小説 | ナノ

▼ 幸せな時間

あなたが髪をのばしたから、私もやってみた。

それまでの微妙な長さよりこっちの方が似合ってる気がする。
髪をのばしてそれに合う服を着て、街に出ればとても楽しい。

ふふ、こういうのもいいなあ。
名前は楽しげに街を歩いた。

歩いていると見知らぬ30代の年上が私の目の前で止まった。
男は慣れてます風に私の右手を取って唇を近づけようとしたけどひらりとかわす。

それに負けじと私に「お茶でもどう?」と言ってきたので「お茶だけですむの?」と返すと苦笑いした。

スクアーロと一緒にいたらなんて言ってくれるんだろう。
歩きながらスクアーロの顔を思い出す。

スクアーロは任務中だ。
「ひま」
そう言えばいつもなら「うるせえぞお」と言いつつも構ってくれる。
なんだか寂しかった。

昼前に出かけたにもかかわらず空腹ではなかった。
イタリアの街並みをぼんやり眺める。
ふらふらとウィンドウショッピングをしながら外の空気を吸った。

早く任務が終われば昼過ぎには帰ってくる、と言っていた。
でも、今日は自分のわがままで夜まで帰らないでなにか面白いものでも探そう。あ、カメラ忘れた。

そんな風に考えていると、後ろから話しかけられた。

「なに、」

カメラを忘れたことに不機嫌になった名前はそのテンションのまま相手に言った。
その人は 黒 だった。
全身黒の服を身にまとっている。
その黒に流れるような銀髪。

「うおおおい、彼氏さんにそれはねえんじゃねえかあ、彼女さんよお」

「スクアーロ!」

任務から帰ってきたようだ。疲れた様子は一切ない。

「思ったより相手は雑魚だったんでなあ、早く終わった
お前に会いたかったしなあ」

「おかえり、スクアーロ」

どうやら急いで来てくれたらしい。優しいなあ。

ふと真剣な顔をしてスクアーロが言った。

「買い物だったら付き合うぜえ?」

「んーじゃあお茶しよう」

買い物よりお茶を飲んでゆっくりスクアーロと話したい。
その方がスクアーロも休めると思ったからだ。

わかった、と言いさりげなく手を握って歩き出した。
こんなに優しくて暗殺者なんてなんだかズルいと感じた。
強さも優しさも兼ね備えていて、ボスからも信頼されてるし。

繋いでいる手をぎゅっと力を込めると、それに気づいたスクアーロがこちらを見た。

「どうしたあ?」

そう言い歩くスピードを少し緩めてくれる。

「なにこの人かっこいい大好き」

「…」

思わず口に出してしまった。
でも本当に好きなんです。

おそるおそるスクアーロを見ると、なんだかすごく勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

その表情までもかっこよかった。
でも見てないことにしてカフェに向かってずんずん大股で歩こうとする。
が、手を繋いだままなので2、3歩歩くとスクアーロに思いっきり引っ張られた。

ぎゅうううっと絞られてしまうのではないかというくらい強く後ろから抱きしめられた。
耳元の息遣いがくすぐったい。
身をよじるとさらにきつく抱きしめられた。

「名前…俺も大好きだぜえ」

低くて切ない声が耳を震わせた。
スクアーロが名前の顔を覗き込む。うわああキスされる。
慌ててぎゅっと目を閉じる。

すると頭上からくすくすと声が聞こえた。
目を開けると口元に手をあてて笑っているスクアーロがいた。

「は、早く行くよっ」

恥ずかしくてスクアーロの腕を無理矢理離し歩き始めた。
ここを街だと忘れていないか。
名前は赤い頬に手をあてて歩いた。

着いたのは2人の行きつけのお洒落な
カフェだった。
店内はダークブラウンの家具、壁。
黄みがかったライトや間接照明がディープな雰囲気を演出している。
ここは少し入り組んだ路地にあるので、静かで落ち着いているから好きなのだ。

窓に近い席に着くとマスターが注文を聞きに来た。
初老のマスターは静かにメニューを置くと腰から紙を取り出しメニューを書く準備をした。
エスプレッソと紅茶で頼む、とスクアーロが言う。
マスターがメモをし下がるとスクアーロがこちらを見ながら少し身を乗り出した。

「寂しかったかあ?」

名前がテーブルに肘をついていたので距離が近い。
30cmもない距離に驚き背もたれに背を預けた。

それを見てにやにやしているスクアーロに「寂しかったよバーカ」と言えばフッと笑われた。

エスプレッソと紅茶が運ばれてきた。
温かな良い香りが鼻をくすぐる。
お互いの好きな香りに包まれて、なぜか2人で顔を見合わせ笑った。

(150308)
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