小説 | ナノ

▼ 愛は嘘を吐くのです

注意*社会人、同棲中

瀬戸くんが仕事から帰ってきて、ご飯を食べてお風呂に入って、一緒に温かい飲み物を飲んだ。
この後、瀬戸くんは仕事をする。
いつも一緒に過ごす時間を作ってくれて、自分が仕事をするときは「寝ていいよ」って言ってくれる。
優しい瀬戸くん。

今日も「寝ていいよ」って言ってくれた。
でも今日は伝えたいことがある。

「もう1杯飲んでから寝る」

「そっか
なら温かくしてね」

そう言って私の頭を撫でると、瀬戸くんは仕事を始めた。
ソファに座って瀬戸くんをジィッと見つめる。
デキる男ってオーラを感じる。
会社で後輩にとても慕われているんだって。
素直にすごい人だと思う。

「瀬戸くん」

「んー?」

恥ずかしいからいつも『瀬戸くん』。
どういう気持ちで『健太郎』って言ったらいいのかわからなくて、いつも『瀬戸くん』で済ます。

あのね、あのね…頭のいいあなたに少し勝ちたいの
だから言ってもいい?

「実は、にんしん、しました…」

パソコンに向かってカタカタ打つ瀬戸くんの横顔に言った。

「え、ほんと…?」

するとキーボードのカタカタという音が消え、瀬戸くんが驚いた顔でこちらを見る。

「その、ですね、本当です」

「そっか」

ふんわり笑って瀬戸くんは私の隣に座る。
頭を撫でる瀬戸くんの手は優しい。
いつもいつも優しいのだ。
すぐに心配してくれて、ここはこうだよ、とかこっちはダメだよ、とか。
なにもしなくても私はすべてを知ることが出来る。
大好きだよ。
でもね、勝ちたいよ。
なにか一つ、私も瀬戸くんの隣に立ちたい。

だから、嘘ついてもいい?

「何週目?」

「えっとね、8週だって」

「早いね」

もう8週なんだ、と瀬戸くんが呟いた。
え、待って。
簡単に信じちゃうの?
疲れてるから判断力が鈍ってるの?

「じゃあいろいろ用意しないとね
なにから買おうか」

「なんだろ…オムツ?」

そう私が言うと瀬戸くんは笑った。
内心パニックなのだ。
こんなに私の嘘に騙されるなんて思ってなかった。
オムツは最後でいいかなって瀬戸くんが言ったとか、わからなくなった。
まずは体を冷やさないような環境とかじゃないかな、なんて頭のどこかで思うけどそれどころじゃない。
瀬戸くんってこんなに騙されやすいんだ…?

「名前の新しい服が必要だね」

にこにこして瀬戸くんが言う。
机からパソコンを取って、今までやっていた作業を止め、妊娠初期にはなにをしたらいいのか調べ出した。

まずいぞ。
これは非常にまずい。
これは早々に言わないとダメだ。
ごめんなさい瀬戸くん。
一回騙されてください。

「なーんて、うそ」

「もう4月2日だよ」

「…」

バッと時計を見るともうすぐ午前1時になる。
こんな時間まで私なにやってるの。
というよりなんで?
いつ嘘に気づいたの?
私が妊娠をしてることを嘘って言うことに。

「嘘なの?本当なの?」

「えっと…」

「ん?」

言ってごらん?って優しく言う瀬戸くんは、パソコンをパタンと閉じて近くの低いテーブルに置いた。
そんなに優しくされると辛い。
自然に泳ぐ目をどうにか瀬戸くんに向け、私は言った。

「ほ、ほんと」

「…じゃあ結婚しようか」

「えっ」

「えっ、てなに」

くすくす笑う瀬戸になんだか安心した。

「名前さ、最初に意気込んで言ってくるからなにかするんだろうとは思ってたけど…俺が騙されるように時間を調整したよね?」

妊娠したことが1日で嘘が2日なら『妊娠したのは嘘、というのは嘘』となる。

「だから俺が仕事するときも起きてたんだよね?」

「…うん」

瀬戸くんには最初からすべてお見通しだったようだ。
わかってたからあんな反応したんだ。

「瀬戸くんには敵わないね」

「そう?俺は名前に敵わないよ」

「?なんで?」

私はなにかしてあげることが出来ているの?
自覚はないし、ただ家事をしてご飯作って瀬戸くんの帰りを待っているだけなのに。
考えていたことがわかったのか、瀬戸くんは私を抱きしめた。

「名前が隣にいるとさ、安心する」

「そう、かな…?」

「だからさ、」

そこで区切って瀬戸くんは私の目をまっすぐ見ていつもより低い声で囁くのです。

「結婚しよう」

って。

(150401)
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