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▼ あるいは仲が良い

「あのさー、アボカド?アボガド?どっちだっけ?」

本を読んでいると名前がどうでもいい話をしてきた。

「…アボカドだ」

「おい、それマジ?ずっとアボガドって言ってたわー」

「それはスペイン語で弁護士だ」

赤司が教えてやると、名前は心底驚いたような顔をした。
続けて苦虫を噛み潰したような顔をする。

「え、じゃあ私いつも弁護士食べたいって言ってたの?
やばーい人食いやん」

「わかったら少し黙ってくれないか
うるさい」

「…チッ」

「…」

せっかく教えたのにこの態度はなんだ、と赤司は少し腹が立った。

名前があっ、と声をあげ赤司の方を向く。
ああ、またか。
赤司は呆れた。

「ねえ、征十郎」

「却下だ」

赤司がばっさり切り捨てると名前は不服そうな顔で見つめた。

「まだなにも言ってないのに」

「またどうでもいいことを聞くんだろう?
少しは自分で調べろ」

「んだよつれねーな」

「それから言葉遣いを直せ」

赤司が言うと名前は赤司を睨んだ。
それに応えるように赤司も睨み返した。
2人の間に沈黙が続く。

その沈黙も長くはなく、破ったのは名前だった。

「ねえ、この芭蕉のさ『古池や 蛙飛び込む 水の音』って句聞くと『池の中の蛙』思い出すよね」

「偉人に対してもっと敬意を払え
あと『井の中の蛙』だ」

「…あ、古池やとか言うからごっちゃになった」

「嘘を吐くな」

あー、と大げさに残念がる名前に鋭くつっこむと「間違えてた」と素直に言った。

赤司が耐えきれずにはあ、とため息を吐く。

「よくそんなに無知で生きてこれたな」

「ぐっ…」

腕組みをして足を組んでイスに座る赤司が怖くて名前が縮こまる。

ぐうの音も出ない。
ぐっの音は出たけどね。

「呆れるのを通り越して感心した」

「あ、そう?ありがとう!」

その瞬間パァッと明るい顔をして笑う名前に赤司は真顔で答えた。

「褒めてない」

「なにっ」

感心した、なんて言うから褒められたと思ってお礼を言ったのにバッサリ切り捨てられた。

赤司はなぜだか無性に腹が立った。
腹の虫がおさまるまで読書に没頭しよう、と本に目を移す。

「もう知らないからな」

「え」

名前がおーい、と呼びかけたり邪魔しても赤司は無視を貫いた。

「かまえよ」

「…ずいぶん上からだな
それで構うわけないだろ」

大きな態度が癪に触ったのか、赤司がその言葉には返事をした。

「えええ…」

遊ぼう、と名前が言った。

「じゃあなにをして遊びたいのか言ってみろ」

「人生ゲーム」

それを聞くと赤司は首をかしげた。

「?なんだそれは」

「私も名前と内容は知ってるんだけどさ、やったことはなくて」

名前が人生ゲームの大まかな内容を教えると興味を持ったのか赤司が本から名前に視線を移して聞いていた。

「ならばそれをやろう」

「うん、でもそういうセットみたいなのがないと出来ないよ」

「…おもちゃ屋に行こうか」

「うん!」

赤司が誘うと名前も子供のように頷いてついてきた。

おもちゃ屋に行き店員に「人生ゲームとやらをください」と頼み買って帰り準備するのがとても楽しみだ。
2人は手を繋いで家を出た。

「征十郎早く!!」

「わかったから待て」

言い合って追いかけっこをしながら買い物に行くのも楽しいものだ、と赤司は笑った。

このあと人生ゲームでまた押し問答を始めたり部品を誤って踏んづけたりして喧嘩するのだ。

(150321)
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