小説 | ナノ

▼ 夏に負ける

夏休み
模試のためにわざわざ制服を着て午前中から学校で試験を受けた。
教室は人口密度が高いとはいえ、エアコンが効いているので涼しいほうだった。

だが下校は違う。
外であるために太陽の光を直接浴び、肌がじりじりと焼けるのを感じる。
なぜ1番暑い時間帯に帰すのだ。
模試は面倒だったが教室が恋しかった。

夏というものは残酷である。
私を溶かそうと頑張っているからだ。
なにが楽しくて私を溶かそうとするのだ。
おいしいのか、人間が溶けるとおいしいとでも言いたいのか夏っ…!

名前は心の中で叫んだ。

「これ溶けるやつじゃん、夏。今年こそ溶ける」

「るせーな」

青峰がダルそうに言った。

温暖化よ、止まってくれ。
そしてこの隣のやつをどうにかしてください。

こんな夏に名前の隣のやつなんてまあ仲よろしく恋人繋ぎなんかしているのだ。
地球に頼みたくもなるだろう。
どちらの手汗かもはやわからないくらいびっちょりとしていた。

「手を離していただきたい。手汗やばい」

「今さらなに気にしてんだよ、おら」

と言い青峰は今まで緩く繋いでいた手をぎゅっと強く握り、さらに隣にぴったりくっついてきた。

「大輝頭おかしくなったの?」

あ、もともとか、と呟いたが返事がない。
暑くて話すのも面倒らしい。
だったら手を離せば少しはマシなのに、そう思ったがやめておいた。

繋いでいる手を見る。お互いの手汗で滑る。この触り心地はなんだ。
もう早く家に着いてほしい。

名前が願っていると大輝の隣にはオアシス、もといコンビニがあった。
寄らない選択肢はないよね?と名前は思い素通りしようとする青峰を隣から押してコンビニに入った。

「はーすずしー」

1歩入れば天国だった。
もうここに住もうと決意したくらいだ。
思いながら店内をぶらぶらしていると青峰にアイスの売り場まで引っ張られ、アイスを2つ取りレジに並ぶ。

行動早いなあ、とぼんやり見ているともうお金を払ったのかドアの方へ足を進め始めた。

「え、もう外ですか!?」

必死に繋いでいる手を引っ張る。

「いいから来い」

余裕で力負けして外に出た。

あついあつい。
茹であがるかのごとく暑い外はまったく太陽は沈んでいなかった。

「口開けろ」

そう言われて思考は回ってくれなかったが青峰が無理矢理口を開けてくれた。

すると冷たくて大きなものが入ってきて、アイスだとわかった瞬間名前の目が輝いた。

それをシャリ、とかじって繋いでいない方の手でアイスの棒の部分を持った。

「冷たい」

にこにこしながらシャリシャリ音を響かせる名前を見た青峰がフッと笑い自分も棒を持って歩き出した。

行き先は家だ。
おそらくのろのろと歩くだろうからあと15分はゆうに外に出ている。
青峰の優しさに甘えアイスを食べながら軽い気分で歩き出す。
もちろん手は恋人繋ぎのままだ。
青峰の熱い手が名前を先導する。

「あちいな」

「うん」

そう返したが先程よりは暑くない。
暑さより嬉しい気持ちが勝っているからだ。

「おい名前」

「なに?」

「アイス溶けてんぞ」

えっ、と声をあげる。見るとアイスが手にかかっていた。これはベトベトだ。

「早く、早く帰ろう」

2人は早歩きで帰るのであった。

(150308)
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