」

「はいっ」

古橋が前を向いたまま呼ぶので答えると古橋は少し振り返ってこちらを見た。
表情は怒っていないように見える。

「元気な返事だな
…まあいい、なんでもないさ」

「なにもないの…」

「ないが?」

いつの間にか追い越されていたレギュラー4人の前にはがっかりする名前と不思議がる古橋が見えていた。

(150412)
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