小説 | ナノ

▼ 初めまして

私チャレンジマンなんです。じゃなかった、チャレンジウーマンなんです。

私の家の近くにある洛山っていうすごい進学校があって、頭の良いところに私みたいなフツーの奴が入ったらどうなるんだろう。
そんな気持ちにかられたのは中学3年生の夏、真っ只中。それを親に言ったら、
「名前が、進学校中の進学校を…!?」
とかなんとか。
でも、応援してくれてます。
友だちのみーちゃんに言ったら、
「名前が行ったら浮くよ?いろんな意味で」
って不思議そうに見られて。
なんで?って聞いたら、洛山は七三にメガネの男と、おさげにメガネの女しかいない、だって。マジか。友だち出来るかな…。
でもそんな人たちに囲まれたいって思った私は変でしょうか。
「変だって言ってんじゃん。だいたい、洛山ってチョー頭良いんだよ?まず入れないから」
「みーちゃんひどいー。一緒に勉強しましょーよー」
「だから学校来てやってるじゃん」
「一緒に洛山行こ」
「ヤダ」
「え」
窓際の席でみーちゃんの後ろに座ってお勉強中。
あつい、あついです。
「窓際あついよ、みーちゃん」
「じゃあ廊下行け」
…みーちゃんこわい。
みーちゃんはツンデレなんだよ、ツンデレ。
あれ、ツンデレってみんなの前ではツン、2人のときはデレ…。はっ!
「デレるなら今だよ、みーちゃん!」
バッと両手を広げてみーちゃんの背中に熱視線。
するとみーちゃんは私の方に振り向き、笑顔で…あ、真顔。
「名前」
え、なになに、みーちゃんこわい、これマジのやつ。
「はい、みーちゃん」
両手を広げたまま引きつった顔の私。
「洛山行きたいのはさ、私もなんだよね。
だからジャマしないで勉強して」
「え…」
みーちゃん、も?
「う、ん、ごめん、みーちゃん」
「うん、一緒に洛山行こ」
うん、なんて言えなかった。
みーちゃんも洛山なんて。
みーちゃんが自分の机に向き直って勉強を再開した。
私も真面目に勉強を始めた。
なんで言ってくれなかったの?友だちじゃん。一緒に洛山目指せるなんて私、すごく嬉しいのに。

10月、私は学校説明会に行くことに。
「みんなメガネかなあ…」
キョロキョロしながら校門をくぐってふらふら大きな校舎へ歩く。
…全然人いないんだけど…。
校舎までの道に人はまったくいない。
ただ、紅葉がきれい。
え、学校説明会…。
すると校舎から誰かが出てきた。
きれいな赤髪の男のひと。
メガネかけてないし先生にしては若い。
赤髪のひとが私に気づいてまっすぐ私に向かって歩いてくる。
「学校説明会は明日だよ。」
ふんわり笑って校門へ歩く赤髪のひと。
「かっ、こいい」
ただ一言なのに、あのひとがとってもかっこよくて。
後ろを振り返ると駅方面へ歩いている。
…受験生かな。そうだったらいいな。
あのひとのおかげでもっと洛山に行きたくなった。
「早く帰って勉強して、あのひとに会うぞ!」
自分でも気づかずあのひとを目標にしていた。

「…みーちゃん、どうかなあ」
「、さあ?でも結果はもう出てるよ」
「うん…」
掲示板の前でマスク、マフラー、手袋などなど完全防備でみーちゃんと2人立っている。
今日はみーちゃんから、手、つなご、と言われ手をつなぎながら洛山へ。
みーちゃんがデレてるのに、嬉しくない。
嬉しさよりも合格発表が怖いという気持ちが勝っている。
「見るよ、」
「うん」
2人ゆっくりと掲示板を見た。
私の番号は…。
「あった」
「名前あったの?…良かったね」
「みーちゃんは?」
まだ探してる?
と言いながらみーちゃんの手元の紙を覗く。
そして掲示板をまた見る。
あれ…?
ない。
もう一度紙を見る。
掲示板を見る。
やっぱりない。
まさか、みーちゃん落ちた?
みーちゃんを見る。
ずっと掲示板を見ている。
寒いから口から白い息が出るはずなのに、出ない。
紙を持つみーちゃんの手が震えた。
みーちゃん…。
一緒に行きたかった。
一緒に洛山に行きたかった。
夏に2人であついって言いながら勉強して、すぐ冬が来て、寒いね、って言いながら夜まで勉強して帰って。
やだよ。
2人で洛山行こうよ。
ほろり、涙がこぼれた。
みーちゃんとの思い出が溢れる。
「名前」
「泣かないで」
みーちゃん。
「私の分まで洛山楽しんで」
「あ、七三メガネとおさげメガネだけってのはウソ」
ウソつき。
「チョー頭良くて、チョーバスケが強いんだって」
「バスケ部の写真撮ってきて」
「それ目当てだったでしょみーちゃん」
「バレた?」
泣いてるみーちゃんが笑った。
泣いてる私も笑った。
掲示板の前で2人抱き合った。
冬の寒さと合格発表の怖さから、日差しの暖かさが私たちを包んだ。

いろいろなことがいつの間にか過ぎ、入学式当日になった。
たくさんの桜が私を出迎えている。
隣には誰もいない。
洛山高校。
そこに私は知り合い0人ですべてを始めなくてはならない。
頑張らなきゃ。
式の前に教室に行くことにした。
壁にクラスが発表されている。
どこだろう。
……。
ない。
あれ、私受かったよね?
ない、名前ないよ。
クラス発表の紙の前をうろうろ。
「どーしよ、みーちゃ…」
隣を見ると、みーちゃんはいない。
そうだった。
自分でなんとかしなきゃ。
しっかりしないと。
前に向き直ると紙、ではなく制服…?
上を見上げるとあのときに会ったあのひと。
「…また会った」
そう呟いた私を見下ろしたあのひと。
「また会ったね」
泣きそうな私に優しく微笑んだ。
やっぱりかっこいい。
泣きそうな顔に気づいたのか少し顔を曇らせた。
「どうかした?」
「…名前がないんです」
「名前?…ああ、クラス発表の話か。名前は?」
「…?」
「君の、名前」
「…名字、名前」
「名字名前、…」
壁に貼ってある紙を目線を上から下へ、なめらかに動かしていくあのひと。
その姿をじっと見つめた。
…まつげ長い。
目がきれい。真っ赤だ。美しい赤だと思った。
そして怖いとも思った。
どうしてこんなに怖くてきれいなの?
「…あったよ、ここ。」
と言って紙に近づき、とん、と白い指で指す先には私の名前。
「本当だ、ありがとうございます。」
とおじぎをするとあのひとはまた優しく微笑んだ。
「今日から毎日会うみたいだ」
「え?」
「同じクラス」
と言って、今度は上の方を指した。
赤司征十郎。
「あかし、せいじゅうろう?」
「ああ、僕の名前だよ」
「あ、よろしく赤司くん!」
「よろしく、名前」
クスッと笑ってどこかへ歩き出した。
クラスに行くのかな。
後ろ姿を見ていると赤司くんが振り向いた。
「早くしたほうがいい。
式に間に合わなくなる。」
はっとして周りを見ると人はあまりいなかった。
「ちょ、赤司くん!
クラスまで案内してもらっても…」
と言いながら走ると、新しい上履きのせいか足がもつれた。
「おっと、危ない」
と赤司くんが床にダイブする前に私を助けてくれた。
「ご、ごめん」
そう言って見上げ見た赤司くんはなんだか王子様みたいに見えて。

恋が、始まるみたいです。

(150319)
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