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▼ 行方なんて誰も知らない

注意*暗い

優しいあなたならきっとお願いを聞いてくれる。
いやだ、うぜえ、面倒だ、とか言いながら、私にとって難しいことをいとも簡単に終わらせてしまう。
あなたは私の神さまなの。

「真」

「なんだ」

「お願いがあります」

真がベッドでゆったりくつろいで、なにか考えごとをしている。
たまに近くの本棚から本を取って読んだりもする。
床に座る私はすることがないので真を見つめる。
腕を組んで窓の外をぼーっと見る真が好き。

私が真剣な顔をして話しかけると、真は必ず眉間にしわを寄せてこちらを見る。

「だからなんだよ?」

「私を殺して」

真が不愉快そうに顔を歪める。
しばらく見つめ合っていると、真が口を開いた。

「はあ?お前は俺を犯罪者にしたいのか」

「だって生きるのが辛い」

そう言うと真は舌打ちをする。
意味のわからないことを言うと、いつも舌打ちされる。

「だったら自分で死ね
最後まで人に頼るな」

「真、おねがい」

「いやだ」

きっぱりと言う真がとてもかっこよく見えた。
まぶしい。
世界が違うと思う。
他の人と真と私じゃ違う気がする。

「まこと、」

「うるせえな
離れるなら勝手にしろよバァカ」

ああ、真がちょっとデレた。
口は悪いけれど、私のこと大切にしてくれてると思う。
こんなふうに思うのって自惚れなのかな。

「だって、もう疲れたよ…」

「こっちはとっくに疲れてる」

真がため息を吐く。
あ、今私の顔を見てため息吐いたな。

「だからこんな生き方してんだろ?
つまんねえんだよ、なにもかも」

なんでも出来るって辛いなあ、と冗談めいた声で言うのに、真にとっては本当のことなのだ。

ねえ、だったらいいじゃない。
一緒に逝ってしまおうよ。

真に抱きつく。
真が抱きしめてくれる。
それだけでもう幸せだから。
だからおねがい。

「一緒に生きるのと一緒に死ぬの、どっちが幸せなんだろうな」

そう言って真は私を強く抱きしめる。
温かい。
真の匂いとかこの腕とか、すごく安心する。
荒ぶる私の精神を優しく撫でてくれるような。

「お前をそんなふうにするやつらの名前を教えてやろうか」

「?…うん」

「俺だよ」

「真?なんで?」

なんで真のせいなんだろう。
私の神さまなのに。

「お前、劣等感に押し潰されそうになってるぜ?」

本来ならお前は誰にも頼らずになんでもやろうとする。
…それが成功するとか失敗するとかは別として。
だがそんなことをせずにハナから俺に頼ってるじゃねえか。
弱くなったんだろ、お前。
それに葛藤したり劣等感を抱いてるんだろ。

花宮の言う通りだった。
私はあなたに依存している。
真がいないと生きていけない。
真と一緒にいてももう満足出来ない。
一緒にいることが当たり前になってしまったから、もっとその先を求めてしまう。
早く大人になりたい。
大人になって真と一緒に暮らしたい。
そう思うのに、あと何年かが待てない。
今の時間なんてのはもういらないから。
早く大人になりたいの。
今すぐに。
そうでなければ死んでしまいたいの。
今が辛いから。
なにが辛いか説明出来ないけれど、とにかく早く。

「お前…思春期真っ只中って感じだな」

「…は?」

「周りに敏感になりすぎてんだよ
適当に流しとけ」

「真みたいに上手く出来ない」

その後も真がああだこうだ言って、私もああだこうだと言い返すと真はイラついてきた。
どんどん口元が歪んで怖い顔をする。
真のような頭も世渡り力もないのだから、簡単に納得出来るわけがないでしょう。

すると真は「ああもううざ」と言って自分の頭を一瞬だけ撫でた。

「だから…俺がお前を引っ張ってやるって言ってんだよ、わかれよバァカ」

真が優しい。
デレた。
嬉しさで言葉も出ないよ。

いつも教えてくれるのだ。
しぶしぶだけど丁寧に。
真は私の神さまだから。
導いてくれるの。
私が立ち止まってもちゃんと待っていてくれる。
…まあしぶしぶって顔をするのだけれど。

「…わかりました」

私の答えに満足したのか、真は鼻で笑って私の前髪にキスをした。
神さまがくれるおまじない、だって。

「そうやって黙って従っとけ」

そうすれば気づいたらその時期が来るから、と。

(150407)
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