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注意*ちょっと胸糞 死ネタ

彼女は寂しかったのだろうか、火神は考えた。

毎日バスケに明け暮れる火神にいつも笑顔で接してくれた。
その優しさがあるから火神はバスケが出来ていたと言っても過言ではない。
名前の優しさに甘えていた。

「(俺のせいか…?)」

彼女は火神のせいで死んだのだろうか。
そうだとしたら申し訳ないでは済まされない。

映画やドラマでよく言うではないか。
あなたが死んで誰も悲しまないなんてあり得ない、と。

あんなにも普通の女子高生が、あんなにも笑顔だった名前が、早朝の少し寒い学校の屋上から突然飛び降りるだろうか。
飛び降りる前日の夜遅くまでバスケ部のマネージャーをしていた名前。
前日もみんなに元気で可愛い姿を見せていた。

火神が考えるのは名前のことばかりだった。
授業もバスケも、身に入らなかった。
授業中、ふと隣を見る。
それは名前の席だった。
持ち主がいなくなっても、机はあった。
よく名前の方を向いて寝ていたのを思い出した。
見られてる気分になるから前向いて寝てよ、と言われたが向きを変えることはなかった。
名前を観察しながらいつの間にか寝ていた、それがとても心地いいのだ。幸せだった。

火神はいつも通り名前の方を向いて寝た。
例え名前がいなくても、いつもの動きをすることであたかも隣にいるかのような気持ちになるからだ。

「名前…」

切ない声が出た。

そんな火神を静かに存在の薄い者が見ていた。

私、名字名前は火神大我という素晴らしい人とお付き合いしてます。
何が素晴らしいかいうと、バスケが上手くて優しくて不器用だけど一生懸命で、かっこよくて、お料理が上手で。あげたらキリがないです。
入学式でかっこいいな、と思って教室に行くと同じクラスで、しかも隣の席でした。
これは運命だ、と放課後ストーカーしたらバスケ部に入ろうとしていたので勢いでマネージャーを名乗り出たんです。
それからクラスでも部活でも一緒なので自然と仲良くなって、告白されて。嬉しくて涙が出ました。
「私も好き」って言ったらあの眩しい笑顔をくれて、抱きしめてくれたのです。
大我が大好きなんです。なんでこんなに好きなんだろう…。
なんか恥ずかしくなってきた。
でも、私が恥ずかしがり屋すぎて手を繋ぐのも恥ずかしいんです。
手は、頑張ればなんとか繋げる。でもそれ以上は考えることも恥ずかしい。怖い。
それで、手を繋ぐ以上をさせてくれない私のことをどう思っているのか気になるんです。
大我は優しいから何も言わないけど、それが逆に怖くて。
大我だったらなにされても大丈夫なんだけど、そこまで進む途中で爆発しそうで…助けろください、黒子くん。

…僕にさりげなく聞けってことですか、名前さん。

え!?いや、その…んー

聞いてきますから、待っててください。

ガタッ

え、今!?

ガタガタッ

早い、早いよ!…痛っ

早いとか遅いとかあるんですか?とにかく落ち着いてください。

毎日毎日、この人たちはなんなんだろう。

昼休みには名前さん、放課後には火神くんが恋愛相談をしてくる。
なぜ僕に相談してくるんですか。
火神くんは名前が可愛すぎてどうしようとか惚気しか聞かないですけど。
なんとか上手くいくように2人にアドバイスしています。
影ながら支えるのはバスケも恋愛も同じ。
2人に幸せになってほしい。

…って、少し前までは思ってました。
火神くんの惚気と名前さんの一途な思いを聞いているうちに、名前さんを好きになってしまったようです。
好きだと気づくと、もう気持ちが止まらなくなりました。
好きで好きでどうしようもないくらい。

まだ朝練も始まっていないある日の早朝、屋上に名前さんを呼び出しました。
もう冬だな、と思わせるくらい寒かったです。
屋上のドアを開けるとフェンスに手をかけ空を見上げる名前さんの姿が。
ああ、僕の名前さんが今目の前に。
風になびく髪、制服が名前さんにさらなる美しさを与えている。
僕に気づいたのか、こちらを見てにっこり笑う。

「名前さん…」

「どうしたの、黒子くん」

その笑顔は僕だけのものだ。

「僕はあなたのことが…好きだ」

「え…」

名前さんは心底驚いた顔をしている。
そんな顔も可愛いなあ。

「黒子くん、私は…」

プルルルルル

スマホが鳴る。
名前さんが慌ててポケットからスマホを取り出し電話に出た。

「た、大我?どうしたの?」

どうやら火神くんが体育館にいない名前さんを心配してかけてきたようです。

名前さん、と電話中の彼女に近づき耳元で呼べば後ずさりをする。

カシャン

フェンスに彼女の背があたる。

「早起きしたから屋上で空見てた、」

電話中の隙だらけな名前さんにそっと近づき僕の唇を彼女のそれと重ねれば、彼女は目を見開く。可愛い。

寒いから早く体育館来いよ、とスマホから火神くんの声が聞こえ我に返った彼女は、すぐ行くね、と言って電話を切った。

立ち去ろうとする名前さんの腕を掴んでフェンスに押し付け、首筋に僕の印をつける。
すると名前さんは恨めしそうに僕を見て言ったんです。

「だいきらい」

なぜ?
その日の朝練は屋上で過ごしました。

それから1週間後、屋上に朝早くに名前さんから呼び出されました。
屋上のドアを開けるとやはり名前さんがいた。

あの日とは違い今日はよく晴れていて、空気が美味しかった。
なにより日差しが後光のように差し込む名前さんが美しい。

僕と目があうとにっこり笑って僕を手招く。
はやる気持ちを抑えきれずに走り目の前に行くと、名前さんの顔が近づいてきて。

キスかと思えば耳元で囁かれて。

そして笑顔のまま後ろに下がり、

落ちた。

重力に従ってすうっと地面に吸い込まれるように落ちて行く。
とっさに僕がのばした手は空気を掴んでいた。

せっかく両思いになったのに、

私はある男の死を望む。

(150311)
恋は盲目で耳にまでフィルターがかかってしまった黒子
穢れた彼女は火神に愛してもらえないと考え自殺
火神はそれを知っても必ず愛すがすれ違う
3人中2人が病んでます
アジテーション :
強い調子の文章や演説などによって人々の気持ちをあおり、ある行動を起こすようにしむけること。扇動。アジ。
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