小説 | ナノ

▼ 好きだよ

夕刻の屋上
オレンジや青、紫が混ざる空を2人は静かに見上げていた。

「好きな人が出来たの」

だから別れて

声が小さくなったが聞こえただろうか。
名前は少し心配になる。
だが赤司をまっすぐ見ることは出来なかった。

好きな人が出来たというのは嘘だ。
私で縛っちゃいけない。
名前はいつも心の中でそう思うのだ。

「もうね、ファンの人にいじめられるのもいやだし」

これは嘘である。
赤司のものに手を出してどうなるかくらいバカでもわかる。
ファンもさすがに自分の命は惜しいらしく、名前をいじめるということはなかった。
視線は鋭かったが。

赤司が名前を正面からうけとめるように抱きしめ囁いた。

「名前、嘘はいけないよ
お前は俺のことが好きだね?」

「…っ、だから、わたし」

「好きだよ」

言葉と同時に赤司の腕に力が入る。
力強い声に涙が溢れる。

「せいじゅうろう…」

赤司が名前の背中をさする。
よしよし、と小さくあやす声が聞こえた。

「すき…っ」

「ああ、わかっているよ」

大丈夫だ、ぽんぽんと名前をあやした。

「なにを心配しても構わないが、僕から離れるのはだめだよ」

赤司が優しく言うと、名前は黙った。

怖いのだ。
赤司が優しく言っても、周りに与える圧は変わらない。

それが伝わったのだろうか。

「どうしてだい?」

「え?」

赤司が弱い声で言った。
自然と威圧する美しく暖色の目はまぶたに隠れていた。

「どうして怖がるんだ?
どうして甘えてくれない?」

苦しそうな声で赤司が訴えた。
眉間にしわを寄せ、今にも泣き出してしまいそうな顔で名前を見る。

「こわいよ…」

「え?」

「好きだけど、どうしても怖いの…」

溢れた涙がさらに溢れる。

「…そう、だったのか」

赤司の抱きしめる腕がこわばった。
名前を視界に入れると、笑った。

「怖いのに、僕とずっと一緒にいてくれたのかい?」

「…うん」

名前が小さな声で答えた。

「好き、だから」

「今はそれが聞ければいいよ」

だから少しずつ慣れてくれ。

赤司はまっすぐ名前見つめて笑った。

そう話していくうちに日が暮れた。風が寒い。

「名前」

「…なに?」

泣いて疲れた目を向けると、赤司が手を差し出していた。
赤司の後ろの月が、赤司を照らす。
赤い髪と深くて濃い青のコントラストが美しい。
思わず赤司の手をとった。

「帰ろうか、」

「そうだね」

赤司が名前の手を優しく引く。

「隣にいてくれ」

そう言われ素直に従い隣を手を繋いで歩く。
赤司が笑った。

赤司と歩いて帰るのは初めてではないか、と名前は思った。

もう怖がらなくていいんだよね?
たくさん話していいんだよね?
普通のカップルみたいになっていいんだよね?

「ね、もっと笑えば?」

「ははは、名前はいつも急だね」

赤司が空を見ながら笑った。
笑った方が好きだよ

「こういうくだらない話してもいい?」

「どうぞ」

「急に抱きついたりデートに誘ってもいい?」

「ふふ、どうぞ」

口元を押さえて笑う赤司を見ると目が合った。

「他には?」

そう言うから、たくさん話した。
怖いと思っていたのが嘘みたいに会話が弾んだ。

「ねえ、寄り道しようか」

赤司の隣にいたくなった。

(150316)
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