小説 | ナノ

▼ 執着的依々

注意*古橋くんが重い、病んでます

はあはあと肩で息をした。

だめだ
抑えきれない

名前を見ると殺してしまいそうだ
好きで好きでどうしようもなくて
この手で殴って、俺の痕を残して
俺しか見えなくしたい

「名前、」

静かに呟けば、優しい気持ちがほろりとこぼれる。
しかし、同時に黒くて生温かいものがどろりと心に落ちた。

毎日名前のことだけを考えていた。
なにも知らない純粋無垢な名前はにこにこ笑っていた。
名前は俺の癒しで、命で、愛で、恋で。

今日は俺の家で2人して適当な1日を過ごしていた。
なにをするでもなく、たまにゲームをしたり、くだらない話をしたり、宿題をしたりした。
ふと名前の指がきれいだと見つめていると、いつもと違うものがあった。
指輪がしてある。
ピンクの石が真ん中に埋め込んであるティアラの形をした指輪だ。
華奢なイメージを持たせるそれは、名前の指を輝かせた。

「名前」

「んー?康次郎なに?」

名前が俺を視界に入れるのがとてつもなく嬉しい。
だから俺だけを見てくれ。
その目は俺だけを映せばいい。

「その指輪は?」

「ああこれ?友達にお土産でもらったの
可愛いよね」

ほら見て、と見せる名前の方が可愛い。
だけど、俺以外からもらったものを身につけるな。
俺以外に縛られるな。
堪えきれなくなる。
早く、早く、それを外せ。
すぐに外せ。
さもないと俺は、

ブツリと俺の思考回路が切れた。
おかしくなった。
それはわかった。
それ以外はわからなかった。
名前、名前もっと近づいて一緒になってしまわないか?

ベッドに座る名前の前に膝をつき、名前を見上げた。
指輪がある指を含んで指輪に歯を立てる。
舌をなまめかしく、生き物のように動かすと名前が声をあげる。
名前をまっすぐ見上げると口元からよだれが垂れた。
指輪を食い千切ってしまおうとするが、当然硬さは指輪が勝ち、仕方なく指から抜くと近くのコップにプッと吐き捨てる。

カランッと音を奏でると指輪はくるくるとコップの底で踊って倒れた。

「こうじろ、」

名前は指輪のない手で自分の服を掴んでいた。
なにを我慢することがあるんだ。
さらけ出していい。
名前ならなんでも受け止めるから。

「俺のものだ」

「え…?」

「名前は俺のものだ」

名前が驚いた顔をして俺を見た。
そんなに独占欲がないように見えるのか。
それとも今まで上手く隠せていたのか。

「なに言ってるの…?
だってこれ、女の子からもらったんだよ…?」

俺が指輪を渡した相手に嫉妬したと思っているのか。
それなら正解だ。

「…そんなに怖がらなくてもいいだろう」

「だって…目が、」

名前はガタガタと震えだした。
寒くないだろう。
俺の部屋は南向きだぞ?
日当たり良好な物件だが。

「それなら名前はいつもバカにしているだろう
俺はいつもと変わらないが」

「う、そ」

かすれた声で言う名前がなんだか可笑しかった。
怖がることなんてない。
俺と名前で一緒になってしまおう。
そうだろう?

「嫉妬しているが、誤解ではない
俺は女に対しても嫉妬する」

「でもただの友達だよ?
だって、例えば同性は結婚出来ないし…」

反論するな
言うことを聞いてくれ
いや命令なんてしたくない
わかってる
人を動かすことがどれだけ大変で難しいのか
わかってるのに、ああ…聞いてくれ

「名前が俺のすべてなんだ
だから誰に対しても嫉妬する
それに俺以外必要ないだろう」

「でも、」

ああああ

「『でも』とか『だって』とかうるさい」

もうだめかもしれない

「俺以外見なくていい」

ああ

「ずっと俺のそばにいればいい」

だめだ

「俺以外の人間と関わらなくていい」

やめてくれ

「俺の言うことを聞いてくれ」

狂ってしまう
名前が好きだ
好きなのに
こんなに束縛して、行動も精神も拘束して、まだ満足しないなんて
俺は次になにをすればいいんだ
教えてくれ
教えてくれよ名前

(150407)
依々 : 名残惜しく離れがたいさま。恋い慕うさま。
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