小説 | ナノ

▼ やさしいひと

注意*ちょっとホラー

凝った肩をぐるぐる回しながらドアへ歩く。
今日もお疲れ名前!帰ったらアイス食ーべよっと。
脳内で自分を労わる。
少し虚しいけど自分を褒めるのも大切だよねー
そう考えながらドアに手をかけた。

バタン
目の前でドアが閉まった。

「え、」

思わず声がでた。

「ちょ、あのーまだいますけどー」

ドアに向かって話してみる。
状況が掴めない。普通人いるか確認してから閉めるよね?

ドアもドアの向こうも、なんの音もしなかった。

閉じ込められたの…?
私お腹空いてるんですけど
てか確認しないですぐどっか行っちゃうとかちゃんと仕事してよー
鍵閉めた人仕事面倒くさがりすぎ
ぐるぐる考えた。

「おい」

声がした。
生憎ドアの向こうからではない。
ということは、

「ドアしゃべった?」

「ドアじゃねーよ。後ろだ後ろ」

ベシッと後頭部を盛大に叩かれた。
ひどい。痛い。
というより、

「青峰くんじゃん」

「ああ」

なぜこんなところにいるのか名前が問うと、さつきにバレたらうるさいから、と言った。

それよりスマホねえのか、と聞かれ名前がいたるところのポケットを探す。

「ないや…」

「チッ」

青峰が舌打ちをする。

「私部活中だったからスマホなんて持ってなかった、ごめん」

「まあ誰か助けに来るだろ」

「…来るかな…」

不安がる名前を青峰がちらりと見た。

あー、と青峰が空、もとい天井を見上げ少し考え込む素振りを見せる。

「大丈夫だ、俺がいんだろ」

安心しろ
そう言い名前の髪を撫でた。

怖い顔して優しいなあ、と名前はふわふわした気持ちになった。

「寒い」

やばい、気を抜いて独り言を言ってしまった。
私って独り言多い方なのかもしれない。
家でよく言ってる気がする
思わず声に出てしまった。

気づかれないように青峰の方を見ると名前の独り言を気にしているようだ。
先程からなにかしたほうが良いのかとそわそわしている。
あああごめん青峰くん、そういうつもりで言ったんじゃないの
つい出ちゃったの

「こっちに、来るか?」

照れくさそうに後頭部をかきながら自分の隣をぽんぽんと叩いた。

「…良いの?」

「良いから言ってんだろ」

怒ったように言うものだから、こっちもむっとしそうになったけれど、寒いからそっちに行こうかな。
ありがとう、とお礼を言って立ち上がった。

不器用なのかなあ、
青峰の顔を見たが目は合わせてくれなかった。

お言葉に甘えて隣に体育座りしてみると、床はやっぱり冷たかった。

「青峰くん」

「なんだよ」

青峰をつんつんとつつくと、うっとおしそうにこちらを見た。

「なにか音がしない?」

「はあ?…しねえよ」

青峰が静かな空間に耳を傾けるが聞こえないようだ。

「するじゃん。こっち…早く…って」

「あー聞こえねえ聞こえねえ」

青峰が耳を塞いだ。
なんとなく顔色が悪い。

「…怖いね」

「俺は別に怖くねえよ」

そう言いながら周りをきょろきょろ見渡した。

「(面白いなあ)」

「うっそだよー」

「はあっ!?テメエふざけんじゃねえぞ!」

嘘、と言うと青峰はギロリと睨み塞いでいた手を離し名前の肩をがっちり掴んだ。

「遊んでる場合じゃねえだろうが!」

「ごめんごめん」

はははー、と笑い謝まる名前にはあ、とため息を吐いた。
すると青峰は立ち上がりドアに近づいた。

「…実は開くんじゃねえの?」

ドアに手をかけるとガチャンと音がした。
本当に閉まっているようだ。

「…」

「チッ」

青峰が舌打ちしドアから離れようとこちらに向く。
するとドアから音がした。

ガチャガチャ

2人は顔を見合わせた。
誰か気づいてくれたのか。
そう思い名前も立ち上がり青峰の隣に立ちドアを見つめた。

「誰だか知らねえが早く開けろ」

青峰がドアに向かい話しかける。

「開けてくれるのに口悪いなあ」

そう言い苦笑いしながらドアが開くのを待っていると、ガチャガチャという音がやんだ。

「…?」

2人はドアに近づいた。
なぜ開けない?


「そこにいるの…?」

「なっ」

「!?」

誰だ!?
おかしい、なにかがおかしい。
女なのはわかった。理解した。
生徒?先生?いや違う。

なぜ少女の声がするのだ。

幼くて可愛い、舌足らずな子供の声だ。
おとなしい子なのか、声は小さい。
しかし静かなこの空間に異様に響いた。

ガチャガチャガチャガチャガチャ

ドアが悲鳴をあげるかのように鳴る。
ドアをガタガタさせながら「そこ?そこにいるの?」と少女は言う。

「あ、青峰くん…」

「…」

青峰と名前はどちらからともなく手を握った。
怖すぎる。
密室にパニックが起こりすぎである。
しかし少女は鍵は持っていないようだ。
ここは外からしか鍵はかけられない。倉庫なのだから当たり前なのだが。

青峰は繋いでいる手を自分に近づけ、名前を呼んだ。
そして少女に聞こえないように小さな声で話し始めた。

「俺がドアをブチ破る。
良いって言うまで目開けんなよ?」

「わかった…」

名前が頷き目をぎゅっと閉じるのを確認すると、青峰は繋いでいる手に力を込める。
ドアを蹴破るのにちょうどいい位置まで移動した。

落ち着きなく浅い息を繰り返す2人に、少女は追い討ちをかけるかのように言った。

「逃げ場はないから安心して?」

嬉しそうに笑う声が聞こえた。

「名前、ドアぶっ壊したら走るからそのつもりでいろ」

何度も頷くと青峰は繋いでいない方の手で名前の頭を撫でた。

「!?青峰くん」

「大輝」

首をかしげると青峰が優しい声で言う。

「大輝って呼べよ」

「だいき…」

「おう」

もう一度名前の頭を撫でて前を向いた。

耳を塞ぎたくなるような大きな音が近くで聞こえた。
バキッと音がすると青峰が「走るぞ!」と叫び手を引っ張った。
青峰に遅れないように必死に足を動かす。
息があがっても気にしていられなかった。

「目開けろ」

青峰の間隔の短い息と声が聞こえた。
素直に目を開けると、目の前には校門だった。

「なんとか撒けたぜ」

肩で息をする青峰に、ありがとう、と必死に呼吸を落ち着かせながら答えた。
2人とも緊張のせいか、汗をかかない距離のはずが滝のような汗を流していた。

翌日、朝練に行き今吉や桃井に話したが誰も鍵を閉めていないと言った。
誰が閉めたか、部員に聞いても誰も閉めていなかった。

誰が閉め、あの少女は誰だったのか。
知らず知らずのうちに条件を満たしてしまったのか。

誰も知らない。

(150310)
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