小説 | ナノ

▼ 暗闇迫る

日曜で部活もなし。
よし、今日はデートだ、と思ったのだけれど

「ワリ、数学教えてくんねえ?」

と電話で言われたら私の予定なんて消え去った。
しかも日曜の朝6時に電話してくる、この男。

母に「学校に行くことになった」と言えば「デートは?」と言われたので「…校内デート」と言っておいた。
母の作った朝食を食べながらニュース、もとい天気予報を見ると、雨。

「なん、だと…?」と言えば「カサ持って行ってね」と母。
「…行ってくる」としぶしぶ家を出た。

「君、今日雨ということを知っているのかね?」

「は?」

なぜこの男は手ぶらなんだ。
いや、カバンは持っているが。
降っているのかわからないくらいの雨でもカサを差してきた私が靴箱に行くとすでに上履きの火神と会った。

カサ入れにカサを差し、上履きに履き替えながら言う私をさりげなく待つ火神は優しくてキュンとするのだけど、カサを持ってこない火神にはキュンとなどしない。
教室に行くまでの短い間だというのに手をどちらからともなく繋いだ。

私が自分の席に着くと火神は前のイスを180度回転させ座った。
机一つ挟んで虎と向かい合っている。
「…近い」

「恥ずかしがんなよ。俺まで恥ずかしくなるから」

私が癖で足を組むと足がぶつかった。

「いや、足がぶつかってなんかやだ」

「名前が足組まなきゃいい」

まっいいや、と思いながらカバンから数学を取り出した。

「で、どこがわかんないの?」

「あー…集合みたいなやつ」

待て待て、最初の方に習うやつじゃないか。

「それ私めっちゃ得意なやつ」

「まじか!教えてくれ」

教科書を持って集合のページを探す。

「よかろう」

「いやなんで上から目線」

「今日は私のが偉い」

ははは、と腕組みをして火神を見る。

「…」

なんだこいつ、という目で見られたが放置して勉強を始めよう。

「だーっ!疲れたー」

火神がシャーペンを置いてグイッと両手をのばす。

「お疲れ、バカガミ」

にっこり笑って飲み物を渡す。

「バカは余計だ!」

やっと、やっと終わった。
一つ目は出来るんだけど、二つ目を教えると一つ目がわからなくなる。
火神の頭の容量が少ないせいでこちらが疲れるわ。
帰りにどこか寄ろう、と言おうとしたら、良い子の鐘が鳴った。

「もうこんな時間かよ」

と火神が言い「早いね」と言った瞬間ーーー…

ザーーーーッ
なんの、音?
2人して顔を見合わせた。

「大我…」

「…おう」

2人でバッと窓を見る。

…空が真っ暗だ。
そして土砂降りの雨。

「…すげー降ってる」

「大我クン…どうしますか」

「…」

2人で呆然とした。
だってさっきまで晴れてたよ。
とても空気が美味しかったよ。

「今カゼひいたら…」

「カントクに殺される…」

2人で真っ青になった。

どうしよう。雨止んでくれ。
私は窓に近づいて開け空を見上げた。

「雨止んでー!大我と下校デートするんだから」

「おまっ、そっちかよ」

と言いながら隣に来る火神。
顔が赤い。

「…照れないでよ。
大我もお願いして!」

火神を見るとこちらを見た。

「照れてねーよ!
…カゼひきたくねーから雨止め
あとデートしてえ」

「ちょ、恥ずかしいなあ。あっち行け」

「今日名前なんかひどくねえ?」

「知らん」

私は朝からデートしたかったんですー、と言うと、悪いな、と頭を撫でられた。

待つこと5分。
窓についている手すりに肘をつき空を見ているとなぜか晴れてきた。
イスに座ってぼーっとしている火神を振り返る。

「大我っ!晴れております!」

「おお!チャンスだ、帰るぞ!」

オッケー!と返事をしながら2人で荷物を片づけ廊下に出る。

「どこデートしますか、大我クン」

「あー、腹減った。マジバ」

「またかよー。和なものが食べたいよ、名前サンは」

私はバスケ部じゃないんで毎日マジバとか太ります大我クン。

「そういや、昨日マジバのCMで抹茶のスウィーツ?とか言ってたぞ」

「まじっ!?行くわ」

自然と早歩きになる。
もはやスキップだ。
すると火神がため息を吐いた。

「…単純だな」

「早く、大我っ!」

自然と繋いでいた手を引っ張れば、火神は答えてくれる。

「わかったわかった」

引っ張られながら呆れた顔で火神が笑う。

「今日は大我のおごりで」

「まあ数学教えてもらったからな」

サンキュ、と言い火神が手に力を込めた。

「わかってるねえ、大我クン」

そうと決まれば早く!
2人でマジバまで走った。

(Lovin'you!)
(150309)
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