小説 | ナノ

▼ 欺いてしまえ

休日の学校で、名前と山崎はたまたま会った。
名前は勉強をしに、山崎は忘れ物を取りに来た。
教室でばったり会った2人の間には、実に気まずい雰囲気が流れた。
一昨日喧嘩をしたのだ。

山崎くんが悪い。

名前は一昨日のことを思い出し少し腹を立てた。

「ねえ、山崎くん。今日一緒に帰ってもいい?」

すべての授業が終わり、HRがもうすぐ始まる頃だった。
名前が山崎の席に近づいて言った。

「あー…原と帰るわ」

「…そう、わかった」

この会話、何回繰り返しただろう。
他にも、

「バスケ部の試合観に行ってもいい?」
「だめだ」

「デートしない?」
「その日は練習試合」
(午前終わりだったから誘ったのに)

「…次の休み空いてる?」
「好きなバンドのライブがある」

「一緒にお昼食べないっ!?」
「レギュラーで集まる」

とかいろいろ理由をつけられ断られている。

「…付き合ってるよね?」

「はあ?なんで急にそんなこときくんだよ
…付き合ってんだろ」

そう答えるのに一緒にいてはくれないのだ。

…原くんと付き合っちゃえバーカ

心の中で山崎をバカにする。
当然聞こえないのでなにもならないが、近くにいた原が言った。

「名前チャンさ、今日花宮と瀬戸と古橋と帰れば?」

「その3人と帰るとか怖いよ」

原にそう返すと笑われた。

「でもさあ、ザキよりあいつらの方が名前チャン楽しいよ?」

それに多分おごってくれるよ〜、とガムをクチャクチャ噛みながら名前に近づく。

「おい原なに言ってんだよ?」

「ザキは黙れよ」

急に緩んだ口元を引き締めて山崎を一瞥すると名前に向き直る。
山崎に聞こえないように小声で話し出した。

「ザキさ、なんか恥ずかしがってんだよね
名前チャンのこと嫌いとかじゃないからそこは安心して」

だからね…、と区切るとなにかごにょごにょ原が言い出すと、山崎が近づいて原の肩をグイッと掴んだ。

「離れろよ」

「…はいはい」

じゃあねん、と言い原は去って行った。

「原になに言われた?」

イライラしたように名前に問う山崎に、なぜか無性に腹が立った。

「…名前?」

答えない名前を不思議に思ったのか、山崎が顔を覗き込もうとするとバッと名前が顔をあげた。

「私この間花宮くんに告白されたんだよね」

「は?」

聞いてない、というような顔つきで山崎が名前を見つめる。

「だから花宮くんと付き合うね」

「山崎くんのこと、大好きだったよ…なんていうわけないじゃんばあああか!!!」

後半から怒りに任せて叫ぶように言い、ダッシュで家に帰った。

そして今日なのだ。

「本当に花宮と付き合ってるのか?」

名前が帰った後、花宮に聞いたが秘密、と言われたらしい。

「さあね」

山崎を欺くことに少し罪悪感が生まれる。
罪悪感とイライラでよくわからなくなった。

山崎くんのばか…

「悪かった」

山崎が名前に頭を下げた。

「…なんだって?」

イライラしたまま答えたせいで、いつもより数段低い声が出た。
自分でもこんな声が出るなんて驚いた。

「…ごめんな」

その声に山崎も驚いたのか、しぶしぶといったように山崎が謝る。
なんだか可愛く見えて来た。
子供みたい、と言いそうになったが必死に隠した。
その代わりに、ふふふ、と声が漏れる。
…大好きな山崎くんを、許してあげようか。

「じゃあキスしてください」

「…じゃあ目を閉じてください」

はい、と目を閉じ山崎を待つ。

なんでお互い敬語なんだよ、と愚痴りながら山崎は名前の肩に手を置いた。

山崎が名前に近づく気配がすると、名前の顔がこわばる。

「あの、さ、」

「なに…?」

なかなかキスをして来ない山崎がなにか言いたそうなのでうっすら目を開ける。
意外と近い距離に山崎の顔があり驚いた。

「その…肩に力入りすぎ」

肩Vの字だぞ、と肩に置いてあった手でぐらぐらと優しく名前の肩を揺らした。

「だって…」

「ん?」

「初めてでわかんない」

まっすぐ山崎を見つめると山崎の顔が真っ赤になった。

「お、おお、わかったから目を閉じろ!」

「うん?」

再度目を閉じると肩の手に力が入った。

音もなく唇が触れ合った。

名前は心がふんわりと柔らかくなった気がした。
自然と緊張が解け、体の横にぴったりとくっつけていた腕を山崎にのばす。
名前が山崎の胸元に手を添えると、肩にあった手が背中に回る。
そのまま山崎がぎゅうう、と抱きしめると名前が胸元の服を握りしめた。
苦しいのかと思い唇を離すと、名前がゆっくり目を開けた。

「山崎くん」

「なんだ?」

「花宮くんと付き合ってるのね、原くんの入れ知恵」

「…はあああ!?」

原のやつ…、と山崎が悪態をつく。
そんな山崎を見て名前が苦笑いする。

「だから一緒にお昼食べたり出かけてね」

「…」

「じゃないと本当に花宮くんと…」

「あああわかった!わかったから!」

これから楽しくなりそうだな、と名前は山崎を見て笑った。

(150315)
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