小説 | ナノ

▼ 塩

花宮の彼女はそっけなかった。
サバサバしているというか、まるで花宮に興味がないような言動をする。
花宮は彼女のことを、思い通りにいかなくてムカつくが、とても面白いと思っていた。
原因はわかっているからだ。

「名前」

「なに」

花宮が話しかけても喜ばない。
むしろ嫌そうな顔をする。
他の女子生徒なら、花宮から話しかけてもらえただけで舞い上がるのに、名前はそんなことはなかった。
今も名前は花宮の顔なんて見ず、次の授業の教科書を読んで予習をしている。

「今日委員会だったよな?
遅くなるなら送ってやる」

花宮が一緒に帰ろうと話を持ちかけるが、名前は教科書に目を落としたままだ。

「いらない」

これで付き合っているんだから周りの人間も不思議である。
花宮は誘いを即答で断る名前を見つめた。

「なに?用が済んだら席着いたら?」

「はいはい
校門で待ってろ」

待ち合わせを言うと、花宮は名前の右斜め前にある自分の席に着いた。
ほどなくして、先生が来て授業が始まった。
名前は先生の話を真剣に聞いている。ように見えた。

一緒に帰るとか無理無理無理。
恥ずかしくて死んじゃうから。
私の心臓もたないし、なに話していいかもわかんない。

名前は付き合うのはこれが初めてである。
まともに恋愛なんてしたことがないので、知識は雑誌と少女マンガから得ている。
本当は大好きな花宮といちゃいちゃ…なんて考えているが、それも妄想で終わる。
自分から行動して、このそっけなさをなんとか克服しようと頑張るのだが、いつも空回りだ。
先ほども激しく空回りして、『花宮のことなんて全然好きじゃない。むしろ話しかけないでほしい』オーラ全開になってしまった。
どうすればいいのだ、と名前は頭を抱えた。
するとタイミングが良いのか悪いのか、先生が名前の名字を呼んだ。

「頭なんか抱えて、頭が痛いのか?
保健室に行っても良いぞ」

毎日いい子ちゃんの花宮をお手本に、真剣に授業を受けているからだろうか、先生が優しい。
名前が断ろうとすると、近くで声がした。

「先生、僕が連れて行きます」

ガタッとイスの音がしてそちらを見れば花宮だ。
花宮は名前の隣に立ち、名前が立ち上がるのを待った。
花宮の行動に驚いて名前は花宮の顔を凝視した。
面倒なことをなぜ自分からしたんだ、と名前は疑問に思った。

「なんで…」

名前が花宮に小声で聞くと、花宮も小声で答えた。

「早くしろ」

少し顔を歪めて言う花宮に、名前は仕方なく従った。

廊下に出ると、人口密度の関係か春だというのに少し寒い。
名前は前を歩く花宮の背中を見つめた。
もし自分が本当に病人だったら病人に手を貸さないのもどうかと思うが、花宮の行動が信じられなかった。
何度も何度もそっけない態度をとって、面倒だと思っているはずなのに。
授業中に保健室までついて行くなんて面倒だと言うはずなのに。

「お前さあ」

「な、なに」

無言で歩いていると、花宮が前を向いたまま話しかけてきた。
あんなにそっけなくしてきたのによく話しかけられるな、と名前は感心した。
心が鋼かなにかで出来ているのではないかと思った。

「お前緊張しすぎ」

「、してない」

名前がそう言うと花宮はため息を吐き、振り返って名前を見た。
そして名前の片手を掴むと、なんの手加減もなしに握り締められた。

「いっ!?いったあ!!痛いわバカ!潰れるから!」

「それが本当のお前だろ?」

「…あ」

ここが廊下で、花宮の前で、花宮と手を繋いでいるだなんてことすっかり忘れて叫んでいた。
名前が花宮を見つめると、花宮がふわっと笑った。
悪童のくせに笑顔は可愛い天使みたいだ。

「ま、まこと」

「なんだ?」

花宮がいつもより優しい表情をしている気がした。
優しい目、優しい口元、名前を見守ってくれているような表情だった。

「その、私…」

「どうせ緊張してそっけない言動だったんだろ
わかってる」

誰の彼女だと思ってんだよ?

花宮がにやりと笑って、掴んでいる手を自分の方へ引っ張った。
引かれるがままに花宮に近づくと、花宮は歩き出した。

「どこ行くの?」

「あと20分くらいで授業が終わるからどっかで暇つぶす
ついて来い」

名前が花宮の隣を歩く。
花宮は前を見ながら言った。

「少しずつでいい
少しずつ俺に慣れろ」

「…うん…」

名前はその言葉に心が救われた。
なんだか全身が軽くなった気がした。

「ま、まこと」

「いちいちどもるのかよ」

花宮がフッと笑って続けた。

「で、なんだ?」

「あのね、

付き合ってくれて、ありがとう」

また花宮が天使のように笑った。

(150407)
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