▼ doubt!
「なあお前って花宮のこと好きなの?」
昼休み
ご飯を食べ終わり名前は勉強していた。
原が椅子をギィギィと鳴らし座っている。
ノートに取り損ねた部分を書き写す手を止め原を見る。
「なんで?」
「気になるから」
あの花宮を好きになるなんてさ、と意味深に言う。
名前は花宮の本当の顔を知っている。
「好きじゃないしどっちかというと怖い」
「どっちかで答えてねえじゃん」
にやにやしながらポケットから飴を取り出し口に入れる。
あれ、ガムは?と聞くと、昨日食べている途中で寝てしまい喉に詰まって今日は怖くて食べられないらしい。
口の中で飴をころころ転がしながら原は名前を見つめる。
「なんかさ…花宮が名前のこと気になるって言ってて俺ら心配になっちゃって」
「…え」
それは困る、と顔を青くさせ原に訴える。
なにが起こるかわからないしどうしたらいい?
名前はとっさに頭を巡らせた。
「どうしよう、私明日あたり命日かな?」
「そうかも」
真面目に答える原に世界は終わったと心の中で絶望する。
「守ってやろうか?」
助けてほしい、それが本音。
だがここで原に助けてもらってもいいが後でガム買って来いだのおごれだのしつこくたかられるので頼りたくないのだ。
「原たちが関わると事態が悪化しそう」
「ひっで」
まあそうだけどー、と次の飴を取り出す。
「なあ、俺ら付き合わね?」
「急になんで」
「花宮から逃げられるし、俺お前のこと好きだし?」
名前が驚き原を凝視する。
この人たちをすぐに信じてはいけない。
自分で正誤をよく確かめて判断しないと痛い目を見る。
名前はうーん、と悩む。
これは正誤、どちらだ?
「うっそーん」
「は?」
「だーかーらー、うっそ、」
うそついた?
なんのためにそんな意味のない嘘を吐くんだ。
…いくら好きな人とは言え、ついていけない。
名前は今度は別の意味で悩みだした。
「許さんぞ原」
「まじごめんって」
めんごめーんご、と言いながら顔の前に両手を合わせた。
「…どこから嘘?」
「花宮が名前のこと気になるってところから」
良かったあああ、とため息を吐く。
ここは嘘であってほしいと願ったら嘘だった。
日頃の行いが良いからだ、花宮あたりにはこの気持ちはわからないだろう。
「で?どこまでが嘘?」
「秘密」
そう言い教室を出て行ってしまった。
…好きって言ったところは嘘?本当?
聞かないといけない。
良いことと悪いことが一緒に来てもうぐちゃぐちゃだ。
しかもそれが嘘か本当かもわからないなんて。
名前が慌ててその後を追おうと教室を出ようとするとドアのところで誰かにぶつかった。
「ごめんなさ、」
「おい、よく見て歩け」
花宮だと…?
噂をすればなんとやら、だ。
改めて謝ると名前の顔を見てなにか察したのかふん、と鼻を鳴らし名前を見下した。
「…前に原が言ってたぞ」
まさか花宮に話しかけられると思っていなかったので、名前は警戒心を露わにして花宮に聞く。
「なにを?」
「お前が気になるってよ」
「恋だの愛だの、原もめんどくせえな」
そう言い手をひらひらと振り去って行った。
その姿を見て名前は原を探しに行った。
「あーやば、言っちった…」
誰もいない部室。
近くにある椅子を引っ張り出し座ると脱力した。
なぜ言ってしまったんだろう。
名前の驚いた顔が頭から離れない。
…午後はサボり決定、と独り言を言っているとなにやら音が聞こえた。
「原っ!」
ドアがすごい音をして開く。
ドアの近くには開けたであろう名前が肩で息をして立っている。
原はとっさに顔を見られないようにうなだれる。
「…なに」
はあはあ、と名前が息を整える音だけが部室に響く。
「言い逃げしてんじゃねえよバアカ」
「…なんで花宮のマネしてんの」
「わ、私も…原のこと好きだって言ってんの!」
お互いに時が止まるかと思った。
いや、原の中では確実に止まったのだろう。
原はゆっくり顔を上げ名前を見つめる。
まるで時が動いているのか確認するように名前を見つめた。
「うそ…?」
「なわけないじゃん、原じゃないんだし」
その言葉を聞くと原は、はは、と控えめに笑い名前に近づいた。
「バーカ」
原が名前を抱きしめ名前の肩に顔をうずめた。
もうこいつ俺のもんなんだ、と原はどこか冷静に名前のことを考えた。
「花宮の真似?」
「うん」
「似てないね」
名前がくすくす笑う。
それを止めるように原が抱きしめる腕に力を入れた。
「俺お前のことめっちゃ好き」
「うん、私も好き」
「じゃあちゅうしよっか」
体を離し原が名前の両肩に手を置く。
目閉じて、と口元のにやにやを隠さずに目線を合わせて言った。
有無を言わさない雰囲気に、思わず目を閉じる。
「はい、ちゅー」
その言葉が聞こえた後に優しい温かさが唇に触れた。
「…順番違くない?」
名前が目を開け目の前にいる原を睨む。
「まあ追い追い、ね?」
適当に流す原に先が思いやられるのだった。
(150315)
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