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▼ 一緒に過ごしたい

休日
今日は前々から約束していた今吉の家に泊まる日。
お昼から2人で夕食や身の回りの買い物した。

途中、なんだか新婚さんみたいやなあ、と今吉に言われて恥ずかしがったので荷物を全部持たせておいた。

ご飯とお風呂を終え、名前はリビングのソファでゆっくりテレビを見ている。

ガチャ、と音がして、洗面所のドアが開いた。
今吉がお風呂からあがったようだ。
乾かしたばかりの髪を手ぐしで整え歩いてくる。

名前の後ろに立ったところで両手を肩に置き、満面の笑みで名前の顔を覗き込んだ。
こういうときの顔は良からぬことを考えているに違いない。顔が引きつった。

「なあなあ、ホラーゲームせえへん?」

「え…遠慮します」

やはりそうきたか、とうなだれた。

「ちょっとだけ、な?」

隣に今吉が座った。
今吉から離れようと反対側に動くと、グイッと手を引っ張ぱられ今吉のぴったり隣に移動させられた。

「ちょっと、手を離して。」

「ええやろ?」

至近距離で微笑まれたら、うんとしか言えなかった。
お風呂あがりのせいか握る手が熱い。肌もいつもより火照っていて色っぽい。

ちゃっちゃと用意する今吉をぼーっと見ていた。

「ほい」

コントローラを受け取る。
あんまりゲームやったことないから動かし方わからないんだけどなあ、と思いながら探り探りボタンを押した。

不気味なBGMが部屋に広がる。
ゲームが始まったようだ。

…薄目で見よう。

「自分なに薄目にしとんねん。ちゃんと見い。」

さっきから何回も主人公が死んでいる。
全体的に暗くてよく見えないし、建物の構造が複雑で覚えられなくて同じところを何回も行き来している。
その度今吉が「ぷくくっ」とか変な声で笑うからなんだかもう嫌になってきた。

もうやだー、と内心愚痴をこぼしながらコントローラを操作する。

「ほら、後ろから来てるで」

そう言われて画面をよく見れば、主人公が後ろから襲われている。

「わっ!」

必死に敵を振り払っているがなかなか離れてくれない。

「(なにこれ、どんどん体力が…)」

「ただ振り払うんはダメや、方向キーとAボタン押してみ」

今吉に言われた通りに動かしてみると簡単に撃退出来た。

「あっありがと」

「どういたしまして」

足の上で頬杖をつきにっこりする今吉。

「(なんか今日の今吉妙にかっこいい)」

なんだか恥ずかしくなったのでコントローラを適当に動かした。

「あっ」

「?今吉?」

なに?と今吉を再び見る。

「死んだで」

「えっ」

今吉が画面を指差すので画面に目を移すと赤い文字で「YOU DEAD」の文字が浮かびあがっていた。

「あああ」

「俺に見惚れてゲームほっといた名前が悪いなあ」

隣からくすくすと笑い声が聞こえる。
気付いてたのか。顔が赤くなる。
恥ずかしがったので誤魔化すために話しかけた。

「主人公すぐ死ぬね」

タイトル画面に行きもう一度始めようと動かす。

「名前が操作下手なんやて」

貸してみ、と名前からコントローラを奪う。
慣れた手つきで今吉が「初めからスタート」を押した。

「怖がってちまちま動いてたら埒あかんやろ?せやから、」

と区切って主人公を動かす。
すたすたと歩いている主人公。そこに敵が現れる。

「うわっ」

「なんでやってない名前が驚いてんねん。ここでこうや」

敵の攻撃を避けて後ろから敵を倒した。

「早いね」

「まあ1回クリアしたしなー」

そう言いながらさくさく進めていく。
私の2倍くらい早い気がする…。

「お、鍵ゲットや」

キランと光っているところでボタンを押して拾うと鍵と表示される。

「おー!もう帰ろう!」

「まだやって」

どんだけ怖いん、と半ば呆れながら言われる。

いや、やろうって言ったの今吉だからね!有無を言わさずやらせたよね!

今吉に目で訴える。すると何を思ったかコントローラを渡してきた。

「わし名前がやってるの見る方が好きやわー
あと頼むで」

ぶんぶんと首を振って否定する。
もうやだよ!

「無理無理無理!今吉やって!」

「大丈夫やて
あとボス戦だけやし」

「なんかあったらわしがやったるから、」

な?
そう言い画面を見る。


そのあと、名前と主人公の叫び声と今吉の笑い声で夜は更けていった。

最終的にしゃーないなあ、と言って名前の肩を抱くような形でコントローラを操作しさくっとボスを倒すのであった。

「(気疲れした…!)」

(150307)
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